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小蘭の怒りと悪人の末路①

この世界には不思議な力を持っている者が少数であるが実在する。それは霊力を秘める者、そして妖や精霊と契約する者だ。


小蘭の元に現れた水蓮と呼ばれる青年は明らかに人ではなかった。宙に浮き、まるで水中を泳いでいるように自由に動いている。その姿は神秘的で作業員達は目が離せないくらいであった。


『ここは酷く澱んでいますね。無念や怨みが立ち込めています』


水蓮が悲しそうに告げた。


「そうね。だから私達が解放してあげるのよ。生きてる人間も、死者もね」


小蘭の言葉に作業員は驚いたが、お互いに強く頷きながら頭を下げ始めた。


「お嬢ちゃん、あんたのおかげで身体が楽になったよ。死んだ奴らもあの世で幸せになれるようにしてやってくれ」


「あんたが何者だか知らねぇが、今まで会った誰よりも信用できる!どうかあいつらを成仏させてやってくれ!」


涙ながらに訴える作業員に、小蘭は静かに頷いた。


「水蓮、まずは水を出して彼等を綺麗にしてあげて」


『私の水は普通と違うので驚かないでくださいね』


水蓮は作業員に声をかけると、両手を天に掲げた。すると綺麗な水球が現れてそれが作業員達の頭上へゆっくりと移動をはじめた。そしてその水球が雨のように彼等に降り注いだ瞬間に、汚れていた身体が見る見るうちに綺麗になり、身につけていた布切れまでも白く輝いていた。


「おお!!こんなに綺麗になったのはいつ以来だ!?」


「ああ⋯ありがとうございます⋯うぅ⋯」


「さっぱりしました!」


作業員達が喜びを分かち合っている。それを見た小蘭と水蓮も嬉しそうに笑ったのだった。



その頃、酷い悪臭を気にする事なく、糞尿を捨てている肥溜めまでやって来たのはこの国の第二皇子である黄龍麒と青州王の息子であり大将軍でもある青栄樹だ。


「酷いな。ここまでとは⋯」


肥溜めには無数の人間のであろう骨が浮かんでいた。


「とにかく今は浄化作業を始めよう。向こうでは小蘭が水蓮を呼んだみたいだな」


青栄樹は激昂する龍麒を宥めると、肥溜めに向けて手を翳して何やら唱えて始めた。すると、肥溜めが綺麗な青い炎に包まれ次第に強烈な悪臭がなくなり、糞尿や骨も溶けるように消えていき、そこには何も無くなった。


「よし、あとは龍麒、お前に任せるぞ」


「ああ、安らかに成仏ができるように最善を尽くす」


龍麒が静かに目を閉じ、そして何やら唱えながら今度はゆっくりと目を開けていく。すると、彼の瞳が黄金に輝き、その目には何かを映していた。


それは痩せこけた先程の作業員のような男達だった。だが彼等は涙を流し、何かを訴えている。それに身体が透けているので明らかに生きている人間ではなかった。


「苦しい思いをしたな。この国の皇族として謝罪する。申し訳なかった」


『憎い⋯あいつらが⋯憎い⋯』


「ああ、憎いな。だが、その憎しみを俺に預けてくれないか?俺がそいつらに必ず報いを受けさせると約束する!陽蘭国第二皇子としての誓いだ!!」


『皇子⋯うぅ⋯悔しい⋯悔しい⋯』


「その悔しい思いも俺が必ず晴らすから、お前達は天へ安らかに成仏してくれ」


龍麒が必死に説得をすると、亡き者達は一人また一人と安らかな顔になり天に昇っていったのだった。そして静けさだけが残った。


「ここに慰霊碑を建てる。そして今後このような事がないように徹底的に見直しを図らないとな」


「ああ、そうだな」


龍麒の意見に賛同した青栄樹。そして二人は小蘭の元へ戻って行くのだった。




「おい、急に悪臭がなくなったぞ!」


あれほど酷かった悪臭が急に消えてしまい、逆に驚く作業員達だったが、小蘭が何か言おうとしたタイミングで天ちゃんが戻って来た。


「天ちゃんが戻ったでしゅよー!」


「おかえり。あのクズ兵士達はどこに捨ててきたの?」


「あのね?天ちゃんは皇帝の所に捨ててこようとしたんだけど⋯⋯」


「俺が処分した」


天ちゃんの背後からこちらに向かい優雅に歩いてくるのは緑州王こと緑光海であった。


「処分って⋯⋯亡骸は残ってる?」


「残ってると思うか?」


「⋯⋯」


光海の罪悪感の全くない笑顔に、小蘭も水蓮も苦笑いしか出ない。


「ああ、麗蘭をここに配属した明月は捕らえた。他にも掃除が必要な所があるみたいだな?」


小蘭の背後にいる男達を見た光海が不敵に笑った。


「ええ。あそこに倒れている大柄の男がここの責任者らしいの。こいつを尋問してここに関わっていた奴を全員炙り出してやる!」


「死んでるのか?」


「生きてるよ!⋯⋯多分」


そこで天ちゃんが倒れている男の元へ走って行くと、ツンツンして生存を確認していた。


「うーん⋯辛うじて生きてるよ!」


元気に報告する天ちゃんとそれを聞いてちょっとほっとする小蘭。


「で?麗蘭。このまま女官を続ける気じゃないだろうな?」


「光海、当たり前でしょ!あの方に気持ちを伝えるまでは絶対に続けるわ!それに中から掃除もしないといけないでしょ?女官だから気づくこともあるって今回身に染みて分かったわ」


「恋には大反対だが、お前のその正義感は止められないな。俺が全力で協力するから思う存分に掃除しろ」


普段は無表情な光海がフッと笑った。そのあまりの破壊力に小蘭ですらドキッとしてしまう。


「あんたも忙しいんだから無理しないでよ?」


「おい!俺の前でイチャイチャするな!」


そこへ何故か不機嫌な龍麒と、苦笑いの青栄樹が戻って来た。


「イチャイチャ?してないよ。それより終わったの?」


「ああ、無事に成仏したから大丈夫だ。これから戻って調査を進める」


龍麒が光海を睨みつけながら報告する。


「お前達には療養してもらってから適切な配属先を提供する。だから安心してくれ」


龍麒の言葉に泣いて喜ぶ作業員達。


いつの間にか水蓮が消えていて、小蘭だけになっていた。小蘭は作業員の無念を晴らす為、龍麒、栄樹、そして光海と天ちゃんと共に皇帝陛下が政務する“護龍宮”へ向かうのであった。
















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