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第1話の中の2

 カタンとホットコーヒーが二つ置かれた。

 それを運んできた女の子は、とてもすばらしい営業スマイル。真面目に働いている人ってすごいなぁ、と感心してしまう。

 ふと前にいるすてきな彼の様子をうかがおうとすると彼と目が合った。


「ん?どうしたのだ?」

 

 さりげなく気づかう優しいわたし。


「いや、その……何か話しがあるのかなぁと思って」

「あぁ……。すまん。」


 砂糖を入れすぎてしまった。


「あまっ。んー、じゃあ、どうしよっか。普通は自己紹介からだけれど、非常識な出会いだったから違うところから攻めていく?」

「いや。自己紹介からで」

「……」


 即答された。ふーん、真面目なんだ。いや、だから自殺しようとしたのか。

 そんなことを考えていると彼から名のってくれた。


「俺はその……中野翔太なかのしょうたです」

「じゃあ、翔ちゃんね。」

「えっ?」


 なんかびっくりされた。少しガツガツすぎたか、わたし。


「えーと、じゃあ、わたしの名前は山本まり。まりか、まりちゃんか、山ちゃんか、それとも女王様のうちのどれかで呼んで」

「はぁ……」

「それでどれにするの?」

「……じゃあ、女王様で」

「……別にそれでかまわないけど」

 

 あら、真面目だと思ったのに、意外なところを選択。

 翔ちゃんがコーヒーを飲んだ。

 ブラックのままなんだ。なんか、かっこいい。

 すると、急に彼が顔を上げた。


「その……。いや……別に女王様って呼ぶのはイジワルとかじゃなくて、その、同姓同名の幼馴染がいるから、ちょっと混乱するってだけで…」

「いや、別に気にしてないけど。第一、自分で言ったんだし。それに、女王様って呼ばれるのもいいかも。……あぁ、別にわたしは、翔ちゃんをしもべとかにするつもりはないから」


 何か、意外とどうでもいいのに長ゼリフを使った気がする。うん、まぁ、わたしはあまり長々と自分の事を話さない人種だからなぁ。


「……」

「……」


 あれ?何か、いつの間にか静かに。気まずい状況。

 わたしはとりあえず、あわてて話をつくった。


「あー、えっとなー、何かわたしあなたの家にいきたいなー…みたいな」


 あれ、なに急にそんな話してんだ。わたし。普通の女の子は、初めてあった人にそんなこと言わないよ。


「えっと……。そんな急に言われても困るなぁ。一人ぐらしだけど」

「へぇー。一人暮らしなんだ。……あぁえっとー、行くって言ったってどんな部屋かなぁーってきになったただけで」

「はぁ。」


 不自然さはとれたか?それにしても、どうすればいいのだ。考えてみればわたし、ほとんど異性との付き合いないじゃないかぁ。席がおとなりだった、高橋君|(あれっ?高田くだったっけ?)に「ごめん。消しゴムとって。」「はい。」

としかしゃべった記憶がない。第一、告白しただけで、付き会ってもないのになんつーことを言ってるんだ。


「ほら、だってさ。わたしがその、翔ちゃんを説得して、自殺をもう二度と考えないようにするためには、ほら、その……情報収集っていうやつ?そう、それだよ」


 んでいて、スマイル。こうすれば、ただのおせっかいの学級委員長にしか見えまい。


「はぁ……」


 どうやら、彼は納得していないようだ。



 しかし、来てしまった。

 翔ちゃんの家はどこにでもあるアパートの一室にあった。

 彼の部屋は、殺風景だった。すてきな、ワンルームなのにもったいない。


「うわぁ、いかにもザ・殺風景て感じだねぇ」


 わたしは、口をつぐんだ。あぁもう、わたしったら本音はあまり口にださないようにしているのに。

 何だろう。彼といると、わたしの調子がくるう。……いや、それは彼のせいじゃなくて、わたしが小さい頃から望んでいたことに近づいてきたからだろうか?


「あれ?この写真、なに?」


 タンスの上写真立てが一つ置いてあった。

 そこに写っているのは、まだ幼い頃の翔ちゃんと彼の父親、そして彼の母親と見られる女性が笑顔でこちらを見ていた。


「あぁ……。それは俺の母さんがここに来たときに置いたんだ。けっこう前の写真なんだけど。恥ずかしいって言ったんだけど、何かそのままで」


 翔ちゃんはそう言って写真立てに手を掛けた。わたしは、それを止めた。


「いいじゃん。幸せそうな家族って感じで。それに、翔ちゃんのお母さん美人だし」

「あ、ありがとう」

「……」


 だけど、家族っていうのは近いようで意外と遠いものなのよ。……少なくとも、わたしにとってはそうだった。

 わたしは、写真立てに顔を背けて彼に向き直った。


「ねぇ。ここでディナーを食べてもいいかにゃ」

「は、はぁ」


 女王様にむけてその返事はだめだよ。翔ちゃん。

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