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行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました  作者: 鳥柄ささみ
第一章 結婚

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第十二話 夜更け

 夜更けすぎ。

 掃除に没頭しすぎて手紙の返事が書けていなかったシアは、レオナルドが帰ってくるまで返事を書いていた。


「ふぅ、やっと終わった」


(手紙をもらえるのはありがたいけど、毎回この量だとちょっとつらいわね)


 好意に対して応えたいと思ってしまうシアは、なんだかんだ言いつつも結局全部に返事をしてしまう。母にもよく八方美人だなんだと言われることが多かったが、こればかりはそういう性分なのだから仕方ないと割り切ることにした。


 そして、返事を書いた手紙全てに宛名と差出人の名を書き、封をする。


「今日はさすがに疲れたな」


 片付けに掃除に大量の返信。

 腕はもうパンパンで、腰もちょっと痛い。まだまだ気持ちは若いつもりでいたが、身体はそうでもないらしいと気づいてちょっと憂鬱になりながらシアは大きく伸びをした。


 ガチャガチャガチャ……


 エントランスからドアを開ける音が聞こえる。恐らくレオナルドだろう。

 シアは近くに引っ掛けてあった上着を羽織ると、彼を出迎えるためにエントランスへと駆けた。


「おかえりなさい」

「……起きていたのか」


 シアが帰宅したレオナルドを出迎えると、彼はシアがまだ起きていたことに驚いた様子だった。


「妻ですので」

「妻としての役割は期待してないと言ったはずだが」

「レオナルドさんはそうかもしれませんが、私がここに嫁いだ以上妻としての役割を果たしたいと思っただけですから、お気になさらないでください」


 レオナルドはいつもの複雑そうな表情を見せるが、嫌悪感があるわけでもなさそうであった。


「そういえば、バスケット回収しますね」

「あぁ」


 受け取ったバスケットの中身を確認すると、その中は空っぽになっていた。端にいくつかソースがついたり葉クズが残ってたりしたのを確認し、捨てたわけではなさそうだとホッとする。


「どうでした? 美味しかったですか?」

「あぁ、悪くなかった」

「レオナルドさん、そういうときは美味しかったって言うんですよ?」


 シアがニコニコと微笑みながら言うと、険しい顔をして黙り込むレオナルド。

 どうにか黙ってやり過ごそうとしてるのは見え見えで、シアは根気比べとばかりにそのままずっと彼を見つめる。

 そして長くそれが続いていたが、先に白旗を上げたのはレオナルドだった。


「……美味かった」

「それはよかったです。量は足りました? 明日もいります?」

「あぁ」

「中身は同じにします? そういえば、木苺のジャムを作ったので、ジャムサンドも作れますよ」

「あぁ」

「あぁ、ではわかりません」

「……それも入れてくれ」

「わかりました。明日作って入れておきますね」


 シアが指摘すると、時間がかかりつつも素直に言うことを聞くレオナルド。やはり根は素直らしい。かなり不器用ではあるが。


「そういえば、これをレオナルドさんに」

「何だ、これは」

「上手でしょう? フィオナが描いたんです」

「フィオナが?」


 レオナルドに渡したのはフィオナが描いたレオナルドだった。整頓した際、捨てると言っていた彼女にシアが懇願して譲り受けたのだ。


「フィオナ、自室で絵をたくさん描いていたのをご存知でしたか?」

「……いや」

「風景画も人物画もどれもこれもとても上手でしたよ。今度見てやってください。恥ずかしがるかもしれませんが、喜ぶと思いますので」

「わかった」


 レオナルドはまじまじとフィオナの絵を見つめている。その表情はどこか嬉しそうだった。


「飾りましょうか?」

「いや、いい。自分でやる」

「そうですか。あぁ、それと、部屋で描くには手狭そうだったので、独断で空き部屋をアトリエにすることにしたのですが、問題なかったですか?」

「あぁ。家のことはキミに任せると言ったからな」


 信頼されてるからの言葉ではないだろうが、とりあえず問題ないとのことでホッとする。

 フィオナに用意すると言った手前、もし家主であるレオナルドに断られたらフィオナにどう顔向けすればよいのかとも思っていたのだ。


「それで? 話は以上か」

「はい。以上です。あ、夕食まだですよね? 今用意します」

「あぁ。……シア」

「はい、何でしょう」


 キッチンに駆け出そうとしたところで腕を掴まれる。レオナルドの手は大きく温かくて、初めて触れられたことにシアはドキッとした。


「普段はここまで遅くならないとは思うが、こうしてこんな遅くまで起きていなくてもいい。それと、今回は私だったからよかったものの、暴漢や強盗の可能性もあるのにその格好で確認もせずに出迎えるのは感心しないな」

「えーっと、それは……私の心配してくれてるということでしょうか?」

「いや……そういうわけでは……」


 言いながら目が泳ぐレオナルド。

 どうやら自分がどういう意図で言ったか意識していなかったようで、シアの指摘に困惑している様子で口籠る。


「お気遣いどうもありがとうございます。一応、手紙の返事を書いていたのもあって無理して起きていたわけではないので、気になさらないでください。あと、確かに不用心ではあったので以後気をつけますね。今度は護身用にクワかスコップでも持って出ます」

「そういうことではないのだが……間違って私を殴るのだけはやめてくれ」

「もちろんです。ちゃんと相手は確認しますよ!」

「あぁ、そうしてくれ」


 ふっと口元が緩むレオナルド。

 シアは貴重なものが見れたと内心はしゃぎつつ、笑うとちょっと幼く見えるんだなと新たな発見をして嬉しくなった。


「……何だ?」

「いいえ。何も」

「そうか。シアは明日も子供達の見送りなどがあるのだろう?」

「そうですね」

「では、先に寝ていていい。あとは自分でやる」

「んー……では、せっかく起きていたので夕食の準備だけさせてください。それだけしたら寝ますので」

「……わかった」


 なんだかんだ言いつつもやっぱり気を遣ってくれるレオナルド。最初はなんて無愛想で横柄な人だとけちょんけちょんに思っていたが、素直ではないものの案外優しい人なんだな、とちょっとだけ彼のことを見直した。

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