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行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました  作者: 鳥柄ささみ
第二章 恋

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第九話 お願い

「……やっだー! シアちゃん、何よそれ。めちゃくちゃ面白そうじゃない!」

「人間の二面性なんて考えたことなかったですけどぉ、確かにそれなら表現できなくもないですぅ〜!」


 シアの提案に食いつく二人。

 先程までの雰囲気とは打って変わって、ビアンカもジュダも目を輝かせていた。


「チグハグかと思いきや、調和できてるデザインなんて最高じゃない! それならあたしやるわ〜。あんたはどうか知らないけど」

「ワタシだって、調和くらいできますよぉ〜! なんたってプロですからね。化粧師としての腕の見せどころですぅ〜!!」


 二人は軽口を言い合いながらも先程のような険悪さはない。どうやらシアの提案によって、いい方向に作用できたようだ。


「ちなみに、この案はセレナが考えたのよ。難しいかもしれないけど、この二人ならきっとできるって信じてるって」

「え? 私そこまで言ってな……」

「すっごーい、セレナちゃん! まだ若いのにそんなこと言ってくれるだなんて〜!」

「セレナちゃんありがとうございますぅ〜! ワタシ達のことよく見てくださってるんですね、嬉しいですぅ! しかも、おかげでこれ以上無駄な時間を過ごさずに済みましたぁ〜!!」

「あ、えっと、あの、お二人のお役に立てたなら嬉しい、です」


 二人から褒められ、照れているのか小さくなっているセレナ。あまり褒められていないからか、どうしたらいいのかわからないようだった。


「って! そういえば今更だけど、シアちゃんとセレナちゃんはここに何しに来たの?」

「はっ! そういえばそうでした。てか、もしかしてもしかしなくても、お客様としてきてくださったんですよね!? すみません、ワタシ達の問題に巻き込んじゃって……!」


 問題が解決したところでハッと我に返ったらしい二人。シアがここにいる違和感にやっと気づいたようだ。


「あー、まぁ、そうではあるんだけど。忙しそうだからまた改めて来るわ」


 連れてきたセレナには悪いが、せっかく方向性が決まったなら打ち合わせがあるだろうし、また別日に改めてくるかと考えていると、シアの目の前に立ちはだかるビアンカとジュダ。


「ダメですぅー! せっかくわざわざ来てくださった上にアイデアまで出してくださったんだから、このままは帰しませんよぉー!」

「そうよそうよ。セレナちゃんまで連れてきてるってことはセレナちゃん関連で用事あったんでしょー!? あたし達のために時間使わせちゃったのにそのまま帰らせるわけにはいかないわよー!!」


 ビアンカとジュダにそれぞれ両腕を拘束されて逃げ場を失うシア。二人からがっしりと掴まれてしまっては抜け出すことなどできなかった。


「えっと、じゃあ、セレナに化粧とかヘアメイクとか美の作り方を教えてほしいのだけど。私はそういうの得意じゃないから、本人ができる方法で本人に一番合った方法を教えてあげてもらえるとありがたいわ」

「お任せください! 基礎から応用までしっかりとレクチャーしてあげますよぉ〜!」

「あたしもコーディネートのバランスの取り方とか合う色の選び方とか教えてあ・げ・る! 今日はお付き合いしてもらったぶん、大盤振る舞いしちゃうわよ」


 シアのお願いに、二人の視線が一気にセレナに集まる。


「さすがにお二人にそこまでしていただくには……」

「若いんですから、そういう謙遜しなくていいですよぉ〜!」

「そうよそうよ〜! そんな遠慮したって損なんだからもっとがめつく生きないと! それに、基礎さえ覚えていけばこれから役に立つんだから、今覚えておいたほうが絶対にお得よ〜?」


 二人の圧に遠慮気味だったセレナが怖気つきながらも「では、お願いしてもいいですか?」とお願いすると、ビアンカもジュダも「もちろん」とにっこりと微笑んだ。



 ◇



「よかったわね、色々教えてもらって」

「……まぁね」


 あのあと手取り足取り世界的デザイナー二人によるレクチャーを受けたセレナ。パーソナルカラーや骨格に合わせたデザインの選び方など専門的でありながらもわかりやすく教えてもらっていた。

 恐らくこれで、今朝のようなことにはならないはずだ。


「でも、さすがにもらいすぎじゃ……」


 シアとセレナの腕の中には大量の化粧品にファッション用の小物類。どれもこれもビアンカとジュダに持って行けと持たせられたものだった。


「とはいえ、断っても無理矢理ねじ込んでくるんだからどうしようもないわよ。二人共すごく頑固だから」

「それは……確かに」


 こだわりの強さが人一倍なだけあって、一度決めたら譲らない頑固さも人一倍。そのため、二人は言い出したら聞かない性格で、こういうことに関してはいくらシアが言ったところで全く聞く耳を持たなかった。

 そもそもだいぶ固辞してのこの量である。重いしこれ以上持てないから物理的に無理と言い張らなければ、この倍以上持たされるところだっただろう。


「でも、至れり尽くせりすぎな気がする」


 セレナがぽつりと漏らす。

 特上の化粧やヘアメイクを施してもらい、さらに技術も教えてもらった上にお土産まで。何もかももらってばかりいることに罪悪感を覚えているようだ。


「まぁ、でもセレナが実践してあげるのが何よりの恩返しだろうから、今日教えてもらったことこれからやっていかないとね」

「わかってるわよ。あんな凄い人達に教わったのだもの、無駄にするわけにはいかないじゃない」


 セレナの言葉に安心するシア。レオナルドに似て変なところで気負いすぎるきらいがあったので心配していたが、どうやらシアの杞憂だったらしい。


「あんまり遅くなったらアンナが心配するだろうし、早く帰りましょうか」

「そうね。アンナはお父様の次に心配性だから」


 もらった化粧品を持ち直すと、先程より帰宅の足を速めようとするシア。


 しかし、なぜか着いてこないセレナ。


「セレナ、どうしたの? 疲れた?」

「違うけど」

「うん? あ、もしかして持つのつらいとか? 重たいならもう少し私が持ちましょうか?」

「そうじゃなくて……」


 煮え切らない態度のセレナ。何か言いたげではあるものの、口をまごまごさせていた。


「あの……今日は、その……連れてきてくれてありがと」


 だんだんと小さくなる言葉。けれど、確かに最後までシアの耳に届いた。


「どういたしまして」


 思わずにやけそうになりながらもシアがにっこりと笑って返すと、ふんっとそっぽを向いて歩き出すセレナ。

 そのスピードは思いのほか速くて、シアは慌ててセレナのあとを追いかけるのだった。


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