一人と一体
アラタは洞窟の中を慎重に進んで行った。しかし、いくら進んでも終わりが見えてこず、そのまま進むこと数十分、段々洞窟の通路の幅が広がり天井に空模様が見える大きな穴が開いたちょっとした広場を発見した。そのときは、太陽がまだ洞窟に入るときの場所と変わっておらず、いくら進んでも終わりが見えてこないため、そこでいったん休憩して、また進むことにした。
しかし、いつのまにか俺は寝てしまい、微かに地面が振動している音で目を覚ました。立ち上がって逃げようとはしたものの、揺れが大きくなるにつれて足元がおぼつかなくなり、立っていることも困難になりその場に座り込んでしまった。
揺れは等間隔で迫っているような気がする。アラタも馬鹿ではない、それはおそらく大きな魔物であるということは分かった。
そして、予想通りそのモノは角から出てきた。凄まじいという一言、そしてやはり自分は死ぬんだとも想像できた。だが、予想に反してなかなか襲ってこない、それどころか頭の中に声が響き渡るのだった。
『小僧、人間の子供だな?』
「……」
こいつしゃべったあぁぁ!ひぃぃぃいぃぃぃぃぃいぃぃぃ
『ん?何だ小僧、妾に何かついておるか?おーい…小僧!』
「はっ!あ、あ、あ……」
『なんじゃ小僧、もっとハッキリせい。何が言いたいのかわからんぞ』
「ひぃぃ!」
『ん?ああ、これをこう抑えれば何とかなるか?ふむ?これでどうじゃ?』
自問自答で何かを理解したらしきそのモノは段々と存在感がさっきよりも小さくしていった。これでようやくアラタも、何かしゃべることができるまでになった。
「…」
さっきのような緊張感は消え、ただのでかいドラゴンがそこに佇んでいた。そう、目の前にはドラゴンがいたのだ。
『で、小僧お主何者じゃ?碌な武器も持たず、あいつらの言っておったように弱そうじゃな。わしを討伐しに来たのか?』
「い、いえいえもう滅相もない!そんなことしに来たんじゃない…です」
言葉を交えながら身振り手振りで、俺は無害を必死に伝えようとする。
『おお?お主のしゃっべているのが何語か知らんが、お主が無害は分かった……ううん、ではまず最初に聞こう、お主ここの人間か?そうなら、首を縦に振れ、違うなら横に振れ…』
興味がわいたと言わんばかりに、長い首をぐっと俺の顔を近づけてくるこのドラゴン。
ここのとは、おそらくこの世界のという意味だろう。
俺は思いっきり、首を横に振った。それを傍から見ていれば壊れたのかと言わんばかりの勢いだ。
『お、おお……そうか、なら≪念話≫以外に意思疎通ができないんじゃ面白くないのう。妾がこちらの言語を教えてやってもよいぞ?ちょうど妾暇じゃし?ん?どうだ?ん?』
ぐるると唸りながら聞いてくるドラゴン。
それを断ったら、どうなるかわからない。しかも断らないだろうと、キラキラした目で見てくる、いやこのドラゴンの場合はギラギラと言ったほうがいいだろう。
そう思った俺は、今度は首を縦に思いっきり振るしかなかった。
『おお、そうかそうか!教えてもらう気になったか!まあ、暇じゃから教えてやるのじゃぞ。あ・く・までも暇じゃからじゃぞ!いいか分ったな!』
だが、それを気にした様子もなく、そのモノは体格に見合わずとても満足そうに喜んでいた。それはまるで、お気に入りのおもちゃを見つけた子供のそれと似ていた。
とにかくドラゴンが機嫌を損ねなかったことを見て俺はとりあえずのところは安心していいだろうと安堵した。
頭に響く声は明らかに目の前にいる者からだったが、それはどういうわけか日本語だったことが一番の幸福だろう。もしほかの言語でわからなかったら意味も分からず、その場で死ぬ可能性だってあったのだから。
『そうじゃな、妾の名前を教えといてやろう!我が種族はエンシェント・ドラゴン、その名はヴィキュリエじゃ!よろしくな!それ、そっちもじゃ!挨拶ぐらい念話を使えばできるであろう?』
大きな巨体がそれ!それ!と急かしてくる。でも、いまサラッとすごいこと言ったよね。エンシェント・ドラゴンだよ、ドラゴンなのはわかっていたけれど、この世界ってこんなのがホイホイいる世界なの?神様ここ町に近いって言わなかったけ?これは参ったな、質問はたくさんあるんだけど念話スキルというか意思疎通できるスキルできないし…
『おお?……もしかして小僧、この念話スキル使えないのか?妾の声が聞こえているなら適性があって使えるはずじゃが?どうじゃ、念じてみれば使えるはずじゃよ?』
そんなこと言われてもなぁ。出来ないものはしょうがない、そう切羽詰まりながら諦めかけていたとき
【規定条件パターンNo.42を満たしたため、≪トランセンド≫が発動。≪共鳴≫を習得しました】
なんか意思疎通できそうなスキルを獲得したけど、パターン42ってなんだろう?まあいいか後でステータス見れば。
【≪共鳴≫の発動を確認、これより特定条件で≪念話≫が使用できます】
『あ…あ…テステス…聞えますか?』
『おお!(ん?これは妾の魔力を使っておるのか?)聞こえとるぞい!』
何とか成功し、一息つく。
『では改めまして、とりあえず異世界出身のフジモリ・アラタです。種族は人間だと思います。年齢は13歳です』
『んん……なんかその言葉遣いは使われると気持ち悪いのじゃが、それが標準か?もっと素でいいのじゃよ?どうじゃ?無理か?』
そんなこと言われても、いきなり素でいいとか不安しかないんだけど。
『まあそちらが仰るなら...えっと、これでいいかヴィキュリエさん』
『硬すぎじゃ、もうちょっとやわらかくて良いのだぞ?』
『そうですか…いや、そうか?ならこっちもこっちで嬉しいのだが。いいのか?』
『構わぬ、そして妾をキュリエと呼ぶがいいぞ!そっちの方が友達っぽいしな!』
『うん、じゃあこれからよろしくねキュリエ』
ドラゴンの表情は分からないが、すごくうれしそうな感情が念話で伝わってくる。そこまで、嬉しかったのかこのドラゴン。最初の印象だけで驚いて損したな。なんかいい奴っぽいし、言語のこと以外もキュリエなら煽てたら嬉しそうに教えてくれる気がする。他に友達がいるなら、初対面の人間にこんなに好意的だとは思わない。それともこのキュリエが特別なのか?
ドラゴンと少年はこうして出会った。
とりあえず書き溜めなくなったので、また溜まったころに投稿します...ご了承ください...