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行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました  作者: 鳥柄ささみ
第二章 恋

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第二十八話 プレゼント

「どう? 変なところない?」

「えぇ。糸もよれてないし、糸端も処理できてるし、いいんじゃないかしら。しいて言うなら、もう少し刺し目の向きを意識したほうがもっとよくなると思うけど、それは次に生かせばいいと思うわ」

「じゃあ、これで問題ないってこと?」

「えぇ。完成おめでとう」

「よかったぁ」


 セレナが安堵したように声を漏らす。こんな気の抜けたセレナを見るのは初めてで、シアは嬉しくなりながら「よく頑張ったわね」と褒めた。


「お父様、喜んでくれると思う?」

「もちろん。レオナルドさんは絶対に喜んでくれると思うわ。渡すの頑張ってね」

「え。私が渡すの?」


 なぜかきょとんとするセレナ。どうやら自分で渡すつもりではなかったらしい。


「それはそうでしょ。作った本人が渡さなくちゃ」

「え、でも、お父様はお忙しいからなかなか会えないし……」

「じゃあ、今夜だけ私と一緒に起きてレオナルドさんを待ってる? もし明日の朝起きれなかったら私が起こしてあげるから」

「……でも、夜更かししたら肌が……」


 なんだかんだと言い訳をするセレナ。どうしても自分から渡したくないようだ。


「一日くらい大丈夫よ。なんなら、この前ビアンカにもらった特別な日用のスペシャルケアセットがあるから、それをしながら待つのはどう?」

「それは……したいけど。でも、お父様に怒られないかしら」

「そんなことくらいでレオナルドさんは怒らないわよ。渡したらすぐに寝ればいいじゃない。もし不安なら、私もそばにいるから」


 シアの説得にセレナの視線が揺れる。いつもであればシアに対してワガママで傍若無人に振る舞うのに、今はその姿はなりを潜めていた。

 どうもレオナルドにプレゼントを直接渡すことに、彼女の中で葛藤があるようだ。


「だったらやっぱりあんたが渡したらいいじゃない」

「それはセレナからのプレゼントなんだから、セレナから渡さなきゃダメ」

「何で」

「直接渡したほうが相手の反応が見られるでしょう?」

「別に、見なくていいし」

「ダメよ。プレゼントをするなら相手の姿を見るまでがセットなの。郵送以外他の人から渡すのはマナー違反だわ」

「ケチ」

「ケチで結構。セレナと言えど、ここは譲らないわよ」


 シアが思いのほか頑ななことにヤキモキするセレナ。

 けれど、先程自分で言った通りシアは譲る気は全くなかった。


 シアは人に物をあげるときは、相手の反応を見て始めてプレゼントというものが完了すると思っている。

 いい反応であればそれに越したことはないが、悪い反応だった場合は次回に生かさねばならない。そのニュアンスが直接と間接では受け取り方がかなり違うので、プレゼントは基本的に直接に限るというのがシアのモットーであった。


「あーもー、わかったわよ! 直接渡せばいいんでしょう!? 渡せば!」

「えぇ。頑張ってね」

「その代わり、ビアンカさんからもらったっていうスペシャルケアセットはたっぷり使わせてもらうからね!」

「もちろん、いいわよ」


 シアがニコニコと微笑むと、セレナは不本意そうな顔をしながら外方を向く。何か言いたげそうではあるものの、シアはわざと気づかないフリをしておくとセレナは諦めたのかそれ以上何も言わなかった。



 ◇



「お父様遅いわね」


 既に時間は夜更けと呼ばれる二十三時。

 普段のセレナであればとっくに夢の中である時間だが、今日はシアと共にレオナルドを待つということで、シアの部屋で二人でお肌のスペシャルケアをしつつ、お茶を飲みながら起きて待っていた。


「いつも遅いからね。最近は人も増えてタスクも増えてるから、今が一番忙しいタイミングなんじゃないかしら」

「ふぅん。そんなにお仕事して、お父様の体調大丈夫かしら」

「それ、本人に直接言ってあげたほうがいいわよ」

「え、嫌よ。恥ずかしい」

「何で、減るもんじゃないでしょ。愛娘が心配してくれたらきっと喜ぶわ」

「愛娘って」


 照れたのか、頬を染めながら俯くセレナ。文句は言いながらも褒められると照れるのが可愛らしい。

 ここのところ一緒にいることが多いからか、以前と比べてどんどんセレナのことを知ることができて、シアは嬉しくなった。


「そういえば、肌はどう? 化粧品ってたまに合わないこともあるけど、ヒリついたり乾燥したりはしてない?」

「大丈夫。特に違和感はないわ」

「そう。ならよかった」


 美容液に化粧水に乳液に、今回はいつもよりもワンランク上のものを使用しているスペシャルケアだ。

 さすがビアンカが勧めてくれただけあって、毛穴を引き締め、肌のハリが段違いになったような気がする。

 このケアをしたのなら、きっとちょっとくらいの夜更かしなんて気にならない仕上がりになるだろう。


「ねぇ」

「何?」

「と、友達が言ってたんだけど、自分のことを褒めてくれる男性ってどう思う?」


(おっと、この質問はもしや)


 緊張してるのか、上目でちらちらとこちらを見てくるセレナの様子に、これはよくある自分のことを友人のこととして話すアレだと察するシア。

 恐らくオルセウスのことだと思うが、ここで下手な反応をしてはいけないと、わざと気づかないフリをしてシアは「うーん」と声を漏らした。


「私としては褒めてくれるのは嬉しいし、素敵だと思うけど、褒められるにしてもどういうところを褒めてくれてるのかが大事だと思う、かな?」

「どういうことよ」

「例えば、褒めてくれるのが行動なのか容姿なのか。私の本質そのものを褒めてくれたら嬉しいけど、見た目や持ち物を褒められるだけなら微妙じゃない?」

「……なる、ほど……」

「ちなみに、セレナはどうなの?」

「は、私!?」


 今度はシアから質問を投げかけると、途端にあたふたし始めるセレナ。まさか自分が聞かれるとは思ってなかったようだ。


「えっと、私は……嬉しいけど? あんたが言うことみたいなの、あんま考えたことなかったし」

「まぁ、そりゃそうよね。誰だって褒められたら嬉しいもの。でも、だんだんとそれが本心から言ってるかどうかってわかるようになるのよ。こればかりは経験則かしらね」

「経験則?」

「私は実家の手伝いしてたからそういう場面に遭遇することが多くてね。契約を結びたくて思ってもない褒め言葉をかけてくる人がたくさんいたのよ」

「何それ。あり得ないんだけど」

「まぁ、普通はそう思うわよね。でもだんだんとそういう甘言を言う人は増えてくると思うわよ? セレナは公爵令嬢なわけだし。爵位に釣られて下心あるやつが近づいてこないとも限らないから」

「そんなやつ、私はちゃんと見極められるわ」

「それならいいんだけど」


(随分と突っ込みすぎたかな)


 話題の内容に便乗してオルセウスのことを暗に釘を刺したつもりだが、果たしてセレナに伝わったかどうか。

 オルセウスがセレナに対してどう対応しているかはわからないが、せめてセレナにだけは誠実であってほしいと心の中で祈る。


「ねぇ」

「何?」

「次は友達用にプレゼントしようと思ってるんだけど、それも上手くできるか見てほしいんだけど」

「いいわよ」

「……じゃあ、よろしく」


 恐らく友達の相手はオルセウスだろうが、それを止める理由はシアにはない。セレナの恋がどうなるのかわからないが、シアの懸念がただの杞憂であって、このまま何事もないといいなと思った。


「ちなみに、何を刺繍するつもり?」

「え。無難にイニシャルのつもりだけど」

「あー、ならイニシャルだとオー……友達のイニシャルは何の文字?」


 危うくイニシャルを言いかけて慌てて言い繕う。多少違和感はあったが、誤差だろう。


「ん? Oだけど……ただの丸に見えても変だし、見栄え的にどうすればいいかしら」

「それなら、ちょっと意匠を変えるといいわよ。例えば、こんな感じに」


 シアが紙にサラサラと描くと、ふんふんとセレナは一生懸命それを覗き込む。


「へぇ、そんな方法もあるんだ」

「えぇ。相手にもよるとは思うけど、こんな感じだとさりげないし、見栄えもいいかも」

「ふぅん。参考にするわ」


 ガチャガチャ。ガタン。

 階下から物音が聞こえてくる。どうやらレオナルドが帰って来たらしい。


「あ、レオナルドさんが帰ってきたみたいね」

「え、うそ!? どうしよう。何て言って渡したらいい!?」

「とりあえず、おかえりなさいって言ってあげて。それから、いつもお仕事ありがとうとか言って渡せばいいのよ」

「そ、そうよね。わかった、行ってくる」


 あたふたしながら包んだハンカチを持って行くセレナ。途中ドアにぶつかり、階段から落ちそうになったりとバタバタではあったが、どうにかレオナルドにプレゼントのハンカチを渡すのをシアはこっそりと見届けるのだった。

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