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ぼくが彼女の声に出会ったのは、今から五年前の夏のことだ。
その頃ぼくは十八歳で、高校を卒業して間もなかった。希望の進学先へ進み、学問の研鑽に励む。暇さえあれば、親しい友人と馬鹿みたいに遊ぶ。一見すれば、充実した学生生活の典型だ。
けれど、そんな生活を繰り返しているうちに、いつからか、言い知れぬ不安だけを漠然と感じていた。
どうしてぼくは今こうしているんだろう。おかしいことかもしれないが、ほぼ毎日、必ず一度はそう考えていた。自分の将来に対する反骨精神、と言うには多少大袈裟だが、それでも時折感じる形の無い気持ちは日に日に強くなっていった。
そんな時、ぼくは彼女に出会った。
いや、出会ったとは言っても、正確にはちゃんと顔を見たわけではない。最初に知ったのは、彼女の声だけだ。
きっかけは、CDショップで彼女のデビュー曲を聞いたとき。そこでやさしく響いたイントロを、ぼくは今でも覚えている。
ピアノをベースとした曲調と、彼女の独特の歌声が、四、五分しか存在しない世界で紡がれていく。その中で、ぼくの心臓が、曲に合わせて四拍子を刻み出す。
気が付けば、ぼくは彼女の世界の虜になっていた。CDショップのど真ん中で一人、その場に立ち尽くしていた。胸の温かさは収まるどころか、少しずつ音もなく高揚する。人が疎らに存在する狭い空間で、ぼくだけが違う世界の住人になってしまったかのような――。
うまく言葉で言い表すのが難しい。
だけど、それでも。ぼくは一つだけ、心の底から願った。
――もう一度、彼女の歌を聴きたい。