第二十一話 共感
「ごめんなさい。遅くなっちゃって」
「しー! 静かに!」
慌てて謝りながらゲストルームに戻ると、セレナに静かにするようにと言われて、シアは慌てて口を噤んだ。
「あんたが帰ってくるの遅いから、フィオナはもう寝ちゃったのっ」
「そうだったの。ごめんなさい、気づかなくて」
セレナから小声で咎められてフィオナのほうに視線を向けると、確かにフィオナは既にベッドの上で寝息を立てていた。
日中泣いたのと野菜の収穫をしたのもあって、相当疲れていたのだろう。起きる気配はなく、気持ちよさそうにぐっすりと寝ている。
(きっと色々と気を張ってたのね)
寝顔はとてもあどけなく、可愛らしくて微笑ましく思う。考えてみたらフィオナの寝顔を見るのは初めてで、とても新鮮だった。
「お帰りなさい、シア様。まだ起きてて良かったです。てっきりもうこちらにはお戻りにならないのかと、そろそろ寝ようと思っていたので」
「ごめんなさい。ちょっと夫人とお話してたんだけど、そのあとにレオナルドさんとも話をしてて。ついこんな時間に」
「そうだったんですね」
「話すにしたって時間考えなさいよ」
セレナの正論にぐうの音も出ない。時間については普段からくどくど言っているのはシアのほうなので、今回に関しては謝ることしかできなかった。
「そうよね、ごめんなさい。あと、二人共疲れてるでしょうに、わざわざ起きて待っててくれてどうもありがとう」
「別に。あんたのために起きてたわけじゃないし」
「もう、お姉様ったらすぐにそういうことをおっしゃる」
なんだかんだ言いつつも、セレナが起きて待っていてくれたことには変わりない。アンナはもちろんのこと、素直ではないけれどセレナも心根は優しいのだと改めて感じるシア。
「待たせた私が言うことじゃないけど、早く寝ましょうか。明日も夫人が色々と予定立ててくれてるみたいだから、しっかり英気を養わないと」
「そうなの?」
「えぇ、みんなが来るのをとても楽しみにしてくださってたから。やりたいことがたくさんあるみたいよ」
「そうなんですね」
「普段は場所柄ドゥークー辺境伯と二人っきりだからね。脚が不自由なのもあって領民と会う頻度もそこまで高くないようだし。だから、貴女達に会えるのすごく楽しみにしてて、はりきっているみたい」
実際、ドゥークー辺境伯夫人はシアが来ることだけでなく、子供達と会うこともすごく楽しみにしていた。
夫人には息子しかいなかったため、若い女の子と一緒に何かしたい願望があったらしい。
元々ドゥークー辺境伯夫人は多趣味で園芸や畑だけでなく、料理や手芸、工芸に楽器演奏まで色々なことに手を出しているののだが、普段はそれを披露する相手がいないので、披露する相手がいることが嬉しいようだ。
「ところで、セレナとアンナはどこで寝るか決めたの?」
「私はここで寝る」
「では、私はこちらに」
「そう。じゃあ、私はここにするわね。では、もう灯りを消すから二人はベッドに入ってちょうだい」
シアが促し、二人がそれぞれのベッドに潜るのを確認すると、シアは部屋の灯りを一つずつフッと息を吹いて消していく。
そして、入口のドアにある灯りのみを残して全ての灯りを消していった。
「夜中にトイレに行きたくなったり喉が渇いて水が飲みたくなったりしたときのために、念のためここだけ灯りをつけておくわね。もし場所がわからなくて不安だったら、私を起こしてちょうだい」
「わかりました」
「別に、あんたを起こさなくたって自分で行けるし」
「はいはい」
セレナの言葉を適当に受け流しながら、シアは自分もベッドに潜り込む。以前アンナと一緒のベッドで寝たものの、こうして同じ部屋で一緒に寝るのはなんだか新鮮で、自然と口元が緩んだ。
「なんか楽しいですね」
アンナも同じことを思ったらしく、寝ながらフィオナを起こさないくらいの声が聞こえてくる。その声は明るく、まだ眠気を感じている気配はなかった。
「そうね。私はしたことはないけど、合宿してるみたい」
「合宿って?」
「みんなで目的のために集まって泊まること。女性はあんまりするって聞いたことがないけど、男性は寄宿学校出身なら経験あるんじゃないかしら?」
「ふぅん」
「女性にもそういう合宿があったら楽しそうですね」
「そうよね。同じ目的で集まってお泊りって普段とは違って楽しいし。でも、みんなが留守にしたらレオナルドさんが寂しくなっちゃうかも」
初めこそ冷たい人だと思ってそんな姿想像もできなかったが、今は寂しがるレオナルドが簡単に想像できてしまう。先程の印象といい、レオナルドは案外寂しがりやだということは把握済みだ。
「確かに、お父様は寂しがりやよね」
「そうですね」
「でも、意地っ張りだからそういう姿を見せないようにしてるわよね」
「ふふ。でも、わかりやすいですけどね」
「お父様、顔に出やすいからね」
レオナルドの話題に三人全員が同意する。共感し合えるほど、ギューイ家に馴染んできたのだと思うと、シアは嬉しかった。




