『無遊病』
「訪れぬ幻想」
突然だけど、「夢のような世界」という言葉がある。
それは文字通り、現実的でない世界。夢でしか味わうことができないような体験が待っている、そんな世界なのだろう。
夢というのはそもそも、人の意志の塊だ。
欲どしい人間は金に溺れる夢を見るし、大望を持つ者はそれが成就する夢を見る。
つまりは、現実からの乖離――いや、寧ろそうであって欲しいと願う現実が、夢となって人々の眠りを染めるのだろう。
「睡眠欲」――人間とは本当に強欲な生き物で、安らぎの時間においてでさえ己の欲求を満たそうとする。逆に言えば、常に自分の望みを忘れずにいるというのは、寧ろ素晴らしいことかもしれない。
だけど――――
だけど、私は……夢を見ない。
気付いた時には目が覚めている。昨晩眠り込んだ記憶はあるのに、睡眠していた時間だけがぽっかりと抜け落ちてしまったような、そんな不思議な感覚。
身体の疲れも取れているし、眠気も一切感じない。それなのに、眠ったという実感がまるで湧いてこない。
朝食を摂り、学校へ向かい、友人とふれ合い、帰路につく。
何もおかしなところなどない普通の生活、不憫なことなど何一つない。
だけど、私は夢を見ないのだ。
「夢のような世界」を……私は知らない。現実と虚実の区別が――意味が、分からない。
日常に不満があるわけではない。だけど、それでも、
――――私は夢を見てみたい。
「無遊病」
夢を見なくなる病。