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緑光海という男

謁見の間には仲良く四人で向かうが、下級女官が皇帝陛下と並んで歩く光景はかなり衝撃的だった。普通だったら皇帝陛下の顔さえ見る事が出来ない身分の女官が、皇帝陛下と高青、それに霧柔に挟まれた状態で堂々と歩いているのだ。驚かない訳がない状況だが、最高位の者に話しかける勇気もないので皆が平伏したまま唖然としていた。


「はぁ⋯光海は厄介だぞ?」


「皇帝でしょ!国で一番偉いんだから自信持ちなよ!」


能天気な小蘭に三人から一斉に非難の目が向けられる。


「光海が優しいと思ってるのはお前だけだよ。俺は穏やかに過ごしたいんだよ!だがいつも問題を持ってくるのはお前だ!」


「えー?妖魔退治に一番貢献してるのは私だよ?光海や龍麒(ロンキ)、青大将軍のおかげでしょ?問題って失礼じゃない?」


皇帝陛下である龍飛に対して物怖じせずに言い返す小蘭。


「光海は苦手なんだよ」


「皇帝でも苦手なものがあるんだ!」


「ああ!光海とお前だ!」


睨み合う皇帝陛下と小蘭だが、高青と霧柔はそんな二人に無視を決め込んで先へと進んで行く。そして謁見の間に到着した時、赤服の高官達や女官達が急いで平伏した。皇帝陛下から漂う不機嫌な雰囲気を察したのだろう、皆が酷く緊張している。


「ん?何だお前は!?」


一人の高官が下級女官である小蘭に気付いた。他の高官や女官もその大声で気付いたのか驚き、そして顔を顰めた。


「賤しい身分の分際で皇帝陛下の近くに立っているとは何事だ!誰か!この者を捕らえよ!!」


高官が小蘭に近づこうとした瞬間にそれは起こった。


「うぐぅ⋯ぐはっ!」


高官がいきなり苦しみ出して、口から吐血する。


「はぁ、うるさい小蝿だな」


謁見の間である部屋の内部からドアが開き、一人の男性がゆっくりとこちらに歩いて来た。緑色の美しい長髪を一本に纏め、全身真っ白な漢服を身に纏ったその姿は神秘的で息を飲むほどの美しさだ。端正な顔立ちだが、瞳に感情がなく、無表情が故に冷たい印象で近寄り難い雰囲気を持つ。


「誰が賤しい身分だと?ああ、お前か?」


無表情の男性が苦しむ高官を睨みつける。


「おい、そこまでにしろ」


皇帝である龍飛が男性を嗜めるが、男性は今気付いたとばかりに視線を向けた。


「陛下、小蝿は一匹でも放っておくとどんどん増えますよ?1匹のうちに始末しないと」


無表情で苦しむ高官を見下ろす男性を見て、震えが止まらない他の高官や女官達。


「⋯光海様。私は何とも思っていませんので大丈夫です」


小蘭が無表情の男性に近寄り止めるが、それを見た者達は下級女官の無謀さに呆れていた。


「下級⋯女官が⋯!気安く⋯ゲホッ⋯光海様に触れ⋯るな!」


「そうだぞ!見目が良くても所詮は賤しい身分の下女が!」


「何故下級女官がいるの!早く連れて行きなさい!」


高官や女官が小蘭を見下し、拘束するよう周りにいる兵士を呼びつける。


「せっかく庇ったのに馬鹿な連中。賤しい身分?ふざけんな。お前らの方がよっぽど卑しい欲にまみれた化け物だね!」


小蘭はそれだけ言うとさっさと謁見の間に入って行く。皇帝である龍飛は高官や女官達を見る事もなく小蘭を追いかけて入って行き、それに続き高青と霧柔も続いた。


「何なのあの女官は!化け物ですって!?」


「だが陛下よりも先に謁見の間に入っていったぞ?どう言う事だ?」


激昂する女官と、不思議がる高官達に光海が近づいて行く。


「彼女の名誉を傷つけるようなゴミどもはいらないな」


そう呟くと他の高官や女官達が苦しみ出し、吐血して倒れ込む。


「光海ーー!そこまでにして早く入って来て!」


小蘭の一声で皆の苦しみが止んだ。


「命拾いしたな。次はないからな?」


光海はそう言い残して謁見の間へと消えていった。


高官や女官は命拾いはしたものの、肺に異常が見受けられ二ヶ月も寝たきりになる程の重症を負ったのだった。





「光海さんよ、少しは自重してくれ」


龍飛が苦言を呈すが、光海は気にする事なく小蘭が座る横にゆっくりと座った。


「そんな事より、陛下。小蘭が何故に下級女官なのでしょうか?それにご飯も食べさせてもらえないなどあってはならない事態です」


「そんな事よりって⋯。俺だって今さっき聞いたんだよ!麗⋯小蘭が女官やってるのも、飯が止められているのもな!」


光海は視線を小蘭に移した。


「小蘭。女官になった理由を教えてくれ。地位も名誉も金もあるのになぜ下級女官になったんだ?」


「それは、とある人に恋をしたから」


嬉しそうに頬を染める小蘭とは対照的に絶望的に青ざめる光海。


「恋?⋯まだ早いと甘く見てたな」


「何?」


「いや、相手は誰だ?俺が見定めてやる」


「見定めて⋯いや、それは殺そうとしている目だよ」


緑光海は”緑州王“とも呼ばれ、五大王の一人だ。広大な領地を持ち、陽蘭国で一番大きい商会の会頭でもある。皇宮よりも裕福だと言われているくらいの大金持ちだが、本人はお金に余り興味がなく、小蘭(麗蘭)の率いる私兵の資金や遊び代を出してあげている大きな後ろ盾だ。


「とにかく!父上からも一ヶ月だけ許可をもらったから⋯ふふ⋯」


「下級女官ならそいつに出会わない可能性の方が大きいな」


嬉しそうに笑う小蘭と何か企んでいる光海を見て、皇帝である龍飛は溜め息を吐く。


「小蘭、下級女官は大変だぞ?恋する時間なんてないと思うが?」


「大丈夫!皇宮にいるなら絶対に会えるわ!」


「皇宮にいるなら?っていうとまさか皇族の誰かか?」


「そうよ?」


当たり前のように頷く小蘭だが、龍飛も高青も光海ですら呆れていた。


「おい!皇族なら俺に言えよ!すぐにでも婚礼させるぞ?」


「皇帝陛下!私は紅家の令嬢ではなく、一人の女として見てほしいのよ!身分なんてクソ喰らえです!」


「相変わらず口が悪いな。いいか?言い方が悪いかもしれんが、下級女官が皇族に会えるなんて事はまずない」


龍飛に全否定されてあからさまに落ち込む小蘭。


「陛下、小蘭を虐めないでいただきたい。まだ皇帝を続けたいならな?」


「ああ!本当に面倒くさい連中だな!小蘭、お前の嫁ぎ先は困らない位にあるんだぞ?俺の所に縁談の申し入れが山ほどきているんだ。まぁ司炎がその場で燃やしているが⋯」


自分で言っていて馬鹿らしくなってきた龍飛。


「そうだぞ?皇族に嫁がなくてももっと良い条件の嫁ぎ先はいくらでもある」


光海はここぞとばかりに小蘭を説得する。


「⋯⋯。とりあえず一ヶ月は女官として頑張る。それからの事はまた考えるよ」


「「「⋯⋯」」」


落ち込む小蘭にそれ以上何も言えない三人と、その様子を固唾と見守るしかない霧柔。


「あ、光海。白風から聞いたんだよね?食事を手配してくれたの?」


「ああ、とりあえず7日分はあるはずだ」


「さすが国一番の商会!!よ!太っ腹!!」


小蘭に褒められて悪い気がしない光海だが、やはり心配でならない。


「下級女官か。さすがに心配だから定期的に様子を見に行くからな」


「いやいや!緑州王が毎日下級女官に会いに来たら大騒ぎどころの話じゃないよ!?」


「俺も様子を見に行かないと心配だ。何かやらかしそうで政務どころじゃない」


「いやいや!皇帝陛下が下級女官に会いに来たら色々な噂になりそうだし絶対来ないでよ!?」


光海と龍飛を必死に説得する小蘭。


「とにかく、私はもう戻るね?お腹を空かした皆が心配だし、命令した例の上級女官がやって来るかもしれないからね」


周りの心配をよそに小蘭は皆に一礼すると、さっさと出ていってしまった。


「はぁ。光海、今回の件は司炎に言うなよ?大事になるからな」


「陛下。紅州王の密偵は皇宮だけでどのくらいいると思う?俺でも把握できないんだぞ?」


光海の言う通りだ。紅司炎はこの国の宰相であり、政を取り纏め、表も裏も知り尽くしている。密偵も各地に潜ませていて知らない事は無いと言っていい程だった。


「司炎に知られなくても俺が許さない」


「おい、血生臭い事はするなよ?」


「血生臭い事があったと気付かれなきゃ良い話だ」


そんな光海に頭を抱える龍飛。


「俺も色々と対策を練らないといけないからこれで失礼する」


「お前が勝手に来たんじゃねーか!」


文句を言う龍飛だが、光海はそれを気にすることなくそそくさと謁見の間を出て行った。


「⋯⋯陛下。諦めましょう。こうと決めたら絶対に実行に移すのが麗蘭様と光海様です」


高青が笑顔で龍飛に現実を突きつけたのだった。


























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