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行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました  作者: 鳥柄ささみ
第二章 恋

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第三十八話 オルセウス

「シア様。御髪(おぐし)がちょっと乱れてます」

「あら、やだ。どこかに引っかけたのかしら」


 挨拶回りをしている途中、アンナに指摘されて自前の手鏡を取り出して確認してみると、確かに編み込んでいた髪が不自然に乱れていた。

 多少であれば気にしないものの思ったよりも目立つため、これは直さないとまずいだろうと判断する。


(一応公爵夫人なわけだし、身だしなみは大事よね。このままにして下手にマゼラン男爵に見つかってまた嫌味言われても癪だし、レオナルドさんに恥をかかせるわけにもいかないわね)


 パーティー参加はギューイ家の汚名返上のためでもあるので、できれば粗は最小限に抑えたい。

 自分の評価はレオナルドの評価にも直結するので、シアは自分のせいでレオナルドの評価を下げることはしたくなかった。


「ごめんなさい。ちょっと席を外します」

「あぁ、気にせずに行ってきてくれ」

「ありがとうございます。身だしなみ整えたらすぐに戻ってきますから、適当に回っていてください」


 シアは頭を下げると化粧室へと向かう。

 そして、手早くブラシを使いながらビアンカに言われたノウハウを思い出しつつ手早く綺麗に髪を整えた。


「これでよし」


 ついでに化粧直しも済ませて化粧室を出る。

 部屋を出てパーティー会場である庭園へと向かうと先程とは人の流れが変わっていて、もしかしたら何か催しでも始まったのかと辺りを見回した。


(みんなどこにいるんだろう)


 そこまで時間がかかってないので、先程の位置からそれほど遠くまで行ってないはずと思いながら、足早にシアがパーティー会場に戻ろうとしたときだった。


「これでオレの勝ちだな」

「だけど、マジで公爵令嬢を落とすなんてな」

「さすが、オルセウス。ま、顔だけはいいからな」

「言ってろ。てか、オレはもっと上を目指せる男だぞ? これくらい訳がないに決まってるだろ」


(オルセウス……?)


 パーティー会場の外れにある木陰から聞き覚えのある名前が聞こえ、思わず足を止める。こっそりと気づかれないようにそちらを見れば、まだ若そうな青年が三人ほど何やらコソコソと話しているようだった。


(あれって……)


 一人、どことなくマゼラン男爵に面影がある青年がいる。マゼラン男爵よりも細身で整った顔ながらも、ふとした瞬間の意地の悪そうな笑みは既視感を覚えた。


「でも、まだ完璧に落とせたって言えないんじゃないか?」

「はぁ? どこがだよ。あいつはどう見てもオレのこと好きだろ。オレのために手作り弁当まで作ってるんだぜ? 食ってねーけど」

「本当にひでぇよな。作ってくれって頼んで食わないとか」

「そりゃ、どこまでやるか試してるのに食うわけないだろ。何入ってるかわかんねーじゃん。それに公爵令嬢だぜ? 絶対飯マズだよ、飯マズ」

「ウケる。マジ屑だな、お前」


(絶対そうだ。あいつがオルセウスだ)


 軽薄な笑い声と共に下卑た笑いを浮かべる三人に不快感を覚えるシア。セレナのことを想うと、怒りで自然と拳に力が入る。


(食べる気もないのに弁当を作るよう頼んでたって……最初から、セレナの気持ちを利用してたってこと? 信じられないっ)


 彼らの口ぶり的に、公爵令嬢であるセレナをダシに賭け事をしていたようだ。セレナの気持ちを踏みにじる行為に、自然とシアの目つきが厳しくなっていく。


「でも、結局さ。確信的な言質はとってないだろ? 明確に付き合うってなってるわけじゃないじゃん。まだオルセウスの勝ちっていうのは早くなくね?」

「だな。もっとこう、わかりやすいゴール欲しいよな」

「えー、お前らめんどくせぇなぁ。……あ! じゃあ、今日セレナのやつここに来てることだし、みんなの前でキスしてやるよ。それなら証明になるだろ」

「うわっ、マジかよ」

「ひゅ〜! 大胆〜」

「箱入り娘の公爵令嬢のセレナが人前でキスだなんて最大の見せ物だろ。オレが公爵令嬢と付き合ってるってなったら家の格も上がりそうじゃね?」


 ニヤニヤと下品な企てをしているオルセウスに同調する二人。セレナに無体を働こうとしている発言に、一気に頭に血がのぼる。


「でも、そのうち振るんだろ?」

「そりゃな、好みじゃねーし。家格が上がるなら考えなくもないけど、本音としては結婚するならもっと可愛くて胸デカいほうがいいだろ」

「なるほどな」

「なら、セレナと結婚しても別に相手を持てばいいんじゃね? 結婚して家格が上がってさらに別で好みの女抱くって最高じゃん」

「確かに! それアリだな!」


(ふっざけんじゃないわよ!)


 下品極まりないことを言いながらゲハゲハと笑う青年達。セレナをバカにし、蔑ろにする発言に、シアの堪忍袋はとうとうブチ切れた。

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