『対落病』
「欠けた自分自身」
まるで、半身を失ったかのような喪失感だった。
いつも特別気にかけていたわけじゃない。
むしろ、ほとんど忘れていた。彼が自分の一部だという自覚も、自分自身に近い存在であるということも――近すぎたからこそ、意識の外側に追いやっていた。
僕は、いつからか彼に見向きしなくなっていた。
子供の頃は、確かに僕は彼と共にあった。共に遊び、共に走り、共に家に帰った。僕と彼はいつも一緒だったんだ。
でも、僕の彼に対する関心は、次第に薄れていった。彼が僕のそばにいるのは当然だと、自然だと、慣れていった。慣れは意識を緩め、緩みは小さな綻びを生み、その綻びから――決して消えることのない亀裂へと繋がった。
子供心と一緒に、僕は大切だったはずの彼のことを、思い出の引き出しに仕舞い込んでしまったのかもしれない。大切だったからこそ、脳の最も深いところに、保管しておきたかったのかもしれない。
そうすることで、彼に関する記憶を遠ざけてしまうことも、理解しないで……。
そして、僕の心から彼の姿が消えたことを、神様はきっと知っていたんだ。
だから、神様は彼のことを隠してしまった。彼を悲しませないように――僕のそばにいることで、彼がこれ以上苦しまないように……。
僕は……馬鹿だ。
自分で大切にして、自分で忘れて、自分で失くして、そのくせ不幸そうに悲しんでる。全部僕が悪いのに、被害者ぶってる。
醜悪で、傲慢な、最低の人間だ。なんで僕がのうのうと生きていて、彼がいなくならなければいけないんだ。でも、それも、全部僕の責任だ……。
僕は、足元を見た。
照明に照らされた真っ白な床には、もう何もない。磨き上げられたその表面は、不自然なほどの白さを保って輝いている。
試しに体を動かしてみても、少し空気が揺らいだのを感じるくらいで、他に大きな変化はなかった。どれだけ大仰な動作でも、結果は同じだった。
かつて彼と共に歩き、駆けまわった場所には、僕以外にもう誰もいない。
僕が愚かだったから……これは僕が犯した罪の代償なのだ。僕が死ぬまで償い続ける、神様が与えた罰なのだ。
後悔しかなかった。謝意でもなく、罪悪感でもなく、ただ後悔だけが心を埋め尽くしていた。
たとえ、彼を失う結末を変えることができないとわかっていても、せめて彼のことを少しでも記憶の渦から引き上げることができていたら……僕は、僕は……。
「ごめんなさい……でも――」
掠れた言葉は空気に呑まれ、すぐに消えていった。今さら口にしたところで仕方がないことなのに、僕はそう言葉にせずにはいられなかった。
二度と会うことができない彼に――もう二度と忘れたくない友に。
こんな僕と共にいてくれていたことへの、感謝の言葉を……。
――でも、ありがとう。
僕はしばらくの間、顔を上げることができず、茫然と自分の足先を見つめ続けた。
本来ならそこから伸びていたはずの黒い線に、想いを馳せながら――。
「対落病」
自分の影ができなくなる病。




