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行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました  作者: 鳥柄ささみ
第二章 恋

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第十二話 歓待

「シアちゃん! 待ってたわ!」

「ドゥークー辺境伯夫人! 先日ぶりです! 本日はお招きいただきありがとうございます。お変わりないようで何よりです」


 到着するなり、ドゥークー辺境伯夫人が今にも駆け出しそうな勢いで来ようとするのが見えて、それよりも先に早く駆け出し、自らハグしに行くシア。

 レオナルドもドゥークー辺境伯も不意打ちだったせいで、出遅れて慌ててあとから着いていく。


「エライザ。シアさんが来てはやる気持ちはわかるが、もう少し落ち着きなさい。せっかく来てくれたのにお互いに転んで怪我をしたらどうするつもりだ。……すまないね、シアさん。走らせてしまって」


 ドゥークー辺境伯は夫人のあとを追って早足で来ながら、夫人を咎めつつシアを気遣った。


「そうよね。ごめんなさいね、シアちゃん。来て早々走らせてしまって。シアちゃんが来てつい嬉しくなっちゃって、自分の脚が不自由なことがすっぽりと抜けてたわ」


 いい年して恥ずかしいわ、と照れるドゥークー辺境伯夫人。シアはそんなにも待ち遠しく思ってくれた夫人を可愛らしく思うと同時に嬉しかった。


「いえ、これくらい全然問題ないです。たまには運動しておかないとですから。ドゥークー辺境伯もお元気そうで何よりです。本日はお招きいただきありがとうございます」

「こちらこそ、遠方から来ていただいて感謝するよ。ギューイ公爵もありがとう」

「……っ、いえ。本日は家族全員お招きくださりありがとうございます。お世話になります」


 こちらも急に走り出したシアのあとを追うように子供達と共にやってきたレオナルド。慌てて小走りで来たせいか、みんな息が上がっている。

 けれど、さすがにドゥークー辺境伯夫妻の手前、セレナもフィオナもいつものように文句を言えないようで大人しくしていた。


「ごめんなさいね。皆さんも走らせてしまって。先日は会えなくて自己紹介できなかったけど、私はエライザ。こちらがサムよ。一応サムがこの地の領地を治めているわ。えっと、貴女がセレナさんで、貴女がアンナさんで、貴女がフィオナさんね。シアちゃんからよく話は聞いているわ。短い間だろうけど、よろしくね」


 ニコニコとドゥークー辺境伯夫人から挨拶され、子供達はみんなぎこちなく「よろしくお願いします」と恭しく頭を下げる。みんなかなり緊張してるようだ。

 セレナだけ一瞬「何を言ったの!?」とでも言いたげな目でシアを見たが、ドゥークー辺境伯夫人がセレナに視線を向けると慌ててそっぽを向いていた。


「ふふ、そんなに緊張しなくていいわよ。ここは第二のシアちゃんの実家みたいなものだから、遠慮しないでちょうだい。長旅で疲れたでしょう? 荷物を片付けたら早速お茶にしましょうか」

「私、手伝います!」

「大丈夫よ。それよりもシアちゃんは子供達のことをやってちょうだい」


 ドゥークー辺境伯夫人に指摘されて、ハッと我に返るシア。

 ついいつもの癖で単身で遊びに来た気分になっていたが、今日は子供達もいたのだと自分の立場が今までとは違っていることを思い出す。


(そうよね。私は子供達の母として、レオナルドさんの妻として来てるのだから、いつもみたいに振る舞っていてはダメよね)


 今までは主に自分の周りのことだけを気にしていればよかったが、そうはいかない。

 レオナルドはともかく、子供達は初めての訪問な上に滅多にない外泊。イレギュラーなことが起きる可能性は高く、しかも面倒を見るのが三人ともなるとなかなか目が離せないだろう。


(とはいえ、セレナとアンナはつきっきりでなくても大丈夫だとは思うけど。……問題はフィオナね)


 フィオナは感性が人とずれている。

 だからこそ芸術面での才能があるのだろうが、いかんせん常識から外れてしまいがちなので、最も目が離せない存在だった。


(あまりべったりだとうざがられるだろうから、つかず離れず見ておかないと)


「何」

「いえ、別に」


 ちらっとシアがフィオナを見ると、すかさずその視線に気づくフィオナ。やはり一筋縄ではいかなそうである。


「では、我々は片付けたら先に事業の話をしようか。面倒なことは先に片付けておくに越したことはないだろう」

「そうですね」


 ドゥークー辺境伯とレオナルドは早速仕事に取りかかるらしい。

 ということは、やはり一人で三人の片付けの面倒を見る必要があるということだ。


「シア。申し訳ないが、片付けを任せても大丈夫だろうか」

「はい。レオナルドさんはお仕事を優先してください」

「あぁ、頑張ってくる」


 ふっと柔らかく微笑むレオナルドを見て、やる気が漲ってくる。我ながら単純だとシアは思いながら、子供達に荷物を持つように指示を出し、あてがわれた部屋へと向かうのだった。

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