第八話 イメージ
「……それで、ビアンカのお店にジュダさんがいたのね」
ビアンカとジュダそれぞれから話を聞いて納得するシア。
二人の話をまとめると、隣国の晩餐会に呼ばれた王妃の装いの総合プロデュースのメンバーとして、ビアンカとジュダが指名されたらしい。それで相談するために今回ビアンカの店で集まってそれぞれ意見を出し合っていたのだが、お互いに方向性が噛み合わずに睨み合っていたタイミングでシア達が来店したとのことだった。
「本当は断りたかったんですけどね、この仕事」
「あたしだってこの子と一緒に仕事するなんて勘弁してほしかったけど、お上に言われちゃあね〜」
それぞれシアに向き直りながら、やれやれといった表情をする。シアからしたら大抜擢で凄いことだと思うが、どうやら二人は違うらしい。
とはいえ、国王直々の命を断るわけにはいかないという認識がそれぞれにあったことに、とりあえずホッとした。
「商売に影響あるのは困りますからねぇ」
「そうなの。下手に断って店の許可が取り消しされたら困るでしょう? だから仕方なく受けたの」
「ジュダ様。お願いですから大きな声でそういったことをおっしゃらないでくださいっ。前々から申し上げている通り、不敬罪でしょっぴかれたらどうするおつもりですかっ。今回は国王陛下案件なんですからねっ!」
「だって、しょうがないじゃな〜い。地声が大きいんだから」
「その巻き添えでこちらにも被害があったら困るんですけど?」
ビアンカとジュダが睨み合う。
利害は一致してるのに、やはり根本的に合わないらしい。お互いいがみあっているのを見ながら、どうしたものかと考える。
「とりあえず、それぞれ意見を出し合ったら?」
「出してるわよ〜! 仕事だもの、真面目にね。でもこの女、あたしの意見なんか全然聞きやしないのよ?」
「はぁ!? あんたに言われたくないんですけどぉ! そっちこそ、ワタシの意見全然聞かないじゃないですかぁ〜! 王妃様のイメージは奥ゆかしくも華やかだって言ってるでしょ!」
「ほんっと、あんたは浅いわね〜。今回の晩餐会は外交も兼ねてるんでしょ〜? だったらもう少し攻めた感じが絶対いいわよ〜!」
「あー、なるほど。まずイメージのところから躓いてるのね」
イメージは大事だ。大枠を決めるのに何よりも大切な部分である。
そこで躓いてるとなると、なかなか前に進めないというのはわからないでもなかった。
「じゃあ、それぞれイメージが違うことはわかったから、色とか花とか何でもいいから使いたい素材の話をしてみたら?」
「素材、ですかぁ」
「そうねぇ」
シアの提案で二人は考え込む。そういう切り込み方は考えていなかったようだ。
「ワタシのイメージとしては百合の花ですかね。奥ゆかしさもありながらも凛としていて美しい感じです。白やピンクなどの色を用いながらナチュラルなメイクで素のよさを生かしていければと」
「百合ならただの白百合ではなくてタイガーリリーやマルタゴンリリーみたいなイメージじゃない? 色味もブラッドオレンジや真紅のような濃い色が似合うと思うけど」
「はぁ!? 王妃様は絶対淡い色の方が似合いますぅ〜!!」
「あんたの目はどこについてるのよ!? ビビットな色味で大胆な装いのほうがいいに決まってるじゃない!」
「ダメだこれ」
シアが思わず頭を抱える。本当にとことん合わない二人である。
センスはどちらも抜群だというのに、お互い協調性の欠片もなかった。
「セレナはどう思う? 何かいいアイデアはない?」
「わ、私!?」
急にシアから振られて声が裏返るセレナ。
シアとしては万策尽きた状態だったので、何か少しでもこの状況を打破できる何かが欲しかった。
「いきなり言われても、わかるわけないでしょ!」
「そう? セレナなりの着眼点で何かのヒントになるかもしれないし」
「無茶なこと言わないで」
「何でもいいから。セレナが思ったことを言ってちょうだい。私にはもうお手上げなのよ。セレナの助言が二人の助けになるかもしれないし、お願い!」
シアが縋るようにねだると、セレナは不本意そうな顔をしながらも何か思うところはあるのか口をまごつかせる。
こういうところはレオナルドそっくりだ。
「私が言ったことに文句言わないでよ」
「もちろん! 言うわけないわ」
「……私が思ったのは、お二人それぞれのイメージを合わせればいいと思ったの」
「というと?」
「そこまでわからないわよっ! とにかく、お二人のイメージって別に極端に離れてるイメージなわけでもないからどうにかなるんじゃないかって……」
「二人のイメージを合わせる……別に極端にかけ離れてるわけじゃない……なるほど、それだ!」
シアがハッと思いついて声を上げる。
あまりに大きな声だったからか、言い争っていたはずの二人もシアのほうを見た。
「何よ、シアちゃん。何か思いついた?」
「はい! 二人のイメージを合わせてみようかと」
訝しげな顔をするジュダに満面の笑みで答えるシア。
けれど、二人は相変わらず渋い顔をしている。
「いや、シアさん。それはさすがに無茶ですよぉ」
「そうよ、シアちゃん。話聞いてなかったの? それができたら苦労しないんだから」
シアの提案に、二人はやれやれといった様子だ。
相変わらず、こういう部分は意見が一致するらしい。
「いいえ、できるわ。人間には多面性があるでしょ? 人に見せる部分は人によって違う。だから、それを表現すればいいと思って。ジュダさんは外に向ける優美さや芯の強さ、誇りをイメージして、ビアンカは本来の上品で奥ゆかしい雰囲気を演出したらいいんじゃない?」
「えっと、つまり……メイクで内面、ドレスで外面を演出するってことですかぁ?」
「そういうこと。貴方達ならできると思うけど」
シアが自信満々に言い放つ。
実際、シアにはそれをどうしれば解決するかの手立てまでは見出せないものの、二人であればそれを打破できる何かが出せるはずだと確信していた。




