愛されないからのスピード報復
寝室にやってきたのは麗しい美貌の旦那様です。
「君を愛することはない」
これから初夜という時に、こう告げられました。私はとても驚いたものです。
「どういう意味ですか?」
「俺には他に愛する人がいる。だが、世間は結婚しろと煩くてな…」
偽装結婚ということか。ならば白い結婚になるのだろうと私はベッドから降りようとしたのだが。
「待て。妻としての役目は果たしてもらうぞ」
私専属の護衛であるハーヴィー曰く。
『俺はいつでもお嬢様をお守りするつもりッス。でも、俺がついていけない場所でお嬢様が危ない目に遭うことがあるッス。そういう時は容赦なく金的、次に金的、最後に金的ッス!自分で言っててゾッとするッス!俺にはしないでください』
私はその言葉を忠実に再現した。まずはガウン1枚で守られているだけの無防備な部分に一回、屈んで狙いにくくなったから背後に回ってからの一回、そして最後は踏み抜くように一回だ!ドヤァ…。
私専属の護衛であるハーヴィー曰く。
『女の子を弄んだ噂を聞くたびに思うんスよ。そいつ、顔がひしゃげてたらモテないのにって。俺が女の子なら報復するッス。グーパンするッス。狙うのは前歯ッス。前歯は良いッスよ、もう生えてこないから』
私はハーヴィーが『護身用ッスよ!グーパンする時は絶対に握り込んでくださいね!こっちの手が折れるんで』と言って贈ってくれたシンプルな指輪を握り込み、旦那様の顔に叩き込んだ。前歯が折れた。ドヤァ…。
私はさっさと部屋の外に出る。そこにはハーヴィーがいて、何かを書いていた。
「こんなこともあろうかと馬は用意してあるッスよ。俺との二ケツですけど我慢してくれます?」
「もちろんよ。貴方なら信頼できるもの!」
こうして私は盗んだ(盗んでない)馬で走り出した、十五の夜…。婚家を脱出して実家に戻った。くつろいでいたお父様とお母様がビックリしていた。
「アンジェラ、いったいどうしたのだ!?」
「馬鹿にされたので帰ってきました」
「お嬢様の身に起こったことをしたためました。どぞ」
相変わらずハーヴィーが優秀すぎる。破天荒で礼儀がなってないように思えるが、それを補って有り余るほどに有能だ。はあ、好き。
お父様はハーヴィーの報告書を見ると、それを乱暴に執事に渡した。
「我が家とアンジェラをコケにしおって!代筆でいい、これを複製して結婚式の招待客全員に送れ!今夜中にだ!」
「あちらは息子さんの治療でバタバタするんで明日の朝まで猶予あるッス」
我が家の使用人が集まって、全員で手紙を書き始めた。字が書けない使用人はできあがった手紙を配達する。その際にうっかり、結婚式には来ていないけど由緒正しい家にまで手紙を持ってっちゃった。うっかりだよねー!仕方ないよねー!?
情報操作は早いやつから勝つンだ!!
「お嬢様、怖かったッスよね。お嬢様の好きなストロベリーミルクティーをナンシーさんが用意してくれたッスよ。ジャンゴさんもリーフパイを焼いてくれるそうッス」
私はメイドのナンシーとシェフのジャンゴの名前を聞いて、ぼろぼろと泣き出してしまった。あんな風に仕返ししたけれど、本当はずっと怖かったの。怖かったよう!
わんわん泣いてた私をお母様とお姉様が抱きしめてくれていた。
それから二日後、向こうの家が謝罪に来たけどお断りした。あの日のことを思い出すと、怖くて私が泣いちゃうからという理由で。絶対に一生かけて会わねえ。謝罪は受け取らねえ。
とはいえ、会わないわけにもいかないのでお父様とお母様は話し合いの場を設けたらしい。離婚一択だったけどね。うちを馬鹿にしやがってと嫌味をクレープに巻いて提供していたそうだ。いっぱい食べなされ…。
「いくら相手が侯爵家だからって、男爵家の愛人のために伯爵家のお嬢様を蔑ろにするのはナシに決まってるッスよ〜。色んな家に告げ口しときましたんでね、もうあのドラ息子と付き合う奴はいないッス!」
侯爵家の結婚ともなれば、王家のお耳にも入りますので。その方々にもしっかり手紙を出しておきましたよ。おかげでドラ息子は肩身が狭いそうです。ザマァ。
「私が結婚する前から男爵令嬢が相手だと知っていたの?」
「結婚する相手を調べないわけないでしょーよ。まあ、お嬢様を第一にするなら目を瞑ったんスけど」
ハーヴィーはやっぱり有能だ。私のことを第一に考えてくれる。好きぃ…!
「私、ハーヴィーのお嫁さんになりたい!」
「結婚してもいいぞ」
ぬるっと現れたお父様とお義兄様に驚く。私の諦めかけた恋を応援してくれると言うの!?
「いやいや旦那様方、冗談はよしこちゃんッス。ただの男爵家三男ッスよ?」
「冗談ではないよ。そもそもアンジェラちゃんは嫁がせる必要がなかったんだよね。アンジェラちゃんの考案したベビー用品が全部売れているから。それをどうしてもと言うからお嫁に出したのに」
お姉様とお義兄様の間に生まれた双子…つまり私の甥と姪がたまらなく可愛くて。二人を可愛がるために作った玩具が飛ぶように売れているのだそうだ。お父様の妹、つまり私の叔母様の商会でね。ちなみに叔母様も今回の事態を把握しているから動いて下さっているわ。有り難い。
侯爵家に私との結婚をお願いされたのも、叔母様の商会や財力を狙ってのことだったのにね。失っちゃったわね。ザマァ。
「離婚に応じさせたが、向こうは再婚を願い出てくるだろう。そうなる前にハーヴィーと結婚するのだ」
「これ婚姻届ね。僕としても息子と娘に懐かれているハーヴィー君なら大歓迎だよ」
私はハーヴィーの目をじっと見る。
「私と結婚するのが嫌なら諦めるわ。貴方には幸せになってほしいもの」
「いやあ、その言い方は卑怯すぎるッスよ」
文句を言いながらもハーヴィーは書類にサインをしてくれた。だから私も名前を書く。お父様が満足げに頷いて部屋を出て行ったあとで、私はハーヴィーの手をがっちりと掴んだ。
「変なトラブルに巻き込まれるより前に、初夜を済ませましょう!」
「イヤー!お嬢様のケダモノー!!!」
その後、例のドラ息子が復縁を求めて我が家に来たけどハーヴィーが追い返した。そもそも私はもうハーヴィーと結婚した後だからね。そのことを伝えたらドラ息子が取り乱していたらしい。
「お嬢様が前歯をへし折った時に、鼻も一緒にぺっちゃんこになったみたいッス。すげー顔になってて。これが生まれつきとか戦争で傷ついてならともかく、お嬢様に殴られた跡なんだなぁと思ったらププーッて感じ。笑いを堪えるのが大変だったッス」
美しい顔立ちが不細工になってしまったらしい。そのせいか、彼の愛人は他の男とも関係を持ったそうだ。愛人を追い出したので新たに妻を探すことにしたけれど、顔のせいで誰も相手にしてくれないと嘆かれたそうだ。うるせ~!知らね~!
「責任を取れって言われたんで、残ったもう一本の前歯を折ればいいんですねって拳を見せたら慌てて帰っていったッス。これで暫くは平気かと」
「ええ、ありがとうハーヴィー」
なにが「君を愛することはない」だ。私だっておまえを好きになった覚えなんてないもんね!結局、顔以外にとりえが無かったんじゃないの!
人を馬鹿にするときは、報復されるかもしれないって思っておきなさいよ。覚悟しなさい、逆に愛されないかもしれないという危険を常に覚悟してから行動に移しなさい。軽率なことをしたら、金的三回されると思っておきなさい。
相手にだって好きな人がいて、色々なものを諦めて来ているかもしれないのだから。
「それでお嬢様、今は何を作ってるんスか?」
「貴方と私の子ができたら着せるつもりの服よ」
「ひええ。はやすぎる」