第十七話 食卓
「「「いただきます」」」
「どうぞ召し上がれ」
「美味しい〜!」
「初めて食べた味ですがとっても美味しいです」
「すごく美味しい。これも食べていい?」
「えぇ、どんどん食べてちょうだい」
「私達はそんなに食べられないから、好きなぶんだけ食べてくれたほうがありがたい」
いつになく豪勢な食事だった。
白身魚のポワレにイノシシの赤ワイン煮込みに、ひき肉のパイやライ麦のパン。
先程採った野菜はサラダだけでなく、ローストされたりバーニャカウダにしたり。他にも、玉ねぎやかぼちゃを使った野菜のポタージュや野菜てんこもりのキッシュなど、ふんだんに使われていて、これでもかと食卓の上に料理が置かれていた。
子供達も普段よりも品数の多く、目新しい料理の数々に、はしゃぎながら手を伸ばしている。
しかも、育ち盛りなのと、先程の野菜の収穫での疲労もあってか、いつになく食いつきがよかった。
ちなみに、今回メインは出された肉はつい先日ドゥークー辺境伯が領内で狩った鹿の肉らしい。丁寧に下処理されているおかげか臭みもなくいい焼き加減でとても美味しかった。
のだが、
「レオナルドさん。せっかくですから、こっちも食べます?」
「いや。私はまずこちらを処理しなければいけないから、それはシアが食べてくれ」
レオナルドの前にある皿にはもはや肉とは思えぬほど真っ黒コゲの物体。鹿肉は寄生虫がいる可能性が高いとのことで最初は特に念入りに焼いた結果、この通りの真っ黒コゲになってしまったらしい。
シアが何度か交換を申し出たものの、レオナルドは自分が作ったものなのだから自分で食べると頑なで、今と同様断られてしまっていた。
(でも、せっかく作ってくれたのに、さすがにメインがあれではなぁ)
レオナルドはシアに断りはするものの一向に箸が進む様子はない。もったいないと思う気持ちは大切とはいえ、せっかくの食事が食べられないというのもまたもったいないのではないかとシアは思った。
「レオナルドさん」
「何だ? 交換はしないぞ」
「では、半分こしましょう」
「半分、こ……?」
言われたら言葉が理解できないのか首を傾げているレオナルド。その隙にシアはレオナルドの皿に手を伸ばすと、そのまま既に切り分けられていた肉を半分ほどフォークで刺して自分の皿に持っていき、今度は自分の肉をレオナルドのほうに乗せた。
「シア。さすがにそれはマナー違反では?」
「いいんです。ここには私達家族とドゥークー辺境伯家族しかいないんですから」
「えぇ、私達は何も見ていなかったわ。だから今のはノーカンね」
シアに便乗するように目を瞑って澄まして見せるドゥークー辺境伯夫人。それに合わせて、「女性陣には理屈では勝てないからな。そもそも、マナーとはみんなで楽しむものだからそんな些細なことで一々指摘はしないさ」とドゥークー辺境伯は笑った。
「お気遣いいただき申し訳ありません」
「ギューイ公爵はシアさんに聞いたところ、料理初心者なのだろう? なら、失敗しても仕方ないさ。料理は積み重ねだからね。私もよく失敗してはエライザに酷いものを食べさせていたよ」
「おかげで胃腸は丈夫になりましたけどね」
ドゥークー辺境伯の軽口に便乗する夫人。つられてシアも「また冗談ばかりおっしゃって」と言いながら、口元が緩む。
「でも本当、最初は誰でも初心者なんですから、これから頑張ればいいんですよ。それに前回よりは確実に成長してると思います。ねぇ?」
「はい」
「多分」
「私のほうが上手だと思うけど、お父様にしては上手くできたんじゃない?」
子供達に返答を求めると、それぞれらしい答えが返ってくる。それを聞いてレオナルドも考え込むのをやめたのか、多少表情が和らいだ。
「せっかくだ。もしギューイ公爵がよければ、ここに滞在してる間は私と一緒に料理するかね?」
「いいんですか?」
「もちろん。私も教える相手がいたら張り合いがあるってものだ」
「でしたら、ぜひお願いしたいです」
「よし。では、この滞在期間中でギューイ公爵の腕前が上がるよう尽力しよう」
「ありがとうございます」
レオナルドが素直にお礼を述べると満更ではなさそうに笑うドゥークー辺境伯。そんな彼の表情を見るのは久々だった。
「あ、この黄色いのすごく美味しい!」
「それはさっき採ったカボチャですよ、お姉様」
「え、これが? 生で食べられると聞いたときはちょっと抵抗があったけど、本当に生で食べられるだなんてね」
「これ、バターナッツカボチャっていうのよ。甘みがあって美味しいでしょう」
「なんかシャキシャキしてる」
「でしょう? 焼いても揚げてもスイーツにしても美味しいのよ」
セレナもアンナもフィオナも会話に参加しながら、食事を楽しむ。最初はちょっとだけ子供達が慣れるかどうか心配であったシアも、みんなの打ち解けている様子を見て心の中でホッと胸を撫で下ろすのだった。




