森の探索
アラタが今いるのは転移してきた森の中にある小屋の中だ。
改めて、脱衣所の鏡に映る自分の姿を見る。今の髪は黒ではなく、あの神のような銀色で顔は元の面影を残した顔つきだった。この世界では童顔の部類に入るだろう。
体も華奢で、戦ったことがないのは一目瞭然だ。まあ、元々が日本人なのでしょうがない気もするが。
今、自分の着ている服は白いというより少し黄色がかった長袖のシャツと茶色の短パンの上に黒色のフード付きローブだった。それと腰にはショートソードが一振り装備されていた。ローブ抜きだと、ショートソードを持った平民に見えるだろう。ローブは結構分厚く重たく見える。が着ている分にはローブは思った以上に軽い。早速新しいスキルを使う場面がやってきたと、スキルを発動する。
「スキャン」
レベル1のため15秒かかったが、特に急いでいるわけではないので結果が出るまで待った。これが戦闘中だったら、とても長く感じただろう。
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【神作のローブ】(常時隠蔽)
(一般的な黒色のローブ)
エンチャント:重量軽減、
魔力吸収(中)
消臭
隠蔽Lv.MAX
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隠蔽と重量軽減のほかに、消臭や魔力吸収がついていることに喜んだ。流量軽減以外のエンチャントの意味は分からないが、その内わかるだろうとその場は一旦保留にした。ただ、このローブは普通に買えばものすごく高いとは予想できた。追剥に合わないための予防策として隠蔽して一般的なローブにしていることが分かった。隠蔽のレベルがいくつまであるか知らないが、最大となっているのはさすが神様といったところだろうか。
その他、シャツ、ズボン、剣には何もエンチャントされていなかった。
さて、最初にやるべきことは、やはり本と一緒に神様からもらった手紙を読むことだろう。
手紙に書いてあったことは要約すると
・どの森も結界に覆われていて、森によって出入りするための力が違うということ。
・中に生息する魔物が強いほど、結界は強くなる。魔物が出てこられないようにするための物だということ。
・森を出るには、強い個体を倒せば結界が弱まるということ。
・結界の理論を利用して森に引きこもる知的な魔物もいるということ。
・森を出るにはそれなりの実力がいるし、入ってくるのにも同様だということ。
・それなりの実力者でないと森には近寄らないということ。
・時たま森には盗賊などが住んでいるということ。
・森を出れるほどの実力を身に着けたら、それを苦をせずに結界を抜けることができるまで森にいて欲しいということ
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などと、森のこと以外にも色々なことが書かれていたが、今は割愛しよう。
次にやるべきことは、今この家にある物を書き出していくことだろう。
小屋の中にあったものを確認して、メモしたものが以下
脱衣所:歯ブラシ×1、コップ×1、シャンプーなどの洗剤×数種類、かご×2、洗濯板×1、桶×1
キッチン:平たい皿×5、コップ×5、鍋×1、食器洗剤×1、たわし×1、スポンジ×1
部屋:神様からもらった本×数種類、神様からの手紙×1、テーブル×1、椅子×4
押入れ:布団×1、座布団×4、長袖のシャツ×5、茶色の短パン×5
玄関の傘入れには鞘に入った剣が3振り無造作に入っていた。
そういえば、最寄りの町を聞かずに地上に降りてしまったアラタだったが、今のところは町に行かないので町のことについては保留にしておくのだった。
手紙の次に本を読むべきかと考えたアラタだったが、本は夜にでも読めると思い今は外に出て森を探検することにした。
幸い今はまだ昼に近い朝というような時間帯で、マップを使えば問題なく帰ってこられるだろうと思い、剣一本を腰についている鞘に差しローブを羽織って外に出た。
まずは、家を出た所で周りに脅威がないかレーダーで確認する。
「レーダー」
ところが、今の所レーダーに映る敵影は無いということで改めて、行く当てもないし、少し遠くに木々の間から見え隠れする岩山を目指して行ってみることにした。
10分ぐらい歩いただろうか、さっきから見ている木の種類と明らかに違う種類の木を見るようになってきた。その木には緑色の実が生っていた。
見た目は桃のようだが、全部が全部緑色だった。またしても、あれの出番だな。さっきとは異なり、念じてみる形で、スキャンを発動してみたが、成功したらしい。
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ブロスク
鮮やかな緑色の果実。
森の奥地に生い茂るため滅多に市場で見られることはない。
ジャムにして食べるのが一般的。1つでも新鮮なまま売れればそれなりの財産になる。
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何でこんな希少価値の高いものがとは思ったし、森の奥地という部分が微妙に引っかかりはしたものの俺は食欲に負け食べて見ることにした。
「う、うまい!」
やはり、説明通り売れば一財産になるような味だ。こんなものが家の近くにあるなんて、なんて幸運なんだろうと感じた瞬間だった。
だがその実の味のせいで、森の奥地がどのような意味を成すか考えるのをやめてしまった。これが後で災いとなるのをまだアラタは気づかない。
正午を過ぎた時間帯だろうか太陽が西向きに傾き始めたころ、お腹いっぱいにブロスクを堪能したアラタはシャドウと唱えながら、何個かの実を地面に映る自分の影に投げ入れた。
そして地面に落ちること無くそのまま影に飲み込まれていった。これは後で知ったことだが、影に入れたものは一定時間経っても入れたときの状態と変わらないと気付いた。
森に入ること数時間、家より結構遠くに来ているが、なかなか岩山にたどり着かない。しかし、ソナーを使っているうちに段々大きな物体に近づいていることに喜ぶ。しかし、まだ森に入ってから魔物に出会うことはないため、緊張しながら進む。
幸い、マップでも敵影は確認できなかったがいつまでもマップを頼りにしていては身に着く感も身につかない。そのためマップは一旦解除していた。
「ようやく抜けたか……お、ここは」
ようやく森を抜けた目的地に着いたことに安心しつつも初めてその大きさを目の前にして驚きながらも興味を示し、それに目を向ける。
「目的地はここで合ってるな…すげぇ大きな岩山だな。ん?これは……洞窟か?入ってみるか!」
目の前には、全長20メートルを超える大きな穴が岩山にできていた。意気込んで入る決意はしたものの洞窟の大きさに気圧されて
「モンスターとか出ませんように。ホントに出てこないで下さいよぉ」
さっきの威勢はどこに行ったのか、涙目になりながら腰に差してあった剣をバットのように構えつつ、生活魔法の『光』を出しビビり腰でそろーりそろーりと洞穴の中を進んでいくアラタだった。
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