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小蘭vs上級女官

小蘭が食堂に戻って来ると、大騒ぎになっていた。


「どう言う事だい!?こんな高級な食材を下級女官限定で与えるなんてあり得ないよ!」


食事担当の女官達が食材を見て悲鳴をあげている。そこには高級食材であるホロホロ鳥の肉や緑州産の豚肉、皇宮でもなかなか食べられない魚介類、新鮮な野菜などが屈強な男達と白風によって次々に運び込まれていた。


「ちょっと!場所を間違えていないかい!?ここは女官達が使う食堂だよ!妃様の厨房はもっと先だよ!」


「そうよ!下級女官にだって!?あり得ないよ!」


騒ぎを聞きつけた青服の上級女官達が運び込んでいる屈強な男達に詰め寄っている。下級女官達は今までに見たこともない高級食材を前に固まっていた。


「ああ!神様!!ありがとうございます!!こんな高級なものを食べれる日が来るなんて奇跡よ!」


先程まで絶望していた環莉が復活して今度は喜びで涙していた。


「あ!小蘭ー!見てよこれ!ちょっと前から運び込まれてきて⋯なんか凄いよね?でも何でだろう?」


睦瑤は下級女官に対してのここまでの好待遇に疑問を持ち始めていた。


「光海⋯ありがたいけどこれはやばいだろ」


苦笑いの小蘭の元へ白風が戻ってきた。


「私は少しの米と野菜類を頼んだんだけど、光海様が許すわけもなく⋯」


「そうね、ありがとう」


白風にお礼を言っている間も、上級女官達は騒ぎ立てていた。


「あり得ないわ!今すぐに女官長に報告してこないと!」


「下級女官に不釣り合いな食材を今すぐに没収してちょうだい!」


そう言いながら積み上げられた食材を運び出そうとする上級女官達の前に屈強な男達が立ちはだかり睨みを効かせるので、彼女達は萎縮してしまう。そこへ小蘭がやって来る。


「なぜ下級女官には不釣り合いなんですか?雑用を担当する下級女官がいるからあなた達は威張り散らせて、妃様達も皇族も何不自由なく暮らせているのでしょう?なのに下級女官が少しでも良い思いをすれば癇癪を起こして騒ぎ立てて恥ずかしくないんですか?」


小蘭の言葉にその場が一瞬にして静まり返るが、すぐに上級女官達が顔を真っ赤にして激昂する。


「なんですって!?生意気な!名は何て言うの!?」


「ああ、小蘭と申します」


「今の言葉は不敬よ?すぐに捕らえて罰を与えるわ!覚悟しなさい!!」


「この食材は皇宮の経費ではありませんよ?不当な扱いをされている下級女官が不憫だととある方が寄付して下さいました。なのであなた達に取り上げる権利は無いと思いますが?」


小蘭がそう言うと、屈強な男達も肯定するように頷いた。


「とある方ですって?一体誰なのよ!ここは皇宮よ!皇宮には皇宮のルールがあるのよ!そいつをここへ連れてきなさい!皇帝陛下の前に引きずっていってやるわ!あんたもね!」


上級女官の発言を聞いて、白風や屈強な男達がなぜか大笑いしている。それが上級女官達の逆鱗に触れ、目の前にいた小蘭の頬を思いっきり平手打ちした。


「⋯⋯。あなた達は上級女官ですよね?ではこの皇宮であなた達はどんな貢献をしているのですか?」


「下賤が偉そうに!今、女官長に報告に行ってるからあんたは皇族に対しての不敬罪と侮辱罪で拘束されるわ!死罪になってさっさと消えなさいよ!」


今度は数人で小蘭を押さえつけて、また手を挙げようとした。その時だった。


「何の騒ぎなの?」


その場が一瞬でピリつき、緊張感が漂う。紫色の女官服を着た五十代くらいの氷のような雰囲気の女性が赤服の女官を十数人と引き連れてやって来た。その女性を見た食事担当の女官達は一気に青ざめて急いでその場で平伏した。


小蘭を押さえつけていた上級女官達は嫌な笑みを浮かべた。そして紫色の女官服を着た女性に近付くと、コソコソと何やら話をしている。


「お前が皇族や妃様達を侮辱した女官か?」


「侮辱した覚えはありません。ここにある食材を守ろうとしただけです」


堂々と言い返す小蘭に、女性は一瞬だけ眉を顰めたように見えたが、また冷たい表情に戻った。そして並べられている大量の高級食材を見た。


「これが寄付だと?ふざけた事を言うんじゃない。どこから手に入れたか今すぐに言いなさい」


「はぁ、もういいや。面倒くさいから食材は仮住まいの方に運んで皆んなで料理します。だったら良いですよね?」


生意気な小蘭の態度に上級女官達が唖然とする。紫色の女官服を着た女性、女官長の顔が怒りでピクついていた。睦瑤や環莉をはじめ、下級女官達が見る見るうちに青ざめていく。


「兵を呼びなさい。このような女官はいりません。ここにある食材は妃様達の厨房に急いで運びなさい」


小蘭を睨みつけてそう命じる女官長。するとすぐに命じられた数人の兵士が現れ、小蘭を無理矢理に捕らえたので、それを見た白風と屈強な男達が動き出そうとした時だった。


「何をしてるんだ?」


気配もなく現れた人物に、屈強な男達や白風が急いで平伏した。小蘭を捕らえていた兵士たちは、その人物を見てガタガタと震え、上級女官達も驚いきつつも急いでその場に平伏す。


女官長である明月(メイゲツ)も、いきなり現れた大物に目を見開き、そして先程の威厳はどこへやら急いで平伏したのだった。


「私が食材を寄付した。何か文句があるのか?」


”緑州王“が歩き出し、膝をついたままの小蘭を自らの手で立たせてると、明月の方を向き恐ろしいほど静かに問いかけた。


「⋯⋯。下級女官にだけこのような高級食材を与えてしまうと他の上級女官から不満が出てしまいます。妃様達ですらこのような食材を用意できない事もありますので、妃様達に知られたら大事になります」


「そうか。だから何だ?後宮の食材の事に不満があるなら皇帝陛下に直接文句を言えば良いだろう?この食材は俺が下級女官たちに寄付をしたんだ。聞いた話だと、下級女官には食事を出さないらしいからな。死人が出る前に寄付をしたんだ」


光海が明月をはじめとして上級女官達に厳しい視線を送る。


「⋯⋯」


「まさか女官長とあろう者が知らなかったのか?それともお前が指示したのか?」


「⋯⋯申し訳ありません。急ぎそのような指示を出した者を見つけ出し捕らえます」


光海に睨まれ、顔を青ざめていく明月。


「この食材はあくまでも下級女官たちに寄付したものだ。上級女官がまた何かしたと俺の耳に入った瞬間にはもうお前たちの命はないと思え」


光海の恐ろしいほどの威圧に、上級女官達が震えていた。緑州王が冷酷非情なのは皇宮中で知らない人はいないくらい有名な話だった。皇帝陛下ですら一目置くという権力と財力で、気に入らない者は次々に闇に葬られてきたという。


絶世の美貌を持つ緑光海だが、とても冷たく表情に温かみなど一切ない。まるで精巧に作られた人形の様だった。


「確かお前は明月だな?このまま女官長でいたいならこの件には関わるな。言ってる事はわかるな?」


「はい。申し訳ありませんでした」


光海がもう行けというと、明月や上級女官達は一礼をするとそそくさと消えていった。だが、小蘭を叩いた女官だけは動こうにも体が強張り動けないでいた。


「ああ、お前は別だ。俺の機嫌を著しく損ねた」


「光海様!私が何をしたのですか!?謝らせて頂きます!!なので命だけは⋯!!」


泣いて謝る女官の髪の毛を掴むと、遠慮無く引き摺りながら消えていったが泣き叫ぶ女官の声だけが響き渡る。その光景を見てただただ呆然と立ち尽くす下級女官達だが、白風と屈強な男達は何事もなかった様に立ち上がると食材を厨房に運び始めた。


「小蘭、大丈夫?」


睦瑤が小蘭に近寄り、打たれた頬を心配そうに見ていた。


「うん。命拾いしたよ」


「あの方が緑州王⋯あまり見れなかったけど凄く綺麗なのに凄く怖かった」


震える睦瑤だが、環莉はというともう食材に釘付けだ。


「こんなに寄付してくれるなんて⋯どこが冷酷非情なの!ああ、緑州王様!ありがとうございます!!」


嬉しそうに食材運びを手伝い出した環莉は、他の下級女官達にも指示を始めた。


「早く運ばないと傷んじゃうわ!皆んな手伝ってくれる!?」


下級女官達は見たことのないような高級食材を緊張気味に運び始めた。




その頃、部屋に戻った女官長の明月は相当悔しかったのだろう、綺麗な花が飾ってある花瓶を持ち上げて思いっきり床に叩きつけた。


「⋯⋯。あの生意気な女官⋯絶対に許さないわ」


明月はそう呟くと不敵に笑ったのだった。








































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この女官長、頭悪いですね 死ぬよ?
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