第1話の中の最後
「んー。じゃあどうする?わたし、なべぐらいしか作れないけど」
「えっ。作ってくれるの?」
「えぇ、もちろん。まぁ、理想の嫁を目指しているもんで」
……とか言ってみたけど、わたし本当に料理できないのよね。だけど、言ったからにはとりあえず頑張ろう。
まずは、食料チェック。冷蔵庫をオープン。
「むっ」
卵一個と炭酸ジュース一本、それに消費期限切れのヨーグルト。……それしかはいっていなかった。
「あー」
なんじゃこりゃ。冷蔵庫さんがかわいそうになるくらい何もないじゃあないか。
「あぁ。えっとぉ……なにもないだろ。ほら、使わない予定だったから」
「それもそうね。まずは買い出しに行かなきゃね」
無理やり微笑んでバシンと冷蔵庫のドアを閉めた。
「むー」
意外と翔ちゃんと付き合っていくのは大変かもしれない。
スーパーまでは意外と近くて、歩いていってもすぐに着いた。
わたしはカゴを取りながら聞いた。
「ちゃんこにする?水炊きにする?」
とりあえず鍋だったら失敗しないだろう。四月ももう終わりだし、ね。←自分でも意味がわからない。
「んー。じゃあ、ちゃんこでお願いします」
「オーケー。翔ちゃんのために頑張っちゃおう!」
ネギを取りながら思った。夫婦ってこんなものなのかなぁって。結婚するのも悪くないかもしれない。そういえば、中学のときの同級生が結婚したって言ってたな、まだ二十三歳だっていうのに。
途中、明日は昭和の日だねとか、わたしたち二人にとってはどうでもいいような事を話して仲良く割り勘をしたりした。
帰り道、沈んでいく夕日が買ったばかりの電球のようにまぶしかった。
「きれいな夕日だねぇ」
「ん。……そうだね」
翔ちゃんは興味がないみたいだ。
「たしかに、こんなもの毎日見れるけど。もしも、翔ちゃんがあのとき飛び降りていたら見れなかったんだよ」
彼が考えていることはわからない。だけど、彼はきっと弱いんだ。それは、わかる。……たとえ、わたしでも。
「……別に、何も見たくないよ。俺」
「…………そう。」
わたしは何も言えなかった。わたしには、人を元気づけて事がなかったから。ずっと、今とは反対の立場だったから。
鍋ができた。味はザ・普通だ。
彼の反応を見た。あれから彼としゃべっていない。
すると……
「……して…」
「えっ何?もうちっと音量あげないと聞こえない。はいっ、ピッ!」
「はぁ。……その、どうして俺にこんなことしてくれるの?って」
なんだ。そんなことか。そんなの決まっている。
「何故って、あなたのことが好きだから。それに、えぇっと自殺、してほしくないから」
そう、実は後者のほうが本望だったりする。しかし、意外と照れるなぁコレ。よくドラマとかでやってるのに。
「あぁ。…その、…ありがとう」
「お礼なんていらないよ。……きっと後悔するから」
「……?」
「生きているんじゃあない。生かされているのよ。わたしたちは」
「はぁ。」
すこし、元気付けられたかな。まぁ、ほとんど受け売りだけれど。
鍋の中身が無くなった。すると、翔ちゃんがうつむいたまま恥ずかしそうに口を開いた。
「あのさ、その……返事だけど、その、よろしくお願いします」
「えっ。」
いきなりだったのでびっくりした。だけれど、すぐにおかしくなって思わずふきだしてしまった。
すると、彼が困った顔をした。かわいい。
「あの、……何か変な事言いましたか?」
「ううん。何か急でびっくりして。その、こちらこそよろしく」
とりあえず目標達成!鍋の後片付けは嫌なので、帰っちゃおう。
「それじゃ、わたし帰るね。また明日ここに来るから!大丈夫、満員電車でもがまんするからね」
「えっ!ちょっと急に……てか、君。電車で来たの?じゃあ、ここには何の用事があって……」
わたしは、すばやく逃げて帰ってきた。ちょっと最後のセリフはやばかったかもしれない。彼、気付いていたから。
まだまだ、早い。翔ちゃんが、あの質問の答えにたどり着くのは。
知らなくてもいい。翔ちゃんは被害者なのだから。……わたしと同じ。
だけど、やばいかも。彼のことをどんどんと好きになってきたかも。
本当か嘘か?わからない。たとえ、わたしでも。