第四十話 向き合う
「セレナ。どうしてここに?」
「あんたが帰ってくるのが遅いから見に来たのよ。でも、何でオルセウスと……」
シアと同様に動揺する素ぶりを見せるセレナ。こんな人気のないところでなぜシアが接点のないはずのオルセウス達と一緒にいるのかわからず、混乱しているようだった。
それを察してか、先程の意地の悪い笑みから一転。オルセウスは悲痛な表情でセレナに近づいた。
「聞いてくれよ、セレナ! セレナの意地悪な継母がオレとセレナの交際を認めないと突っかかってきたんだ! 酷いとは思わないか? オレはこんなにも君を真剣に愛しているというのに……!」
先程とは打って変わっての態度。まるで役者さながらの演技である。
これほどの変わり身の早さでは、年頃のセレナが騙されるのも無理はないと素直に思った。
「えっと……?」
困惑するセレナ。
突然オルセウスから詰め寄られて話を振られて、何がなんだかわかっていないようだった。
それ幸いとさらに畳みかけようとするオルセウス。セレナの手をしっかりと握ると、名優さながらの悲壮感を出してセレナを見つめた。
「どうにかセレナとの交際を認めてもらおうと君の母上を説得しようとしたんだが、どうしても認めてくれないんだ! 絶対反対だとの一点張りで、オレの言うことを全く聞いてくれない! やっぱりセレナの言う通り、君の継母は気が強くてお節介で君のことなんかちっとも考えてくれずに独善的だね。でも、大丈夫。オレがそんな継母から君を守るよ! どんなことがあっても認めてもらえるようオレは頑張るよ!」
芝居がかったセリフ。大袈裟な仕草。
セレナを籠絡するためなら手段を問わないとでもいうような態度に、シアはさらに不快感を募らせた。
それと同時に、オルセウスにシアのことをよく思っていない旨を伝えているのだと思うと少なからず胸が痛んだ。
「ちょっと待ってちょうだい。どういうこと?」
セレナの視線がシアに向く。
セレナが説明を求めているのを察してシアが口を開こうとすれば、そこにセレナの視界を塞ぐように割って入ってくるオルセウス。どうやら徹底的にシアの介入を排除するつもりらしい。
「きっとセレナへの嫌がらせだよ。継母だから、セレナが幸せになるのが憎いんだ。酷い親だよな! セレナが嫌がる理由もよくわかるよ」
とことんシアのことをこき下ろすオルセウス。その仕草は父親とよく似ていた。比較対象を貶めるやり口はマゼラン男爵にそっくりだった。
(どうしよう……)
相手に調子づかせるのは悪手ではあるが、下手に口出ししたところで揚げ足を取られるのは目に見えていた。ただでさえセレナとはギクシャクした状態だ。気持ちがオルセウスに向いているとなると、確実にこちらが不利であることはシアにもわかっていた。
ぐるぐると思考を巡らせるもいい考えが出ない。セレナのことをよく見てきたつもりではあるものの、まだ母親として接して一年も経ってないため、親として上手く立ち回れる自信がシアにはなかった。
(どうしよう。どうしよう。……って、あーもー! 私らしくない! うだうだここで悩んだって意味ないでしょ! 私の信用が足らなかったらそれまでの行動がよくなかっただけ。だったら、信じてもらえるようにこれから頑張ればいい。今ここで失敗したからって終わりじゃない。家族なんだもの。私はセレナを信じて行動するしかないじゃない……!)
悩んで悩んで、ふっと気持ちを吹っ切るシア。
転んだって立てばいい。
間違えたならやり直せばいい。
家族として、今まっすぐセレナと向き合わないでいつ向き合うんだと考えを改める。
「どうして……?」
未だに不安で瞳を揺らすセレナ。まだ何を信じたらいいかわかってないようだった。
だからこそ、シアはまっすぐセレナを見つめる。
「確かに、彼の言う通り私はセレナと彼の交際には納得できてない。でも、私はセレナを信じてるから、最後はセレナの判断に任せる」
正直な気持ちをセレナにぶつける。セレナはシアの言葉を受け取ると、静かに「そう」と呟くと俯いた。
オルセウスはシアの言葉を聞いて、勝ち誇ったように「詭弁だな」とセレナに囁いた。
「ほら、酷いだろ? セレナはこんな性悪女の言うことなんか聞く必要はないよ! 継母だからって子は全部従えばいいと思ってるようなクソ女の言うことなんて……」
__バシンッ
オルセウスが嬉々としてシアを侮蔑する言葉を吐き散らかしていると、唐突に乾いた音が響く。
それがセレナがオルセウスの頬を打った音と気づくのに、シアは数秒の時間を要した。




