第七話 サボり
「普通、サボろうだなんて母親は言わないんじゃないの?」
「まぁまぁ、いつも真面目に行ってるんでしょう? たまにはいいじゃない。きっとアンナのことだからセレナが遅れてる理由として、体調不良とか言ってるだろうし。行かなくても心配されるだけだと思うわ」
「もしバレて怒られたらあんたのせいだからね」
「わかってる。バレたらちゃんと保護者として怒られてあげるわよ」
くどくどと文句を言いながらもシアと共に街中に来ているセレナ。
というのも、せっかくすっぴんになったのだから一からヘアメイクしてもらってメイクの仕方を教えてもらったらいいのではないかと、ビアンカの店に行くことにしたのだ。
「ビアンカさんに事前に言ってなくていいの?」
「多分大丈夫。確か、今週は店にいるって手紙で言ってたから。急な仕事とかが入ってなければ問題ないはずよ」
「雑すぎじゃない? ビアンカさんに迷惑かけたらどうするのよ」
「大丈夫よ。私とビアンカはいつもこんな感じだから」
「ふぅん」
シアに噛みつきながらも、ビアンカに化粧をしてもらえるという餌には釣られるセレナ。
やはりオシャレはしたいのだなと心の中で思いながらも、それはあえて指摘せずに黙っておく。
「ビアンカのお店来るの初めて?」
「そもそもあんま街中に来ないし」
「そうなの? レオナルドさんが禁止してたとか?」
「……別に、お父様が禁止してたわけじゃないけど……」
歯切れ悪く目を伏せるセレナ。
その様子に、何となくシアはあまり踏み込まないほうがいいのかと話題の方向性を変えることにした。
「じゃあ、今度から一緒に買い出しついでに来るのはどう? お年頃だもの、色々と見たいでしょ」
「……考えとく」
「えぇ、考えておいてちょうだい」
保留ではあるものの悪い返事ではない。
シアはちょっと前進できたかなと内心ほくほくしながら、目的地であるビアンカの店まで足を進めた。
「ここよ、ここ。ビアンカのお店」
「すごい綺麗……! さすがビアンカさん、美的センス凄すぎ!!」
明らかに異彩を放つ外観。周りがレンガ調なのに対し、ビアンカの店は白を基調とした石造りになっていて、ところどころに飾られている装花と相まって美しい様相をしていた。
「ビアンカに言ってあげて。あの子この店舗の外装も内装もすごくこだわってたから。大工さんと喧嘩するくらい」
「あのビアンカさんが?」
「えぇ。あの子こだわり強いからそういうところは喧嘩っ早いというか……譲らないし頑固なのよ」
美人な上に、ニコニコと人のよい笑みを浮かべているから想像しにくいかもしれないが、ビアンカはかなりの頑固である。
特に自分の美に関する感性には絶対的な自信があるため、衝突することも多く、あの気が強いジュダと揉めているのもそういうこだわりの強さからであった。
「でも、実際ビアンカのセンスは抜群にいいから、私としては自分の心情を曲げない彼女の姿勢はとても好きよ。それに、周りから言われて曲げてしまうようじゃ大成しないだろうし」
「まぁ、ビアンカさんのセンスは私も好き」
「でしょう? ビアンカの色彩センスはずば抜けてるからね」
「何であんたが誇らしげなのよ」
「だって、友達として嬉しいじゃない。そんな素敵な誇れる友人がいるって。って、ここでそんな話しててもしょうがないから、行きましょうか。せっかくなら本人と話したほうがいいし。……こんにちは、ビアンカ〜!」
言いながらシアが入り口のドアを開けて店の中に入る。すると、普段は明るいビアンカの声が奥から聞こえてくるはずなのに、珍しく静まり返っていた。
「ちょっと、留守なんじゃないの? 勝手に入ったらまずいんじゃ……」
「あらやだ、その声はシアちゃんじゃなーい!!」
「え、ジュダさん? 何でここに」
全く想像していなかった人物の声が聞こえて驚いてると、あっという間に勢いよくジュダにハグされるシア。
それを「ジュディ! シアさんはワタシの店に来たのよ! 何であんたが抜け駆けしてシアさんに抱きついてるの! さっさと離れて!!」と駆けつけたビアンカがキーキーと喚きながら引き剥がそうとする。
その様を見ながら、リリハが真っ青な顔をしながら飛んできて、「いつもいつもジュダ様がすみません! 本当に不敬で申し訳ありません!」とシアとビアンカの双方に頭を下げまくっていた。
「えっと、どういう状況なのこれ」
あまりに阿鼻叫喚な状況に、思わず遠い目になるシア。
だが、近くで呆気に取られるセレナの存在に気づいて我に返ると、とりあえずどうにかジュダを引き剥がしつつ、全員に落ち着くように宥めるのだった。




