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行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました  作者: 鳥柄ささみ
第一章 結婚

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第十四話 ワガママ

 そんなある日のこと。


 夕食時、浮かない顔をしているアンナに気づく。食事は食べてはいるようだが、そのスピードはとても遅い。

 普段であれば一番に完食しているはずなのに、少食でかなり食べるのが遅いフィオナよりもアンナのほうが遅く、まだ手付かずの品があるくらいだった。


「アンナ。どうしたの? 具合悪い?」

「え? あ、いえ、大丈夫です。すみません、ちょっとボーっとしてました」

「大丈夫? 疲れているんじゃない? 今日は早く休んだほうがいいかもしれないわね」


 顔色は悪くなさそうだ。

 けれど、真面目なアンナは他の人に比べてストレスが余計にかかっていそうだと、メンタルな面で心配になる。


 アンナは苦笑するばかりで何も言わないため、余計に気がかりだった。


「お姉ちゃんの料理が美味しくなかったんじゃない?」

「きょ、今日は失敗してないわよ! ねぇ!?」


 フィオナの指摘に、顔を真っ赤にしながらシアに同意を求めるセレナ。未だ初日の料理のトラウマがあるせいか、セレナは料理の指摘に関して特に敏感であった。


「えぇ、今日セレナが作った鴨のローストはとても上手にできているわ。味付けもちょうどいいし、中までしっかり焼けているもの」

「ほら!」

「ただ焼いただけじゃん」

「フィオナ〜!? 文句言うなら食べなくてもいいけど?」


 セレナとフィオナの口論を聞きながらアンナを見るも、やはりぼんやりとしながら俯き加減でなんとなく様子がおかしかった。


 そういえば、帰宅したときも何か言いたげにしていたことを思い出す。聞いても「何でもないですよ」とのことだったが。


(学校で何かあったのかしら)


 何か原因があるのだとしたら、学校以外考えられない。


(もしかして、イジメ? アンナに限ってそんなこと……じゃあ、何か事件にでも巻き込まれたとか? まさか、誰かに弱味を握られて脅されてるとか?)


 どんどんと悪いことが頭をよぎる。

 もしアンナが思い詰めて思い切ったことをしたら、彼女の身に危険が迫っていたら、とだんだんとネガティブな思考に陥っていくことに気づいてハッと我に返った。


(……やっぱり母娘ね。お母様の思考に似てきた気がする)


 ネガティブな思考の途中で母の言葉が脳裏をよぎり、そういえば自分もよくこうして心配されていたことに気づく。母の心配性は困りものだと思っていたが、自分も同様の現象に陥っていたことにシアは自嘲する。


(とにかく、私がこう悶々としててもいいことないし、まずは本人に聞かないと。勝手に妄想してても気を揉むだけでいいことないものね)


 思考が母に似てきたことにちょっとショックを受けつつも、母を反面教師にして過剰に反応しないよう心がける。

 とにかくまずはアンナと話す時間を作らないとと目の前で未だに不毛な争いを繰り広げているセレナとフィオナを嗜めながら、シアは夕食を早く済ませるようみんなに促すのだった。



 ◇



 夕食も終え、各々自分達の時間を過ごすために部屋に戻ったのを見計らってシアはアンナの部屋へとやってきていた。


 コンコン……


「はい」

「アンナ、今いいかしら?」

「シア様? どうぞ」


 アンナの了承を得て中に入る。

 相変わらずアンナの部屋は綺麗に片付いていて、宿題でもしていたのか机には羊皮紙と本が置かれていた。


「ごめんなさいね、勉強中に」

「いえ。先程始めたばかりですから、お気になさらないでください。それで、シア様がわざわざお部屋に来てくださるなんてどうしたんですか? 何かお手伝いすることでもありますか?」

「ううん、そういうのではなくて。ちょっとアンナに聞きたいことがあって来たの。こっちに来てもらってもいいかしら」


 言いながらシアはアンナの部屋にあるソファに腰かけ、隣に座るよう促す。すると、アンナは不思議そうな顔をしながらも、言われた通りにシアの隣に腰をかけた。


「ねぇ、アンナ」

「はい」

「学校で何かあった?」

「え?」


 アンナが目を見開く。そして、視線を彷徨わせたあと、俯いた。


「言いたくなければ言わなくてもいいの。ただ、ちょっと気になっただけで。もし、私が力になれるようなことだったら、お手伝いできないかなーって」


 つい焦って饒舌になってしまうシア。

 なんだか空回りしている自分が恥ずかしくなりながら、上手く言えない自分がもどかしかった。


「すみません、お気遣いさせてしまって。でも、何でもな……」

「何でもなくはないでしょ」

「え?」

「何でもないって顔じゃないわ。今日帰ってきてからずっと。アンナの相手を慮るところは美徳ではあるけど、相手を慮りすぎてる。それに、気遣って何が悪いの。私達は家族になったのだから、気遣って当たり前じゃない。それに、私はアンナの母としてここにいるのだから、もっと甘えていいのよ。というか、むしろワガママを言ってちょうだい」


 ついアンナの言葉にムキになってしまって、その勢いのまま熱くなってしまったシア。言い終えてからハッと我に返るも後の祭りだった。


(言いたくなければ言わなくていいと言ったくせに、舌の根も乾かないうちに矛盾したこと言ってたわよね、私)


 言いたいことと言ってしまったことのギャップに頭を抱える。もっとスマートに聞くはずだったのにイメージ通りにはいかず、吐き出してしまった言葉は今更戻しようがなかった。


「ごめんなさい。今矛盾したことを言ったわ。えーっと、言いたくないことは言わなくていいのだけど、私は継母と言えど親として心配なわけで、アンナにはもっとワガママを言ってもらいたくて……あれ? と、とにかく、アンナは余計なこと考えなくていいから、もっと甘えてワガママを言いなさいっ!」


 結局ぐだぐだになってしまったが、とりあえず言いたいことは言えた。明らかに言葉はおかしかったが、本心としては間違ってはない。


 アンナを見つめると、シアの勢いに圧倒されたのかシアのことを見つめながら固まっている。「あれ、言いすぎたかな。やっぱりもうちょっと違う言い方のほうがよかったかしら」とシアが焦っていると、アンナが唐突に「いいんですか? ワガママを言っても」と呟いた。


「もちろんよ! セレナとフィオナがいい見本でしょう? ……まぁ、あの子達の場合はワガママすぎるところはあるけれど。二人から三人に増えたくらいでどうってことないわよ! 私がお節介なの、知ってるでしょう? ちょっとやそっとでは動じないから、もうどんどんワガママ言ってちょうだい!」


 シアがそう言って胸を叩いてみせる。すると、アンナは「ふふふ」と口元を緩めた。


「そっか、私もワガママを言っていいんですね。なぜか、昔から私は言ってはいけないような気がして」

「どうして?」

「うーん、どうしてでしょう。……多分、私までワガママを言うと両親がとても困ると思ってたからかもしれません」

「それじゃ、アンナが損してるじゃない」

「損……考えたこともなかったですけど、確かに言われてみれば損かもしれないですね」


 アンナが遠い目をする。

 そんな彼女を見て、シアはなんとなく亡くなったという彼女の実母のことを想っているのだろうと思った。


「……シア様、ありがとうございます。お姉様とフィオナほどのワガママを言える自信はありませんが、頑張ります」

「えぇ、頑張って! アンナのワガママならいつでもウェルカムだから」


 ワガママを言うのを頑張れというのもおかしいが、アンナにはこれくらいがちょうどいいのだと気にしないことにする。


 そして、アンナが遠慮するならこちらもどんどんとお節介を焼こうとシアは心に決めたのだった。

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