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行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました  作者: 鳥柄ささみ
第一章 結婚

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第三十三話 人気者

 とにかく久々のパーティーだから楽しもうと、まずは食事を楽しむことにする。

 普段とは違った香りや見た目の料理の数々に目を奪われながらも、やはり緊張しているのか、レオナルドもセレナもフィオナも「美味しそう」と言いつつ料理を目の前にしても、なかなかすぐには手を出さなかった。


(本当、こういうところはそっくりなんだから)


 見た目はそこまで似ているわけではないが、子供達はそれぞれ傾向は違うものの、緊張したり失敗を恐れたりするようなところはレオナルドそっくりだ。


(気が強そうで案外ネガティブなのよね。アンナはちょっと違うかもだけど、この三人は特にそっくり)


 そんな彼らのことを微笑ましく思いながらも、せっかく来たのに食べないなんてもったいないと、シアがわざと食い意地を見せてあれこれ料理を皿に乗せる。

 そして、「これはセレナが好きな味つけね。とてもスパイシーで美味しいわ」「こっちはフィオナが好きかも。味が濃くなくて素材の味が感じられて美味しいわ」「これはレオナルドさんが好きだと思います。野菜の甘みを感じながらも肉の旨みもしっかりあって味が調和されててとても美味しいです」とそれぞれ食べながら説明すると、おずおずながらも手を出し始める三人。

 気づけば一通りの食事を満喫し、みんな幸せそうに顔を綻ばせていた。


「どれも美味しかったわね。久々に食べ過ぎなくらい食べちゃったわ」

「うん。美味しかった」

「ふぅ。お腹いっぱいだわ」

「セレナ、姿勢」

「だ、だって、お腹いっぱいなのだものっ。ちょっとくらいいいじゃない」


 ダイエットの反動か、確かにいつもよりもよく食べていたセレナ。

 コルセットでギュウギュウに絞めているのと食べ過ぎなのも相まってか、息苦しさからかいつもよりだらしない姿勢になっていた。


「それでもダレないの。素敵なレディだと思われたいでしょう?」


 シアの指摘にうぐっと黙るセレナ。

 本当にこういうところはわかりやすい。


「わかったわよ。気をつければいいんでしょ、気をつければっ」

「えぇ、お願い」

「うーん。お腹いっぱい。眠い」

「もう、フィオナったら。それなら椅子に座る? 座って寝ちゃダメだけど、立ってるよりかは幾分か楽になると思うわよ。セレナも満腹で立ってるのがつらいなら座ったら?」


 そう言って空いてる席を指差す。大きめのソファーがいくつか置いてあり、家族三人なら座れそうであった。


「まぁ、あんたがそう言うなら、そうしてあげる」

「そうする」

「レオナルドさんは座りますか?」

「いや、私はいい。シアが代わりに座ってくれ」

「では、お言葉に甘えて」


 椅子がある場所へと移動してシアも子供達と一緒に腰かけると、ゆっくりとパーティーを見回す。


 今までパーティー内では引っ張りだこだったシアは、こんな風にゆっくりすることなどなかったのでちょっと新鮮だった。

 たまにはこうしてゆっくりするのも悪くないと思っていると、隣で立っていたままだったレオナルドがシアの顔を覗き込んだ。


「どうした? 疲れたのか?」


 間近にイケメンのドアップに、思わずドキリとするシア。あまり間近でレオナルドの顔を見たことがなかったため心臓が早鐘を打ったが、どうにか気持ちを落ち着け、口を開いた。


「いえっ、ゆっくりするのも悪くないなと思っただけです。普段はこうして椅子に座ることもままならないことが多かったので」

「あぁ。なるほど。確かに、先程の感じだとそうだろうな」


 令嬢達に囲まれていたことを思い出してか遠い目をしているレオナルド。

 恐らく、普段からあまり人に囲まれる経験をしたことないレオナルドにとって、先程の一件はかなり疲弊したことだろう。


「すみません、ご迷惑をおかけして」

「いや、シアが悪いわけではないから気にするな。それにしても、人気者は大変だな」

「別に人気者のつもりはないんですけどね。多分、私は彼女達の偶像になってるだけかと」

「偶像?」

「彼女達にとっての理想のシア様像なるものがあるんですよ。彼女達はそれを追いかけてるだけなんです。ついそれを演じてしまう私も悪いんですが、期待されると応えたくなってしまう性分なので」

「言われてみれば、令嬢達の前と普段の顔はちょっと違うかもな」


 レオナルドが気づくほど外面が違っているのかと苦笑する。意識してやってるわけではないのだが、どうしても人によく見られたい、嫌われたくないと思ってしまう性格はどうしようもなかった。


「そういう意味では、今はだいぶ楽かもしれないです。どうしてもみんなの前では気を張ってしまうので」

「ということは、私の前では自然体でいられているということか?」

「そうですね。おかげさまで」

「そうか」


 レオナルドの声が優しく感じる。

 最初こそ気難しい人だと思ったが、こうして打ち解けていくと素直で可愛らしい人だと思う。


(どうして氷の公爵だなんて不名誉なあだ名がついてるか知らないけど、きっとレオナルドさんと接する機会が増えれば、そんな汚名もすぐに払拭できるはず)


 そんなことをぼんやりと考えながらダンスフロアに視線を送ると、そこには見知った顔があった。

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