第三十一話 探り
(今日もまたピックも野菜屑も何もない。しかも、敷いてた布までなくなってる)
毎日毎日セレナはせっせと早起きをしては弁当を作っているが、持って帰ってくるバスケットの中身はいつも綺麗な空っぽになっていた。
ここまで毎回何もない状態だと「もしかして、舐めたかのように綺麗に食べているのかも?」と思い込みたくもなるが、鉄製のピックまで食べるのはさすがにどう考えてもあり得ない。
さらに今回はバスケット内に敷布を入れていたのだが、それすらもなくなっていて、シアはさらに不信感が増していた。
(洗って返してくれる可能性も……ないとは言えないかもだけど)
だが、そうであれば一言あってもおかしくないはずだ。
というか、そもそもセレナがお弁当を持って行き始めて既に二週間は経っている。
例えピックを持ち帰って洗っているにしても、もし返却するつもりがあるのならばもう返ってきていてもおかしくない。
「ねぇ、セレナ。その……お友達とは一緒に昼食をとっているの?」
「別だけど。何でそんなこと聞くのよ?」
「いえ、ただちょっと気になっただけよ」
探りを入れているのを悟られないようにしたつもりだが、聞いてる内容が内容だけにセレナは少し不審がっている様子だった。
そのため、これ以上下手に追求して何も話してくれなくなっては困ると、シアは曖昧に濁してやり過ごす。
「ふーん。……なんか、私に見られるのが恥ずかしいんですって。あといつも決まったメンバーで食べてるらしいわ」
「そうなのね。ちなみに、今日バスケットに入れていた敷布を知らない?」
「敷布? 知らないわ。もしかしたら、食べてるときに誰かの持ち物と混ざってしまったのかも」
「そう。なら、もし出てきたら持って返ってきてちょうだい」
「わかった。聞いてみるわ」
結局、その後もピックも敷布も戻ってくることなく、敷布も「知らない」と一蹴されてしまったようだ。セレナからは一応謝罪の言葉はあったものの、やはりシアとしては気分がいいことではなかった。
恐らく、セレナの相手は弁当を食べずに捨てていると推測されるが、決定打は何もない。バスケットに何か入れたとしても結局それを捨てられてしらばっくれられては、現場を見ていない以上シアとしてもどうしようもなかった。
(このままでは埒が明かないわね)
もし本当に食べずに捨てているのなら、食べ物を粗末にするのはもちろん、毎朝セレナが早起きして一生懸命作ってるというのに食べてないという事実に憤りを感じる。それと、これ以上食べ物だけでなく物すらも大切に扱われない事態避けたかった。
(どうしたものか……)
シアは逡巡する。
どうにかしてオルセウスが食べていない確信を得るための証拠を用意しないと。
そして、セレナにその事実を知ってもらわないといけない。
「でも、どうやって……」
何かいい方法はないかなと視線を彷徨わせていると、ちょうどついさっきお裾分けでもらったあるものが目についた。
(これだ!)
シアはいいアイデアが思いついたと喜びつつも、「どうかお願いだから、心配性な私のただの杞憂であってちょうだい」と最後の望みをそれにかけるのだった。
◇
「ただいま」
セレナの帰宅に、シアは一気にそわそわする。緊張で口の中が渇くのを感じながら、平然を装っていつも通りの挨拶をした。
「お帰りなさい」
「はい。これ」
「あっ、うん、ありがとう。出してくれて」
すぐさまバスケットを差し出されて、思わずドキッとする。シアは顔を強張らせないように気をつけながらそれを受け取ると、いつも通り中身を確認した。
(……やっぱり綺麗な空っぽ)
見てギュッと胸が締めつけられる。ほぼ食べていない確信は得ているが、万が一があるかもしれない。そこで、シアは意を決してセレナに聞いてみた。
「美味しかったって?」
ちょっとだけ声が震える。
いつも通りに言おうとしたつもりだが、緊張から声が上擦ってしまった自分を恨みながら、セレナの返事を待った。
「えぇ、美味しかったって」
「……そう」
(やっぱり、食べてない)
いつも通りの回答。だからこそ、オルセウスが食べていないことが確定した。
覚悟していたとはいえ、シアは落胆して声のトーンが落ちる。正直、憤りよりも失望の気持ちのほうが勝り、シアは思わず溜め息を漏らした。
(どうしよう。セレナにどう切り出すか)
シアがセレナになんて言おうかと考えあぐねていると、「ねぇ」と強い口調でセレナに呼ばれる。顔を上げると、不機嫌を露わにしたセレナがこちらを睨んでいた。
「ここのところ、あんたずっと態度が変だけど。何か言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「えっと、別に、そんなんじゃ……」
「嘘。さすがにずっと一緒にいるんだからそれくらい私にもわかるわ」
言い淀んで誤魔化そうとするも、セレナにキッパリと言われてしまって思わず視線が泳ぐ。
キッと睨みつけてくるセレナの強い眼差しに、これ以上誤魔化すのは無理だとシアは覚悟を決めるのだった。




