第三十九話 ゲーム
「貴方達、恥を知りなさい!」
これ以上聞くに耐えなくなったシアが彼らの前に出ると、あからさまに狼狽える三人。
しかし、相手がシアだけだとわかると、手のひらを返して揶揄するような笑みを浮かべていた。
「何だよ、このババア」
「お前知ってる?」
「知らね」
お互いを見合ったあと「急になんだよ、おばさん」とシアに向き直り、嘲笑するオルセウス。
このパーティーに来てるのだからほとんどがマゼラン男爵家より格上である上級貴族だというのに、それを知ってか知らずか舐めた態度を取る彼に同じ貿易商の娘としても腹立たしくなる。
「私はシア・ギューイ。セレナの母よ」
シアが名乗ると途端に目に見えて焦り出す二人。
まさか当事者の母に内容を聞かれるとは思ってはいなかったようで、「やべぇ。聞かれた!?」「どうする? まずくね?」とあわあわとお互いの顔を見合って視線が泳がせる。
けれど、オルセウスだけはなぜかシアが名乗ったと同時に一人だけニタニタと意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
「セレナは毎朝早起きをして、一生懸命に貴方のために貴方を想って頼まれた弁当作りを頑張っていたのよ。それなのに、食べないどころか捨ててこうしてバカにしてセレナの気持ちを蔑ろにするだなんて……!」
セレナの努力を知っているからこそ、シアは強い憤りを覚える。爵位云々を抜きにしても、人の気持ちを軽んじて蔑む彼らが許せなかった。
「だから? そんなに必死になってバカみてぇ。ただのゲームじゃん。いちいち目くじら立てんなよ」
「……本気で言ってるの?」
あわあわとしながら青褪めてる二人を尻目に、未だにシアをバカにした態度を取るオルセウス。
わざとシアを挑発するような物言いに、唖然とする。
「セレナから聞いてるぜ? あんた、継母なんだろ? こうやってオレに文句言うとか、義理の娘のために尽くしてる自分に酔ってる感じ?」
「どういう意味? 何が言いたいの」
「あぁ、なるほど。そっか。公爵に取り入るために娘に媚び売ってるってことか。あんた元々うちと同じ貿易商の男爵家出身だろ? そりゃ、必死に公爵に愛想よくしておかなくちゃだもんなぁ。父上からも行き遅れてたって聞いてるし、捨てられたら困るもんな」
的外れなことを言ってわかったような気でいるオルセウスに反吐が出る。マゼラン男爵よりもタチが悪い煽りに、シアは怒りでさらに表情が険しくなった。
「貴方が私のことをどう思おうが関係ない。今はセレナの話をしているの。とにかく、セレナを粗末に扱うのはやめてちょうだい」
「やだね。まだゲームは終わってないし」
「ふざけないで……っ!」
怒りで震える。
ここまで話が通じない相手は初めてだ。相変わらずシアの様子をケラケラと軽薄に笑うオルセウス。思わずシアも彼に薄寒さを覚えるほどオルセウスは飄々としていて、その態度は罪悪感の欠片も感じさせなかった。
「じゃあ、これならどう? オレとゲームしようぜ」
「ゲーム?」
「セレナがオレとあんたのどっちの言い分を信じるか賭けるんだよ。ちなみに、あんたが負けたらあんたの実家が手を出してる案件を父上に譲ってね」
「もし私が勝ったら?」
「ありえないとは思うけど、セレナから手を引くよ。これで文句ないだろ? ま、セレナがウザがってる継母の言うことなんて聞かないと思うけど」
一方的な提案に眉を顰める。
正直、シアはオルセウスに勝てる自信がなかった。セレナとは未だに和解できていない状態で、この勝負は分が悪いことは理解できていたが、かと言って代替案がない。
(ここで引き下がってしまったら、セレナのことを認めたことになってしまう。それだけは絶対にさせない。……でも、実家の事業が関わるとなると、勝手な私の一存で決められるものでもないし)
本来なら即決できればいいが、ここで下手に提案を鵜呑みすることはできない。
というのも、かつてマゼラン男爵には数えきれないほどの辛酸を舐めさせられていたからだ。いくらセレナのためとはいえ簡単に申し出を受けることはシアにはできなかった。
「早く決めろよ。商売人がぐだぐだ悩んでるのはあるまじきことじゃねーの?」
「……っ」
シアがぐるぐるとどう答えるのがベストか考えていたそのときだった。
「何を、やっているの……?」
声をかけられて振り向くと、そこには怪訝そうな顔をしたセレナがいた。
思いがけない当人の登場に、シアも動揺する。




