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いよいよ仕事を始めます!

「ここは天国ですか⋯今まで生きていて良かった」


目の前にズラリと並んだ豪華すぎる料理の数々を見て環莉は涙を流して喜んでいた。


「うん。こんな豪華な食事が食べられるなんて⋯家族にも食べさせてあげたいな」


睦瑤は少し寂しそうに呟いた。下級女官になる者は、大抵家が貧しいが故に家族を養うため泣く泣く働きにきた者が大半だった。睦瑤もその一人で、六人姉弟の長女として、幼い兄弟達に苦労をさせたくなくて自分を犠牲にしてやって来たのだ。


「給金も僅かしかもらえないなんて⋯聞いていた話と違うわ!」


仲介人にはそれなりの給金を貰えると言われたらしい。狡猾な仲介人にとって田舎から上京して来た者を騙すのは朝飯前だろう。


「確かに給金が安すぎるわね。これでは仕送りもままならない金額ね」


小蘭は白風を見る。


「は⋯ええ。確かに少なすぎると思うわ。でも下級女官が訴えたところで大した騒ぎにはならない。だから給金を誤魔化されてる可能性があるわ」


「それが大きいわね。下級女官に給金を配るのは確か女官長が率いる女官人事課よね?」


「皇宮から配られた給金を女官人事課が各部署に振り分けて配るからここで何か不正をしているのかもしれない」


「証拠がない以上は動けないわ。高青に調べてもらうか父上に報告するのが良いかも。あんなに馬車馬のように働かせて給金がごく僅かなんてあんまりだわ」


小蘭が白風と真剣な話をしている中、環莉や睦瑤、他の下級女官達は美味しさを噛み締めながら豪華な食事を堪能していた。


「そうだ、小蘭と白風はどこに配属されたの?」


口いっぱいに詰め込んで、まるでリスのような環莉が思い出したように聞いてきた。


「ああ、私は洗濯場よ。そう言えば小蘭はまだ聞いていないわよね?」


白風が小蘭を見て心配している。


「私は厨房の皿洗いと仕込み担当なの!睦瑤は確か裁縫部よね?」


「うん。縫い物は得意だから良かった」


環莉は厨房、睦瑤は裁縫部に配属されたらしい。


「私はどこかな?明日じゃ間に合わないし聞いてくるから白風は先に食べてて!」


心配でついてこようとする白風を止めると、小蘭は急ぎ女官人事課に向かったのだった。



妃達が住まう宮に囲まれた中心に建っている大きな建物が女官人事課だ。小蘭は急ぎ中に入っていくが、下級女官だと分かるとあからさまに嫌な顔をする女官達。小蘭は気にする事なく受付にいる年配の女性に話しかけた。


「すみません、新人なのですが明日からの配属場所を聞きにきました。担当の方はいますか?」


「可愛い顔をしてるのに下級女官かい。それはご愁傷様だね」


嫌味ったらしく小蘭に絡んでくる女性。


「配属場所を教えて欲しいだけなんですが?」


「チッ!名はなんていうんだい!」


「小蘭です」


小蘭と答えた瞬間、目の前にいる年配女官の顔色が変わった。


「そうかい。あんたが小蘭かい。決まってるよ」


小蘭を睨みつけるように見ると、下劣な笑みを浮かべた。


「あんたは明日から肥溜め掃除だ!アハハハ!あれは最底辺の仕事なのにあんた何をやらかしたんだい!」


年配の女性が下劣な笑うと、周りの女官達も汚いものを見るような目を向けた。


「⋯⋯。分かりました」


小蘭はただ一言だけ言うと、女官人事課から出て行こうとした。


「ああ、あそこで働く男達には注意しな!女と聞いただけで見境なく襲う連中らしいからね?顔だけはどこかの姫様みたいなあんたは恰好の餌食だよ!」


「⋯⋯。大丈夫です。自分の事は自分で”対処“できますから」


狂気じみた笑みを浮かべる小蘭を見て、女官達が恐怖を感じ一気に静まり返った。





「はあ!?肥溜め掃除ですって!!酷すぎる⋯絶対に上級女官の嫌がらせよ!」


憤慨する睦瑤と環莉だが、当の本人は悲観した様子も無く、まだまだ残っている豪華な食事を堪能している。


「小蘭、“王”達が動き出すわよ?今なら女官を辞められるわ、血生臭い争いが起こらなくて済むのよ」


「白風。もう遅いわ。下級女官である彼女達と出会って不当な扱いを目の当たりにしたの。ここで逃げたりしないわ!それに彼の方にもまだ再会していないのに出ていけないわ!」


小蘭の固い決意に、何も言えなくなる白風。こうと決めたら何があっても突き進むのが小蘭だからだ。


「私も肥溜め掃除の方に行くわ」


「いいえ!大丈夫よ!私がこんな事ぐらいでへこたれると思う?」


不敵に笑う小蘭だが、白風の心配は別なところにあった。


「今頃は司炎様の怒りが頂点に達してるわね」


この事はもう密偵が報告している頃であろう。白風は今から起こるであろう血生臭い争い思い浮かべて頭を抱えるのであった。




「もう一度言ってくれ。間違いじゃなければ今、肥溜め掃除と言ったか?」


紅州王である紅司炎は怒りを抑えきれず、周りにある蝋燭の火が異常に燃え上がる。報告に来た密偵は冷や汗を垂らし、主の反応をただ見守るしかない。横で聞いていた普段は温和な老人である葉雲(イエウン)の顔も今は厳しい顔つきになっていた。


「明月の差金だな。あの欲深いババアめ!」


漆黒の美しい髪が一瞬で燃えるような赤髪になり、燃えていた蝋燭は一瞬で溶けてしまった。


「司炎様、お怒りは分かりますが落ち着いて下さい。貴方がこんなにお怒りになるのです。他の王達や龍麒(ロンキ)様の耳に入ったら皇宮が血の海になりますぞ」


「上等だ。こうなったら一人一人と炙り出して嬲り殺しにしてやる!」


「ホホホ、いいかもしれませんなぁ。最近は少し汚れ過ぎていますから、外の問題も解決しましたし、そろそろ中の掃除を致しましょう」


司炎を宥めてくれると思っていた葉雲の意外な発言に、密偵は焦りを覚える。このままでは本当に血生臭い争いが起こってしまう可能性が高くなるからだ。


「光海はもうある程度は知っているだろう。食材を提供したと聞いたが?」


「はい。その時に女官を一人始末してます。麗蘭様を打った女官です」


「ああ、それは妥当な判断だ」


密偵の報告に平然と頷く司炎。


「青大将軍も外の任務が終わり明日帰還するようです。龍麒様もご一緒ですのでややこしい事にならなきゃ良いのですが、本当は麗蘭様も華々しく帰還する予定でしたのに、何故か今は下級女官として働いておられますな」


葉雲が溜め息を吐き、チラリと主の反応を待つ。


「あいつらにこの事がバレたら大騒ぎだぞ?明日は皇宮で盛大な祝賀会が開かれる予定だ。青大将軍や龍麒様は勿論、麗蘭と苦楽を共にした仲間達が出席するんだ!もし麗蘭が下級女官として働いていて、しかも肥溜め掃除なんてしてたら⋯明日で陽蘭国が滅びる未来しかないぞ!?」


「ホホホ!どうなるか楽しみですのう~!」


「どこが楽しいんだ!とにかく明日すぐに麗蘭の元へ向かうぞ!」


司炎は明日の祝賀会を執り仕切る大長秋の高青の元へ、自ら報告に向かう事にしたのだった。














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