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カレーの日

作者: 坂上 葱久

 ジューと肉の焼ける音。

 ポコポコと野菜が煮える音。

 ゴーという換気扇の音。


 今日はカレーだ! まず、間違いない! 

 じゃがいも、にんじん、たまねぎ、そして我が家は鶏肉がメイン。

 脂身は剥いで、カラッカラに油で揚げて、カレーに添える。それが我が家オリジナリティ。

 心が躍る。宿題をする手にも力が入るハズだ。さっさと終わらせて早く食卓につきたいという気持ちが右手をはやらせる。


「タカシちゃーん、ルー買ってきてくれるー?」

「わかったー」


 ルンルン気分で家を出る。それにしてもルーを忘れるなんておかんもドジなところがあるな。

 それも今日の晩御飯でチャラだ。それくらい気分がいい。

 近くのスーパーまで行こう。走っていこう。走ってさらにおなかをへらせよう。そしたらもっとおいしく食べられる。


 ところでルーってのはどれがいいんだろう? 

 いつも食べているのは自分には若干辛くも感じるけど、弟はいつも甘いと言う。おかんはちょうどいいとも言うし。さて、どれにしようか。

 そして、いつも気になるのがこの缶。なんなんだろう。カレーとは書いてあるけれど、他のパッケージ状のものとは明らかに異なる。

 おいしいのか? 気になる。

 しかし、なんとなく大きいから大味な気もする。好奇心は猫をも殺すというけれど、これには興味がある。ちなみに今までは失敗続きだ。


 新しく出たファ○タの味。大々的にCMをしていたセ○のゲームソフト。バー○ャルボー○。流行ると思って買ったリストバンド。

 一瞬、考えただけでもこれだけ浮かんだ。

 どんだけ失敗してるんだ俺の人生。

 まぁ、たしかに2○歳にもなって、ニートに近いことをして、親のスネをかじっている時点で失敗している気もしないでもない。

 ただ、カレーというだけでここまで嬉しくなれる安上がりな性格は得しているとも思う。

 ちなみに宿題というのは履歴書の作成である。

 家でやる勉強というのはまさしく文字通り宿題だと思うのは自分だけだろうか。


 さて、こんなところで油を売ってる場合じゃない。カレーが俺を待っている。

 レジのおばさんに怪訝そうな顔で見られながら、ルーだけ買って店を出る。そんなに俺の格好が変か? 上下スウェットの男が。


 帰り道、意外な人と遭遇した。


「あ」

「あ」

「げ、元気?」

「う、うん。そっちは?」

「元気だよ」


 ………沈黙が場を支配する。気まずいってのはこのことか。まさか元カノとこんなところで再会するとは思わなかった。

 逃げようとも思ったが、理由が思い浮かばない。まさかカレーが楽しみだなんて理由、かっこ悪くて言えるわけもなく。

 どうする? 適当にでっちあげるか? 

 しかし、実はまだ彼女が好きなことも事実。お互いのためにならないと別れてから半年。

 自分をよく見つめ直すには十分な時間だった。自分にはまず相手がいない。最近の悩みはまさにそれに合致する。

 いわゆる『俺、結婚できるのか?』問題。


「最近、なにかあった?」

「イヤ、特になにもないけど……」


 は、弾まねぇ……。これがあれか、最近のコミュニケーション不足が叫ばれる若者ってヤツか。

 たしかにそれを理由に何度アルバイトの面接を落とされたか。倒れたペットボトルを立てるだけの仕事にコミュニケーション能力なんて必要なのか?

 

「あ、それじゃ、私行かなくちゃ」

「う、うん、それじゃ」


 時計をチラチラ見ているのは知っていた。

 そんなことに気がついているのに、自分が聞きたいことも聞けないのか俺は。なんて情けない。でも、遠まわしなら………。


「なにか用事あるの?」

「うん、これからデートなの」


 

 帰宅。

 もう、カレーを食べて忘れよう。そうしよう。それで嬉しくなれるのが自分だ。

 ………イヤ、本当だってば。本当に。

 自分でもわかるくらい作り笑顔になっていたけど、早くルーを渡さなくちゃ。


「はい、おかん。買ってきたよ」

「はい、ありがとう。ん? なんでカレールー?」

「え? だってルー買ってきてって」

「今日はシチューのつもりだったんだけど」

三作目です。

なんとなくこういう路線が好きなのかもしれないですね。

フィクションだけどフィクションすぎない感じが。

イヤ、最近の流行から取り残されているだけの気がしないでもないですが。

ご意見・ご感想、またバッシングなどありましたら、お気軽に。


文法は苦手です。

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