第三十六話 フォロー
「今日のパーティーはレオナルドさんのお仕事関係で来てるから、粗相のないようにね」
「はい。心得てます」
「何回も聞いた。しつこい」
「…………」
あっという間にパーティー当日。それぞれ支度を済ませ、馬車に揺られながら目的地へと向かっていた。
相変わらずセレナとはギクシャクしたまま。
アンナとフィオナはもう慣れたのかいつもと変わらず過ごしているが、シアとしてはやはり気がかりでこまめの声かけをするものの、セレナから反応はなかった。
(今日で事態が好転するといいけど)
せっかくパーティー嫌いのレオナルドが提案してくれたのだ。どうにか解決策を見つけたいと、祈るような気持ちで挑むシア。
「シア様。今日のパーティーはお父様のお仕事関係なら、私達はどのように振る舞えばいいですか?」
「あぁ、それに関しては普段通りで大丈夫だと思うわ。一応上級貴族の方が多いみたいだけど、貴女達は元々公爵令嬢としての教養が学んでいるから、ハメを外さなければ大丈夫」
今回のレオナルドのパーティーは事業出資関連のパーティーだ。そのため、資産家である上級貴族が多く集まっている。
規模で言うと、以前のディラン伯爵家のパーティーよりも格上。今回は国の事業であるため、王家も来賓するらしい。
恐らく、マゼラン男爵家も資材を売るのはもちろんのこと、上級貴族に顔を売るためにこのパーティーに出向いているのだろう。
「わかりました」
「知り合いいる?」
「うーん、どうかしら。いなくはないと思うけど、あくまでレオナルドさんのお仕事関係だから、あまり期待しないほうがいいかも」
前妻がいた頃の交友関係がわからないが、レオナルドが何も言っていない辺り特に知り合いはいないのだろう。シア自身の知り合いも多少はいるだろうが、以前のパーティーとは派閥が違うため、そこまで多くはない気がしていた。
「ふぅん」
「話す相手がいないようなら、私と一緒にいましょう。今回は屋外で前回とはまた違った雰囲気の庭園だろうから、きっと新たな発見があると思うわ。一緒に探しましょうよ」
「ん」
(まぁ、以前よりはどちらかというと格式ばったパーティーだし、フィオナにとってはつまらないかもしれないわね。なるべく一緒にいてあげたほうがいいかも)
同年代の子がいたとしても相手が格上となるとなかなか気安くは話せないだろう。気難しい性格のフィオナが初対面の相手と友達として打ち解けるのがかなり難しいことはシアも理解していたので、なるべく配慮しようと心がける。
(セレナのためとはいえ、アンナもフィオナも蔑ろにできないわ。色々と気をつけてあげないと)
今回のパーティーはセレナのために出席したとはいえ、フィオナも大事な家族であることには違いない。普段気丈に振る舞ってるアンナも含めて、ケアは怠らないようにしないととシアは自身に言い聞かせた。
「レオナルドさんも大丈夫です?」
「あぁ、前回よりも……大丈夫、だと、思う」
そう言いつつも顔色はあまりよろしくない。
前回に比べたら幾分かマシだが、やはりパーティーにはとほどトラウマがあるようで、レオナルドの顔は真っ青だった。
「ゆっくり呼吸してください。大丈夫ですから。ほら、私の手を握って」
「あ、あぁ」
言われて素直にシアの手を握るレオナルド。その手は冷たく、汗でぐっしょりと濡れていた。
「シアの手は温かいな」
「体温は高いほうなので。おかげであまり風邪をひかないんですよ」
「そうなのか」
「はい。まぁ、母からよくバカは風邪ひかないからねと言われてましたけど」
「それは、随分と辛辣な母君だな」
「そうなんですよ。愛娘に向かって酷いですよねっ」
シアが軽口を言えばつられて微笑むレオナルド。幾分か顔色がよくなって内心ちょっとホッとする。
けれど、そう思ったのも束の間。なぜか再び青ざめた顔をするレオナルドに、シアは訳がわからず首を傾げた。
「レオナルドさん? どうしました?」
「考えてみれば、シアのご両親にきちんと挨拶に伺っていなかったと思ってな」
「あー……まぁ、それはそうですね」
両親とは手紙で何度かやりとりしてたので、挨拶云々のことはシア自身もすっかり忘れていた。
そもそも、挨拶云々もレオナルドの第一印象が悪すぎて、両親からは今更特に何か言われることはなかったので、全くそのことについて考えていなかった。
「すまない。すっかり失念していた。この事業が落ち着いたら挨拶に伺おう」
「わかりました。ありがとうございます」
「いや、こちらこそもっと早く配慮すべきであった。ダメだな、私は。つい自分の都合ばかりで考えてしまう。以後気をつける」
顔色は悪いものの、これは自己責任と言わんばかりなレオナルドの物言いに苦笑するシア。
けれど、少なからずレオナルドがこうして挨拶をしようと考えてくれたのは嬉しかった。
「そんなに気構えなくて大丈夫ですよ。うちの両親、貿易商なだけあって外面はいいので」
「……それはフォローになってると言えるのだろうか」
「冗談ですよ。私も精一杯フォローしますから。今だってたまに手紙のやりとりしてますが、こちらの生活が楽しいって書いてますよ」
「そうか。本心からそう思ってもらえてるのならいいのだが」
だんだんと言葉が弱々しくなってくる。
自責気味な性格のせいかレオナルドは打たれ弱いので、一度躓くとどんどんとネガティブになっていってしまう傾向があった。
「もー、本心ですよっ! ほら、パーティー前からネガティブにならない!」
「そ、そうだな。はぁ、本当に私はダメだな」
「だから、言ってるそばからダメダメ言わないっ! もうネガティブな発言はこれから禁止しますっ」
「シアには敵わないな」
そんなやりとりをしているシアとレオナルドを見ながら、セレナは小さく「言い合える関係……って、いいな」と溢すのだった。




