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31話 伯爵の客(ユイの信者)

 勢いって怖いわぁ。

 自分のやらかしたことを考えて、私はため息をついた。

「やれない事を約束してしまった気がしてならない。マズイよねぇ」

 今日の昼間に会った事を思い返して、深くため息をつく。辛い時は言って下さい。必ずお助けしますからぁぁぁぁぁって何言っちゃってるんだ私。純粋な少年に何言っちゃってるんだ私。大切事なので2回言ってみるけれど、さらにもう1回。

「何言っちゃってるんだ私」

 そもそも魔王様に助けが必要なことなんてない気がしてならないのと、魔王様が助けを必要としている場合は私が何とかできる気がしないのと、将来的に人族領に行って勇者探さなきゃいけないのにそんな無責任な約束してどうするのという、色々問題ありな言葉だ。

 しかし、あの時の魔王様は支えてあげないとと思うぐらい弱々しく見えたのだ。魔王様はしっかりしていて大人びていても10歳。どんなに賢くても、現代日本なら小学生だ。

 小学生なんて、まだ大人に守られていていい年齢で、仕事で無理しちゃうとかありえない話。本当なら、側近で有るルーンがもっと気遣って上げなくてはいけないところなのだろうけど、魔王様の微妙な立場を考えると、色々難しいところもあるのだろう。


 ずっと魔王様の近くにいられないけれど、少しでも楽にしてあげられたらいいのにと思ってしまう。それぐらい魔王様は努力していて、今日だってクマまで作って、デュラ様の領地へやってきてくれたのだ。

 そのおかげで、まだ口約束でしかないが、オリーブの苗を育てるためにしばらくはお金がかかってくれるので、3年ほどオリーブ農園に対する税金の引き下げをする約束してくれた。このおかげで、一気にオリーブの木を増やすことができるだろう。

 また石鹸には魔王様も御用達と銘打って良いと約束してくださったので、このブランド名だけでも石鹸の売り上げはさらに上がるのではないだろうか。

 魔王様は日帰りの移動で大変だっただろうけど、凄くありがたい話だ。

 デュラ様にとっていいことだったことは嬉しいけれど、魔王様が無理をしているという事が辛くて、魔王様を止められない代わりに倒れてしまわないように支えたいと思ってしまった。あの時はそれだけを考えて口にしたけど、残ったのは後悔だけだ。

 魔王様が特に否定しなかったのが唯一の救いだけど、あまりその場の感情に任せて守れもしない約束をするのは良くないと思う。今のところ魔王様も私の言葉を軽く受け取ってくれていると思うのでいいけれど。


「それに私の用事がまったく終わらないまま2日目が終わってしまう現状もマズイんだよねぇ」

 魔王様お出迎えの為にメイドとしてバイトをしていた為、まともにデュラ様と話していない。でもここに滞在できるのは明日の午前までだ。

 デュラ様に不安を聞いてほしくて来たのに、相談できずに、その上悩み事増やしてどうするんだ私といいたい。

 まあ、考えても仕方がないか。

 私は何とか明日の午前にデュラ様と話せないかと思い、デュラ様の予定をメニアに聞こうと部屋を出た。メニアとは最初に会った日以来実は会えていなくて、結局デュラ様の予定も聞けていない。メニアは古株なので、どうしても頼りにされてしまって、魔王様が来るなんて特殊事態では特に忙しくなるのも良く分かるんだけど。

 廊下の照明はすでに消されているため、手に火の灯ったろうそくを持って足元を明るくする。洋館なんて日本に居た頃は住んだ事もない場所だ。暗くなると独特な雰囲気もあり、まるで肝試しをしているかのようである。

 コツンコツンと自分の足音だけが響くのも恐怖を誘い、ぶるりと私は震えた。 

「うぅ。早く行こう」

 肝試しとか苦手な私は足早に進む。


「にぎゃっ!」

「うわっ」

 足早のまま廊下を曲がろうとしたところで、急ぎ過ぎた事もあり、人にぶつかりそうになって私は小さく悲鳴を上げた。もう夜も遅いので、声を最低限で押さえられたのは幸いだ。

 それにしてもこんな暗闇で人にぶつかるのは心臓に悪い。ドキドキする胸に手を置いて息を吐き出す。冷汗が一気に出た。

「すみません。大丈夫ですか?」

 どうやら、私と同様に相手も驚いたようで、しりもちをついてしまったらしい。まあ、こんな時間にヒトと会う事なんてあまりないので、驚くに決まっている。

 何とか取り落さずにすんだろうそくの光で相手を見る。薄暗い為分かりにくいが、体格からして男性のようだ。

「だ、大丈夫だ。君こそ、こんな遅い時間に何をしているんだ?」

 咎めるような声音に、どうやら執事ではなく、デュラ様の関係者ではないかと思った私は、慌てて頭を深々と下げた。

「すみません。明日帰るもので、友人に挨拶に行こうと思いまして」

 確かに夜に歩き回るなんて怪しすぎる。泥棒と思われても仕方がない状況だ。

 かといって、明日会っていては遅すぎるので見逃してもらえないだろうか。

「明日帰る?……もしかして、君はユイという名前か?」

「はい。そうです」

 どうやらこの男はデュラ様から臨時のメイドがいる事を聞いていたらしい。でも名前まで知っているなんて記憶力のいい方なんだなぁ。

「頭を上げろ」

 私は許しをもらって顔を上げた。私が頭を下げている間に、立ち上がった男はまだ若そうだ。私とそれほど年齢も変わらないのではないだろうか。


「黒目、黒髪。小柄な体格。……確かに、言われた通りの外見だな」

「はあ」

 外見的特徴まで聞いていたのか。

 一体デュラとどんな関係なのだろう。そんな事を思いながら曖昧に頷くと突然ろうそくを持っていない方の手を掴まれた。

「少し私の部屋で話をしてくれないか?」

「えっ、あの」

「そうしたら、今晩出歩いていた事に対しては不問にする」

 不問にしてやると言われてもなぁ。特にここで仕事をなくしても問題はないのだけど……でもデュラ様に会いに来にくくなるのも困る。少し考えて、私は頷いた。

「少しだけでしたら。……もう、遅い時間ですので」

「よし、来い」

 そう言って男は私の腕を引っ張って廊下をずんずんと歩いていく。階段を上がった所でドアをあげたので、やはりゲストルームに泊まるお客様のようだ。


 男と一緒に入った部屋の中は明かりがちゃんと灯っていて、私は持っていたろうそくの火を消した。やはり頼りない小さなろうそくの光よりも安心する。

 明るい中で見た男性は、灰色の髪をしており、何となく誰かに似ている様な気がした。はて。誰に似ているんだ?特にこの、ダークブルーの目に見覚えがある気がするんだけど……。

 部屋に入ると男は私の手を離した。少しだけ赤くなったそこへ目を落とした男は、深々と頭を下げる。悪い人ではないみたいだ。

 しかし一体彼は何者で、何の用事があるのだろう。

「私はデュラ様の甥に当たる、エレオーという。突然の無礼、謝罪する」

「いえ。大丈夫です」

 手を掴まれた事には驚いたが、特にそれで何かあったわけではない。

 家族がいないデュラ様の知り合いにしては若いなと思ったが、甥ならこれぐらいの年齢の人がいてもおかしくはない。

 エレオーは私が謝罪を受け入れると、顔を上げた。身長が高く少し見上げなければならない。見上げた首には一筋の線が入っていて、確かに血縁関係がありそうだと思う。

 実はデュラ様は、首なしと呼ばれる種族らしく、頭と体が離れ離れになっても生きている事ができるらしい。今のところ胴体と離れ離れになっている姿は見たことはないけれど。


「伯父が貴方の事をとても素晴らしい知恵のある女性だと話していたので一度お会いし話てみたかったんだ。しかしユイ殿は魔王城で勤務をされているので会う事が叶わず残念に思っていた。今日は会えてうれしく思う」

「いえ。私はそんな大したものでは」

 デュラ様、一体私の事、どんな風に話したんだろう。

 素晴らしい知恵のある女性とか、そんな知性、私の頭を振った所で出てきそうもない言葉だ。しかも甥っ子に会いたい思わせるなんて、相当美化して話していないだろうか。まさか、本当に私の事を賢者とか思っているんじゃないよね。

 私はどうするべきか分からず、曖昧に笑った。

「謙遜しなくていい。魔王様がここを訪れたのもユイ殿の力あってこそだと聞いた。オリーブ事業を進めているのはユイ殿なのだろう?それにしても、伯父が後継者にと思っている女性が、これほど可愛らしい方とは思わなかった」

 再び私の手を取ると、エレオーは手の甲に口づけをする。

 ええっと、確か手の甲へのキスは尊敬しますという意味だとルーンから習った気がする。となると、エレオーは私を尊敬していると――。

 って、待て待て。ソレ、たぶん私を美化しすぎている。私が尊敬されるなんてありえない。

 デュラ様、一体この方に何を話たんですかぁぁぁっ!!

 そして私はエレオーのさらにとんでもない言葉に気がついてぎょっとする。


 今、このヒト、後継者が何とかって言わなかった?

「あ、あの――」

 凄く興奮気味なところ悪いけど、何かの間違えだと言おうとしたところで、部屋の扉がノックされた。

「エレオー、少しいいかな?」

 えっ?デュラ様?このタイミングで、デュラ様?

 ドア越しに聞こえたデュラ様の声に、私は目を見開いた。 

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