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3話 三者三様の序章(勇者の場合)

「ハーレム勇者なんて滅んでしまえっ!!」


 過去の文献を読んでいて、俺はたまらず叫んだ。なんだこれ。喧嘩売ってるのかこの野郎。

 俺の家系は勇者と呼ばれる人を多く輩出している。勇者というのは、普通のヒトより高い身体能力や魔力を持った人の事をさす。勇者は有事、いわゆる魔族との戦争や魔物を退治する時に率先して戦う職業だ。俺の父は勇者だし、兄も勇者候補として働いていた。そして俺も能力から考えて勇者になるだろう。

 それはいい。俺もこの力を持って生まれたのだし、家系から考えても覚悟はしていた。

 でもさ。

「おい。トール。何荒れてるんだよ」

「お前らの所為だ、馬鹿野郎!!」

「はあ?!なんだよそれ」

 俺の言葉に、幼馴染であるフレイは意味が分からないとばかりに、首をかしげる。てか、さっきの言葉で察しろよ。

 俺は意味が分かっていないフレイにイラッとする。


「現在の俺のパーティー見てみろよ。何でお前を含めて全員男なんだ?!」

「そりゃ、女の子がトールの動きについていくのは大変だからに決まってるだろう?今はまだ模擬での活動だけど、十分ハードだからな」

 まさしく幼馴染の言う通りだ。確かに女の子だと体力の面でどうしても男より劣る。でも、魔力の面をみるとそうとも限らない。女性で魔力が高い魔導士や聖職者は結構いた。それなのに、俺の周りは、男、男、男。筋肉ムキムキから優男までいるが、すべて男だ。

 そう、男なのだ。

「でも、父ちゃんも兄ちゃんも、ちゃんとメンバーに1人は女の子がいるぞ?!」

 父ちゃんは珍しい女剣士と女盗賊が、兄ちゃんは王道に女魔導士と女聖職者が仲間だ。歴代の勇者には、勇者以外全員が女だった例もあるらしい。

 だから、仲間の剣士、武闘家、魔導士、聖職者、弓使いが全員男というのは逆にとても珍しいのだ。さらに、俺のパーティーに入りたいと言ってくる奴まで全員男とか意味が分からないレベルだった。

「人は人。うちはうちだろ」

「そんな、母ちゃんみたいなこと言うなよ」

 泣きたい。マジ泣きたい。

「何だよ。俺と組めないと寂しいだろ」

「俺の貞操の心配をしなくちゃいけない奴だったら、むしろ1人の方がマシだ。意味分かんねーよ」


 まあ、百歩譲って、ドキ。男っだらけの勇者活動。ぽろりもあるよでも目を瞑ろう。世界の為だし、俺の助けを求めている人がいるのだから。

 でもさ。俺のパーティーに入った奴が、どいつもこいつも俺ラブだった時の怖さを知っている奴は、果たしてこの世界に何人いるのか。はっきり言おう。俺は女が好きだ。男の友情が分からないほど、薄情ではないけれど、やっぱり女がいい。というか、男同士とか虚しいだろ。

「俺が守ってやるから」

「守るぐらいなら、他の奴に女を紹介しろ。それから、フレイが俺が眠った隙に唇を奪おうとしたのを忘れてないんだからなっ!お前だけは違うと信じていたのに」

「あれは悪かったって。トールが可愛すぎてちょっと魔が差しちゃってさ。いつもは普通だろ?」

「うっせぇ。男相手に可愛いとか言うな。鳥肌が消えねぇだろ。それから、ノーマルな奴は、魔が差したとしても、男相手にキスしようとするわけないだろ」

 昔から何故か男に俺はモテた。告白されたのは幾度としれず、誘拐未遂もなんどもあった。その度に、勇者の能力で退けてきたが、まさか幼馴染まで俺ラブに転んでしまうとは。


「別に俺は男が好きなわぇじゃないよ。トールだからす――」

「その言葉を吐いたら、今すぐ剣の錆にしてやる。俺がその手の言葉を、今までに何度もあびせられたのを知ってるよな」

 男が好きなわけじゃない。トールだから好きなんだ。

 言葉としてはとても美談だ。でも、おかしいだろう。だったら友情で止めておけよと言いたい。男に手を出そうとした時点で、俺がトールだからとかではなく、紛うことない男色家だ。

 でも俺は違う。こうやって何度も何度も告白を受けたが、やっぱり女の子の方がいいし、男相手に色々は考えられない。

「分かったよ。からかって悪かった。でも、本当にトールの近くに居るとだんだんおかしな気持ちになるんだよ。お前の色気にやられるというかさ」

「ガキ相手にさかるとか、マジでありえねぇ。お姉さまが相手なら俺も嬉しいからいいけど、男相手だと有難迷惑なんだよ」

 過去に勇者と呼ばれるものの中には、異様に人に好かれるという能力を持ったものがいた。だから俺の場合も、そんな勇者と同じ能力が備わってると考えていいだろう。

 でもその時だって、全ての人という場合もあったが、基本は異性相手。俺みたいに同性のみなんてレアだ。レアと言えば耳に良い言葉だけど、ぶっちゃけごみとして捨ててしまいたい能力だ。確か曾ばあちゃんが女勇者で男に異様にモテたらしいから、そこに似たのかもしれない。


「でも諦めるしかないだろ。そういうもんなんだしさ」

「いーや。諦めてたまるか。俺は可愛い奥さんをもらって、子宝に恵まれた幸せな人生を歩みたいんだからな」

「それが10歳児の夢かよ」

「悪かったな」

 でも俺が望んでいるのはそれだけだ。勇者として名を残したいなんてまったく思わない。例え俺の能力が歴代の勇者より優れていたとしても。俺が望むのは、とてもささやかな幸せなのだ。それは男に言い寄られる能力なんてまったく必要としない。

 むしろこの能力、絶対呪いだろ。


「まあ、頑張れ。俺も頑張ってみるから。ただ、今回のパーティーは諦めろ。お前に合わせるとあれしかあり得ないし、数年後に控えた魔族領との友好の為に組まれている、魔王様との顔合わせにはお前が選ばれているんだからさ」

 そうなのだ。まだ勇者になるには早い俺が、現在パーティーを作る羽目になっているのは、俺が親善大使として魔族領に行く事が決まったからだ。

 俺が選ばれた理由は2つ。

 1つは、俺の年齢が魔王に一番近いから。魔王領は現在結構大変らしく、前魔王が若くして病死してしまった為に、俺と同い年の子供が魔王の座をつぐ事になったそうだ。

 2つ目は俺と同じくらいの年齢の誰よりも、能力が高いから。年上相手だって俺は負ける気がしない。


「あのクソ王家。俺が魔王もたぶらかしてくれたらいいなとか思ってるんじゃないだろな」

「思ってるんじゃないか?トールの能力、凄い有名だし。トールを通じて友好関係を持続できたらこれ以上の利益はないし」

「冷静に分析するな、馬鹿。ああああ、何で俺はこんなに不幸なんだ」

 俺は絶望ばかりがみえる未来を思ってため息をついた。

 いっそ王子様もみんな俺のとりこにして、左うちわな生活をしてやろうか――やっぱ無理。男相手に、王宮の中心で愛を叫ぶ趣味はない。

「まあ、頑張れ。きっと神様も何か考えがあって、お前にそういう能力を与えたんだろうしさ」

 男が男に好かれる能力なんて、どんな考えがあってだ。なんかの、罰ゲームだろ。


「取り合えず、リア充は爆発しろ。ハーレム勇者は今すぐ剥げて愛想つかれてしまえ。そうしたら俺も頑張るから」

「あははは。そして1人身になった奴らをお前の逆ハーレムに加えるんだな」

 腹を抱えて笑うフレイをきっと睨みつけて俺は再び過去の勇者の文献に目を落とした。もしかしたら、この文献のどこかに俺の呪いをとく鍵があるかもしれないから。

 トール、10歳。

 この時俺は、魔王を逆ハーレムに加えない為に、必死に文献を読み漁っていた。

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