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乙女心は悩ましい

作者: 笹峰霧子

 人間の付き合いで三角関係というと嫌な予感がする。

なぜかといえば、そういう関係にかなり遭遇して、はじき飛ばされる側になったからだ。

 自我が芽生え始める思春期の頃の交友関係から始まって、大学時代、結婚して子供ができてママ友との付き合い……、その辺りまでは、そうそうあるある、そんなこと、と思ってもらえるかもしれないが、人の気持はどうも年齢には関係なさそうだ。

 

   ▽

 

 その時の焼きもちはすごかったらしい。

 私は相手からライバル意識をむき出しにされてやっと気が付いたくらいだが、話しに聞いた所によると、私の下宿へ行くなと、レポート用紙は二階のベランダからまき散らされるわ、丹前の袖は引きちぎられるわで大変だった、と純ちゃんは私に話していた。

 

 嫉妬していた子は山口百恵似の男子にもてるタイプの女子学生で、実を言うと私も仲間入りしたかったのだけど、純ちゃんと愛子ちゃんは二人だけで仲良くしたかったらしい。


 

 或る日 私の下宿の家主のお婆さんが血相を変えて帰ってきた。

「あー、よかった。あんたじゃなかったんやな。あそこの畑で掴み合いしてる子らがいたんや。あのいつもあんたの所に来る純ちゃんて子と、もう一人いたから、てっきりあんたかと思うてびっくりして急いで帰ってきたんや」と息を切らして話し続けた。


 はぁ~?私はお婆さんが何を言ってるのやらさっぱりわからなかった。

 後日純ちゃんから事の次第を聴いたところ、、試験勉強で解らない所があったので私の下宿に来ようとしたら、純ちゃんに行かせまいとして追っかけてきた愛子ちゃんと掴み合いになってしまったということだった。


 私はふたりよりもずっと年上だったので恋愛も失恋も経験していたから、高校を卒業したばかりの乙女チックな気分はとっくに卒業していた。

ただ同じ年頃の友達がおらず寂しかったので、年下の純ちゃんが優しくしてくれるのがうれしかっただけだ。


 

 そういうことがあってから、純ちゃんは私の所へはいっさい近寄らなくなっていたが、珍しく純ちゃんが私の下宿にやってきた。

「実はお願いがあるんよ。あの子が病気になってな、食事療法せんといかんのよ。食事つくられへんから作ってくれないかな」


 

 その頃私はお婆さんの下宿で自炊をしていた。

 入学する前に習っていたので料理は上手かった。毎晩おかずが出来上がる時間になると、お婆さんが「なに作ってるんや」と台所に出てくるので一皿あげていた。

お婆さんは、あんたの作る料理は旨いなあ…、といつも褒めていた。


 そんなわけで、私は自分に嫉妬している愛子ちゃんの為に、何か月かにわたって食事作りをする羽目になった。

 毎日夕方純ちゃんの下宿に、出来上がったばかりの弁当を持って行き、仲良く二人が布団に入っているのを横目に、「持ってきたよ」と置いて帰った。


 純ちゃんは、ありがとう、と言ったけれど、愛子ちゃんは顔を背けていた。

「この子な、作ってもらわんでもええ、と言うんや」と純ちゃんは私に言った。それでも私はその後弁当を持って行くことを続けていた。


 

 純ちゃんと愛子ちゃんは短大を卒業し、私は学部の三年生に編入した。

 短大の卒業式の日、私は二人にお別れの挨拶をすることはできなかった。愛子ちゃんとはフォーマルな洋服を着てはしゃいでいる姿を遠目に見たのが最後だった。


 純ちゃんとは、その二年後に私が大学を卒業してから時々電話で話すようになっていた。純ちゃんの住む町へ行った時には立ち寄ったり、私に子供ができた時はお祝いの品を持ってはるばるうちまで来てくれた。


 

 純ちゃんは愛子ちゃんの卒業後のことは全く知らないらしかった。

「顔が違ってたら一緒になったやろけどな」と純ちゃんは言った。異性なら…、という意味だったようだ。

 純ちゃんは短大卒業後、家の商売を手伝いながら生涯独身を通した。


 電話を掛ければいつも明るい声が返ってきていた純ちゃん。


 数年前になるが、純ちゃんのいる町で私の小中学校の同窓会があるというので、帰りに純ちゃんにも会えることを楽しみにしていた。その二年前に行ったとき時間がなくて会えず、純ちゃんはとても楽しみにしていたのにと残念がっていた。


 今度こそ会えるとの思いで電話を掛けたら、独り暮らしのはずなのにお姉さんが電話口に出られた。

「昨年亡くなりましたので、その日はちょうど一周忌の法要があるもので……」と言われた。


この前行ったとき会っていればよかった……。

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