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41話 メイドの恋愛事情(ユイの職場)

 城下町のトイレも少しづつ定着し、季節は実りの秋から冬へと移り変わった。

 下水道工事は、飲料水と分ける必要がある為、川とつなげるにもかなり長い距離をとらねばならず、まだまだ時間がかかりそうだ。本当は濾過施設などができるといいのだろうが、今のところいい方法が思いつかないので仕方がない。なんか微生物を使っての方法があった気がするので、何か自然の物を活用できないか考え中だ。

 後は糞尿の一部を乾燥させて肥料とする方法も検討中だったりする。元々は馬糞を肥料として使う方で考えていたのだが、同じ糞尿なら使えるのではないかというもの。

 馬糞の肥料もそうだが、やはりそのまま撒くわけではなく、天日乾燥などが必要だ。現在色々農家の皆さんが試行錯誤して下さっている。今は一番忙しい収穫も終わり、忙しくてたまらないという事もないらしい。


「ねえ、ユイ」

「何?」

 今日は久々の休みだし、下水道工事のおじさん達の様子でも見に行こうかなと考えて食堂でご飯を食べていると、ハティーがやってきた。妙にネコなで声な気がするのは果たして気のせいなのか何なのか。

「ユイって、今度の舞踏会の日って暇でしょ?」

「ううん。暇じゃないよ」

 返事をした瞬間、ハティーの顔が凍り付いた。

 そして、私の肩をガシッと掴む。

「何?!まさか、舞踏会に参加するの?!やっぱり、家庭教師は貴族との出会いにあふれた職場なの?!」

 ぐわっとハティーが瞳孔の長い目を見開いて私を見る。うううっ。なんか、ちょっと怖いんだけど。

「そんなわけないでしょ。メイドよりも出会いの少ない職場だよ。だって、仕事中に会うのは魔王様だけだし。後は魔王様に色々教えるにあたって、私がこの国の事を知る為にルーンさんの授業を受けるぐらいだから。暇じゃないのは、前働いていた厨房が、忙しいからヘルプを頼めないかって言ってきたからだよ。今までにないぐらい凄く多くのヒトがここに集まるでしょ?」

 貴族でない私が舞踏会に出たところで、誰の得にもならない。それぐらいなら、舞踏会後の従業員による打ち上げに参加した方が楽しそうだ。

「やられたっ!先を越されるなんてっ!!あーもう。先輩たち、ユイなら絶対手伝ってくれるって頭数に入れてたのに」

「いやいや。勝手に入れないでよ。その日はデュラ様もこちらにみえるみたいだから、どちらにしろまったく予定がないわけじゃないし」

 デュラ様から貰った手紙には、甥と一緒にパーティーに参加する予定の旨が書かれていた。赤毛の女の子を見つけるまではあまり関わり合いにならない方がよさそうだが、私の元気な顔を見たいと書かれるとどうしても断れないのだ。

 とりあえず、手紙と同時ぐらいに厨房から仕事の誘いがあった為、舞踏会に同伴してほしい旨は断れたから良かったけど。本当にこの世界が私を赤毛の子の位置に組み入れようとしていたら、私はこのままではデュラ様の甥と婚約することになってしまう。だったら、危険そうなフラグはバキボキに折って、赤毛の女の子を早急に探さなければ。

 もしも私のせいで女の子がデュラ様の養女になり損ねたとしたら、女の子は実は人さらいにあっていて、あの場にいたのではないかという可能性が考えられた。そして本当ならば女の子がデュラ様に保護してもらえる予定が、私が保護されてしまったというもの。

 デュラ様以外にいい人がいて、女の子が保護されていればいいのだけど、もしもそうでなかったら、女の子は何処かへ売られてしまった可能性もある。後者の場合、どうしたらいいのかまだ答えは出せていない。


「これは厨房と交渉が必要ね。どうせ皿洗いにメイドの一部をもっていくんだから、ユイはホール側のメイドの方に組み込ませてもらわないと」

「何で勝手に私のシフトを考えてるわけ?」

「そんなもの使えるからじゃない。正当に評価した結果、ユイがホールにでて給仕をやった方が良いと思うの。皿洗いなんてある意味誰でもできるんだし」

 悪びれもせず、ハティーは笑顔でそう述べる。

 そもそも私こそヘルプだから雑用とかの方が向いていると思うんだけど。……たぶん今のハティーに言っても無駄だろう。

「えっと、そんなに忙しいの?」

「そうよ。未曾有の忙しさよ。この時期は、臨時メイドの募集もかかるわ。いつもよりも厳選度が低いから、貴族からの身元証明さえあれば大抵が日雇いされるわよ。それぐらい忙しいの。ああ、でも。厨房に関してだけは毒物混入などがあるといけないから、元々城で働いているメイドが誰でもできる食器洗いとかの位置に回されるわ。おかげでこっちは大変なのよ」

 そんなに忙しいんだ……。この城に来て初めての冬なのでちょっと怖くもある。すでに城に勤めている人だけでも十分多いと思うのに。

「どうせユイの事だから、終わったら調理長が賄料理作ってくれるぞって言葉にでもつられて、二つ返事で決めたんでしょうけど」

「うっ。そんな見てきたみたいに的確に言わないでよ」

 実際、ヴィリからの誘いに乗ったのは、それもあったりする。だって、調理長のごはんはすごく美味しいのだ。ここのごはんがおいしくないとは言わないけれど、やっぱり料理長の料理は食べられるものなら食べたい逸品だ。


「だって、ユイってよく食べ物貰ってるでしょ。普通は女だったら花とか貴金属なのに、最近もポケットの中がお菓子であふれかえっていたの知ってるわよ」

「あれは工事のおじさん達がくれるんだもん。奥さんが子供に作ったおやつの一部をもってきてくれるの。そんなの貰わない方が失礼でしょ?」

 まあ、おじさん達だけでなくメイドのお姉さま方や、厨房の人も良く色々恵んでくれる。おかげで今のところ食べ物に苦労したことがない。

「まあ、ある意味それも才能よね。ご飯に困った時は、ユイのポケットをあさる事にするわ。じゃあ、厨房から許可がおりたら、メイド業務を手伝ってくれるのよね。まさか女の友情より食欲をとるんじゃないわよね」

「とらないよ。困ってるときはお互い様だから」

 確かに調理長お手製の料理の魅力は強いものがあるが、友情を蔑ろにしてまで取るべきものでもない。

 私はそう言いながら、パンを咀嚼する。今日のメニューはパンとパスタとジャガイモを湯がいたもの……。なんというか、炭水化物のオンパレードと油のオンパレードだ。

 あまり食事バランスとか考えられていないメニューだなぁと思う。時折野菜の湯がいたものや炒め物は出るが、絶対少ないと思う。

 何故こう偏るのかといえば、やはり保存がきくものの方が重宝されてしまっているからだ。小麦粉は長持ちするし、芋も比較的保存がきく。どうしても城下町は農地が狭く少ないため、外の地方から来るものに頼る事となり、結果がこれだ。

 近い将来、体調管理を気を付ける為に、自分で野菜を育てる必要があるかもしれない。ビタミン不足でお肌ボロボロとか、やっぱりいやだし。


「ありがとう。本当にいいこよね。ユイってば」

「子ども扱いはやめてよ」 

 よしよしと頭をなでられて、私はハティーにむくれた顔を見せた。これでも私はちゃんと働く大人の女性なのに。

「そうでした。ユイってば年下の彼氏がいるんだっけ。確かにそんな子を子ども扱いは――」

「ストップ。居ないから。彼氏なんてどこにも」

 年下の彼氏って、絶対魔王様の事だよね。

 どうやら、この噂の出どころは、工事現場のおじさん達らしいけど、メイドどころか厨房とかあらゆる場所で噂が回ってしまうとは思わなった。ヴィリは魔王様と城外で一緒に居たことに関して、約束通り言わなかったみたいだけど、おじさん達は口止めしていなかった。おかげで噂はたちどころに広まってしまったのだ。

 この国にはゴシップ記事とか、テレビの恋愛報道とかないので、どうしても身の回りの人の話がいいネタとして餌食になってしまう。

「恥ずかしがらなくてもいいじゃないの。ユイだって子供みたいなもんだし。それにいつかはその美少年もかっこよく成長するのよ。貴族の子って噂だし、だったら将来ユイも貴族になれるかもよ」

「ないない。だからそんなんじゃないんだって。それに、その子はちゃんと婚約者がいるんだよ」

 私の中で。

 実際はいないのだが、私の中で魔王様の婚約者は勇者一択だ。あまりに魔王様が可愛すぎて、わき見をしそうになるが、今のところブレてない。かっこよく成長するのは否定しないけど。

「なーんだ。まあ貴族だと、婚約者がいるのが当たり前だもんね」

「そうそう。だから変な噂をこれ以上流さないでよ。その子も可哀想だし」

 

 魔王様はほっておけばそのうち消えるだろうと言って、ぜんぜん対策をとってくれないのだ。確かに人の噂も75日。消そうとして動いた方が、逆に広めてしまう可能性もあるので、放置しておいた方が良いのかもしれない。

 でもこれ以上広まりそうもないぐらい、広がってしまったんだけどね。

「はいはい。そういうことにしておいてあげますか。あ、駆け落ちする時は言ってね。手引きしてあげるから」

「……楽しんでるでしょ?」

「バレタか。でも、メイドって、意外に出会いないのよねー。ほら、魔王城で働くとなるとお嬢様が多いからさ。婚約者がいなくても、大抵親が決めたお見合いゴールインだもの」

 そう言って、ハティーはつまらなさそうに唇を尖らせた。

「そう言うハティーはどうなの?」

「私もお見合いコースよ。私の所男の子がいないから、ちゃんとした貴族を婿にしないと潰れちゃうもの。今は花嫁修業みたいなものね」

「そっか。大変だね」

 私はそういったしがらみだけはないのである意味助かっている。何ともつながっていないのは、ある意味自由だ。

「何他人事みたいに言ってるのよ。ユイの場合は、自分で相手探さなきゃいけないんだから、私よりも大変なのよ。まあユイを娘に欲しいって人は多いから、その辺りから相手を探すのが一番ね」

「何で、普通に好きな人を探すじゃないわけ?」

 実際、息子の嫁にとか言われるけどさ。ええ。そして男の人に告白なんて一度もない、モテてない女子ですけど。でも夢ぐらい見せてくれてもいいのに。

「働きすぎだと、男も引くと思うのよね。実際に浮いた話一つなかったのはそれが原因でしょ?」

「誰が働かせてるのか、ちゃんと言ってくれない?」

「私でした。ごめんなさい」

「よろしい」

 ハティーが謝ってきたので、私は踏ん反り返って許す。そしてお互い顔を見合わせ笑った。

 ハティーはもう結構な年ごろだ。しばらくしたら結婚して退職してしまう可能性が高い。私だってある日唐突に人族領に行く事になるかもしれない。

 だから、私はこの時間をしっかり大切にしていこうと思うことにした。

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