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行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました  作者: 鳥柄ささみ
第二章 恋

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第四十三話 使えるものは使う

「今ちょっといい?」


 パーティーから帰宅後、セレナから呼び止められる。セレナから声をかけられることなど滅多にないので、シアは「いいわよ」と即答しながら、「ここじゃなんだし、部屋で話しましょうか」と流れるようにそのまま自室へと向かった。


「今日は、ごめんなさい。あと、ありがとう」


 部屋に着くなり、セレナから感謝の言葉と謝罪の言葉を同時にもらう。

 あまりに不意打ちな言葉に「え!?」と思わず驚けば、「何よ。なんか文句あるわけ?」とセレナからの喧嘩腰の返しが来て、シアはすぐさま「ごめんなさい。そういう意味じゃなくて」と弁明した。


「いきなりだったから単純に驚いただけよ。変な意味はないわ」

「……なら、いいけど」

「私も、ありがとうセレナ。私のことを母と認めててくれて嬉しかったわ」


 シアが素直に思ったことを伝えれば、一気に顔を真っ赤にさせるセレナ。相変わらず、わかりやすい。


「別に、事実を言っただけだし」

「それでも嬉しかったの。あと、ハンカチも大事にしてくれてありがとう」

「そりゃ、もらったものは大事にするのは当たり前でしょ」


 冷たく素っ気ない態度ながらも顔が赤いまま。耳まで赤く染まっているのを見て、微笑ましくなる。


「そうね。当然のことかもしれないけど、その当然のことができるセレナは偉いわ。……まぁ、でも、こんなこと二度とないといいけど、いくら相手が聞くに耐えない暴言を吐いてきたって暴力はダメよ。公爵令嬢なのだもの。みんなの模範となる行動をしないと」


 今回の件はたまたま居合わせたクロヴィスやマリベルのおかげで良い方向に進んだが、毎度ながらこのように上手くことは進まないだろう。そのとき、困るのはセレナだ。

 だからこそ、ダメなことはダメときちんと伝えておく。


「それについては謝るわ。クロヴィス様にも言われたし」

「クロヴィス様が?」

「あんたと同じように手を出した時点で自分が悪くなるのだから、先に手を出すのはやめたほうがいいって言われた」

「さすがクロヴィス様ね」


 その辺のノウハウもしっかり仕込まれているらしい。恐らく、マリベルの教育の賜物であろう。


(マリベル様って見た目はのほほんとして清楚系だけど、計算高いし、いざというときは怖いのよね)


 ニコニコして嫌味を飛ばしているうちはまだマシだが、損得勘定がはっきりしている人物なので、切り捨てるときはバッサリといく。

 そういう部分は、元々同じ流通を扱ってる家出身としてある程度理解はできるが、マリベルはシアよりもさらにシビアで手厳しかった。

 恐らく、そういうところが王妃に相応しい要素であるのだろう。


「まぁないとは思うけど、もし次があったらその場では我慢よ」

「どういうこと? ずっと我慢し続けろってこと?」

「んなわけないでしょ。その後しっかりと根回しして、そのとき味わった苦痛の数十倍を相手にお返しして完膚なきまでに叩き潰してやるのよ。我が家は公爵家なのだもの、使える権力は使わないとね」

「あんたのほうがよっぽどえげつないわね」


 セレナの言葉にシアがにっこりと微笑む。

 商売人の娘なだけあって、損をするのは許せない。そのため、やるときは徹底してやるのがモットーだ。やられたらやり返す。相手が後悔するまで、使えるものは何でも使ってとことん追い詰め、潰す。それがシアの信条だ。


「そういえば、ハンカチもごめんなさい。勝手に渡しちゃって」

「あぁ、いいのよ。私的にはいい判断だと思ったわ。あと、ハンカチは多分返してくれると思うわよ」

「え?」

「マリベル様ってそういうところきっちりとされてる方だから、綺麗に洗った上で素敵な香水つきで返してくれると思うわ」

「そうなの?」

「だから安心してちょうだい」


 シアの言葉に安堵するセレナ。

 それほど大切にしてくれてると思うとシアも嬉しかった。


「ということは、クロヴィス様とまた会えるってこと?」

「そうね、多分。マリベル様がお茶会開くって言ってたし、お呼ばれされると思うから、そのときにまた会えるんじゃないかしら? まぁ、王族だから多忙だし、あくまで予定が合えばだろうけど」

「そう……」


 シアの言葉にあからさまにしょんぼりとするセレナ。その反応に、これはもしかしてもしかするのでは、と緩みそうな口元を引き結びながら「こほんっ」と小さく咳払いした。


「クロヴィス様に会いたいなら、マリベル様に伝えておきましょうか?」

「え! いいの!?」

「別に、希望を言うだけならできるわよ。もちろん、強制はできないけど」

「わかってるわよ。でも、とりあえずお願いして」

「はいはい。手紙が来たときにでも伝えておくわ」


 シアの言葉に嬉しそうに表情を和らげるセレナ。あぁ、青春だなと胸がほっこりとする。


「クロヴィス様なら、私はいくらでも応援するわよ。まぁ、恋のノウハウはないから戦力にはならないけど、話聞くのは得意だし、根回しも得意だからそういうところは任せてちょうだい」

「じゃあ、お願いするわ。……使えるものは徹底的に使わないと、でしょう?」


 セレナがニヤッと口元を歪める。

 セレナの返しにシアは一瞬面食らったあと、「えぇ、そうね」とにっこりと微笑むのだった。

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