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小蘭の怒りと悪人の末路⑥

「皇后様、落ち着いて下さいませ!」


「母上!おやめ下さい!」


皇后専属の女官達や息子である龍鳳が必死に止めるが、皇后の癇癪は治らずに花瓶や貴重な陶器を投げ割り続けていた。


「あの女が大事な客人ですって!?下級女官風情が!!あの美貌で皇帝に擦り寄ったのね!!」


皇后の帝華妃は、五大名家(紅・緑・青・白・黒)の出ではないが、陽蘭国を支えてきた貴族である帝家出身だ。貴族として何不自由なく育てられた帝華妃はプライドが高く、傲慢な性格であった。妖魔や魔族との戦いに身を置いていた当時皇太子だった龍飛にとって結婚はそう大事な事ではなかった。なので当時の皇帝に言われるままに帝家の令嬢と政略結婚をしたのだが、後に後悔することになる。


今でも龍飛の寵愛を得ようと必死な皇后に、周りは反ば呆れていた。皇帝には皇后以外に三人の側室がいるが、どれも政略結婚であり寵妃はいない。子供は皇后との間に二人、側室との間には三人の子がいる。特に側室が懐妊した時は厳重な警戒を行う必要があった。


懐妊したあとすぐに流産するという事が続いたので、高青や部下達が急ぎ調べた結果、この皇后が関わっている事が判明したのだ。だが、その後すぐに証拠となる書類が何者かに燃やされ、証人だった女官は地下牢の中で自害した。これも他殺の疑いを捨てきれなかった。


皇后の龍飛への愛は異常過ぎるほどで、二人の間には皇太子の龍鳳と第二皇子である龍麒という子がいる。特に若き日の龍飛に良く似た龍麒を溺愛していたが、龍麒には反対に酷く嫌われていた。


「何で皇帝も龍麒もわたくしを拒むの!!こんなにも愛しているのに!!」


髪を振り乱し、常軌を逸したその姿に皆が恐怖を感じている中、皇太子の龍鳳だけが懸命に母親を止めていた。


「落ち着いて下さい!あの者は下級女官の格好をしていましたが、紅家の令嬢です!名は紅麗蘭(コウレイラン)、あの英雄戦姫です!!」


「な⋯あの子が紅麗蘭ですって!?龍麒を奪ったあの女狐なの!?⋯⋯ふふふ⋯女官の格好をしているという事は今は女官なのよね?」


嫌な笑みを浮かべる皇后に、周りは嫌な予感を感じていた。


「そうみたいですが、母上、戦姫には手を出さない方が良いです!」


「あら、龍麒の母として仲良くしたいだけよ」


皇后はそう言いながら嬉しそうに笑ったのだった。





一方で小蘭達は食事を終わらせて、尋問所へ向かっていた。



尋問所は、皇宮内にある大理寺(警察機関)の施設内にあるので、少し歩く。皇帝や紅州王、緑州王、皇子が移動するとなると大勢の護衛や従者などが付いてくるが、今回は皇帝の命令により護衛長の霧柔と大長秋の高青、そして少数の従者を連れ立っての目立たない移動となった。


一番後ろを子猫に戻った天ちゃんを抱っこした小蘭が歩いているが、その両脇を龍麒と緑光海がぴったりとくっ付き歩いていた。


「ちょっと、少し離れてよ。歩きづらい!」


「抱っこしてあげようか?」


恥ずかしげもなくさらりと言ってくる光海に小蘭は呆れていた。


「お前がいつ襲われるか分からないからな」


「だったらあんたの父親を護りなよ!」


皇帝を心配せずに小蘭を守ろうとする龍麒。


「そうだぞ!何で皇帝である俺じゃなくてこいつを護るんだ!?戦姫だぞ?」


抗議する龍飛を皆が無視する。


「娘は私が護るから大丈夫だ。あまり近づくな!この狼どもめ!!」


紅司炎が小蘭を自分の方へ引っ張る。


『麗ちゃんはモテモテだね!なのに変な奴を好きになったよね!』


「ウッ⋯痛いとこを突くわね」


天ちゃんの言葉に苦笑いするしかない小蘭。


「でもあいつ、星花(セイファ)を狙ってるわよ!絶対に近付かせない!!」


小蘭が鼻息荒く宣言する。


「皇太子をあいつ呼ばわりするな。⋯⋯まぁいいか」


「紅州王、甘やかし過ぎですよ」


司炎の甘やかしに苦言を呈するのは次期青州王である青栄樹だ。


皇帝率いる超大物達が普通に歩いている光景に、皆が驚き急いで平伏すが、最後に歩いてくる女官を見た者は首を傾げていた。


「おお、ここが大理寺か。初めてきたかも!!」


興奮を隠せない小蘭が皇帝である龍飛を押し除け、キョロキョロと興味深そうに辺りを見回していた。そこへ急いでやって来た大理寺卿(長官)と大理寺少卿(次官)は冷や汗を掻きながら緊張気味に跪いた。皇帝以外にも紅州王や緑州王がいる事に驚き、また第二皇子である龍麒や青栄樹など錚々たる大物もいるので周りの大理寺で働く者達も急ぎ平伏していた。


「急で悪いが、罪人の元へ案内してくれ」


皇帝である龍飛が大理寺卿に案内を求めた。


「皇帝陛下、龍麒殿下、そして⋯」


「挨拶はいいから早く案内しろ」


大理寺卿は挨拶をしようとしたが、緑州王が睨みを効かせた。冷酷非情と噂の緑州王に恐れをなしてか、大理寺卿は急ぎ案内を始めた。


「罪人は全部で四十三人です。特に女官長である明月、そして太監三名、高官六名が横領や殺人と数々の悪事に関わっております」


歩きながら皇帝達に説明する大理寺卿。初めは頼りないなと思っていた小蘭は、考えを改めたのだった。


(こいつらが怖過ぎるだけだ)


小蘭は自分の周りの男達をジト目で見ていた。


「何だその目は?」


気付いた龍麒が変な顔をする。


大理寺の奥にある地下へと続く階段の前に着いた。ここからはより厳重になっている。二重の鍵を開けて松明を持ち地下へと歩き出した大理寺の者に続いて歩き出そうとしたが、大理寺卿が小蘭をチラリと見て話しかけて来た。


「まさかですが、あなたは麗蘭様では?」


「ええ、そうです。どこかでお会いしましたか?」


麗蘭と分かった途端、大理寺卿は目に涙を浮かべて深く頭を下げ始めたので小蘭は驚いた。


「ああやっぱり!!我が妻と息子を助けて頂きありがとうございます!!数ヶ月前、妻が実家がある辺境から帰る途中に魔族に襲われました。絶体絶命の所を戦姫率いる紅軍に救って頂いたそうで⋯紅州王にはご挨拶させて頂いたのですが戦姫様にはまだでしたので、本当にありがとうございます!」


「数ヶ月前、ああ!あの綺麗な女性と可愛い坊ちゃんね!」


「はい!私の愛する妻と息子で⋯もし二人を失っていたらと思うと生きていけませんでした」


「良かったわ!これからも大事にしてね!」


「はい!」


そんな光景を微笑ましく見ていた周りも先を歩き出した。階段を降りていき、そして独特な臭いがする地下牢へ辿り着いた。


「一番奥に先ほど言った者達が拘束されています」


奥に進むにつれて牢の中にいる罪人がこちらに罵声を浴びせたり、奇声を発したりと空気が変わって来た。そんな者達を気にする事なく進んできたが、一人の罪人が小蘭を見て下品な笑みを浮かべた。


「お!こんないい女をよこしてくれるのか!?ご奉仕頼むぜ!!」


下級女官の服を着た小蘭に檻から手を伸ばす罪人だったが、次の瞬間、皇帝である龍飛が近くにいた護衛長の霧柔の腰にある剣を抜いた。そしてゲタゲタ笑う罪人の腹に思いっきり突き刺した。霧柔に止められるまで何度も何度も突き刺し続けた。


「うるさい蠅だ」


無表情で死んだ罪人を見ている龍飛に周りも少し驚いていた。小蘭も同じく驚いていた。罵声を浴びせたりしていた罪人達はその光景を見て恐ろしくなり黙ってしまい、大理寺卿や少卿、尋問官も驚き恐怖で動けないでいた。


「皇帝陛下、私は大丈夫です。ありがとうございます」


小蘭は誰も近づけない皇帝龍飛の元へ行くと、頭を下げて礼を言う。


「⋯⋯ああ、驚かせたな。皆も悪かった。先へ案内してくれ」


いつもの雰囲気に戻った龍飛に、大理寺の者は安堵して先に進んでいくのが、紅州王である紅司炎だけは何やら考え込んでいたのだった。



























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