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行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました  作者: 鳥柄ささみ
第一章 結婚

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第十話 掃除

 ふぅ、といただいた茶葉でお茶を出しながら一息し、手紙の返事を書いているときだった。

 玄関が開く音が聞こえ、子供達が帰ってきたことに気づくシア。


「おかえりなさい」

「ただいま帰りました」


 シアの言葉にアンナは応えるも、セレナとフィオナはそれどころじゃないとばかりに詰め寄ってきた。


「どうなってんの!? 家に誰か入れたの!?」

「誰も入れてないわよ」

「なら、何でこんなに片付いてるの」

「綺麗になったでしょう? 一人でやったわりに結構頑張ったと思わない?」

「は? これ全部一人で?」

「嘘でしょ」


 セレナとフィオナは信じられないと驚いた表情を浮かべる。


 今日は主に庭や玄関周りを片付けたのだが、不用品らしきものを仕分けただけでだいぶ綺麗サッパリした。

 特に庭などは物が散乱としていたせいか、こんなに広かったのかと片付けていたシアさえも驚くほど。元から長く住んでいた彼女達ならさらに衝撃を受けたことだろう。


「まぁ、今日はそこまで時間がなかったから家の外周りしかできてないけど。明日は家の中も頑張ろうと思うの」

「すみません、シア様に一人でさせてしまって」

「いいのよ。アンナ達は学業が本分なのだから、謝ることはないわ。それに、私が家のことを任されているのだから、これくらいはしないとね」


 実際、家のことくらいしかシアにはできない。だからこそ、少しでも住みやすいよう居心地のよいようにしようと奮闘したのだ。


「それにしても一人で動かせる量じゃないでしょ。絶対誰かに手伝ってもらってる」

「お父様に言いつけてやる」

「いいけど……私、案外力持ちなのよ? ほら」

「きゃあ!?」


 力強いことを見せようと、近くにいたセレナをひょいと持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。


「どう?」

「まぁ、すごいですシア様!」

「怪力女」

「信じられない! いきなり持ち上げないでよっ! デリカシーなさすぎでしょっ!!」


 顔を真っ赤にしたセレナが抱えられながら叫ぶ。


「そうね、ごめんなさい。確かにデリカシーに欠けていたわね」


 シアはそっとセレナを下ろして謝る。確かにいくら同性同士とはいえ、力持ちと言いながら彼女を持ち上げるのは良くなかったと反省した。


「それに、セレナは軽かったから重い物を持てるアピールにはならなかったわね。んー、じゃあそれなら何か別の物を……」

「もういいわよ! わざわざアピールしなくても、貴女が力持ちだっていうのはわかったから」

「そう?」


 適当に何か重そうなものをと物色しようとしていたシアは探すのをやめる。


「というか、明日は家の中を片付けるって言ってたけど、私の部屋には入らないでねっ」

「私の部屋もダメ」

「いいけど……それなら自分で片付けをしてもらってもいいかしら」

「もちろん。いつも片付けてるし」

「うん」


(やけに素直だな……怪しい)


 シアの言葉に頷くセレナとフィオナ。あれだけ反抗的な態度を取っていたはずの二人がすんなりと言うことを聞くのはどこかおかしい気がする。

 そっとシアがアンナに視線を移すと、まさに苦笑といった様子だ。


(これは間違いない。黒だ)


 シアは彼女達の部屋に介入せねばならないと確信し、どうにか部屋に入る口実はないかと思案する。


 そして、嘘も方便だとちょっとした嘘をつくことにした。


「そういえば、昨夜私の部屋に大きい蜘蛛が出たのだけど、取り逃してしまって。もしかしたら、貴女達の部屋に入るかもしれないけど、片付けついでに見つけたら外に逃してあげてもらってもいいかしら」

「は?」

「え」


 蜘蛛、というワードに凍りつく二人。どうやら虫が苦手らしい。セレナとフィオナは顔を見合わせて、何やら難しい顔をしていた。


「私、蜘蛛は無理よ」

「私だって無理」

「だからって部屋に入られたら……」

「お姉ちゃん、何とかしてよ」

「できるわけないでしょっ!」


 ヒソヒソ話にもなってないヒソヒソ話を目の前で繰り広げる二人。


「シア様。蜘蛛の確認のみでしたら、できれば今日していただいてもよろしいですか? 蜘蛛と一緒に寝るかもしれないというのは居心地が悪いので」

「いいけど……アンナは私が部屋に入っても大丈夫?」

「はい。ぜひ」

「では、私は今からアンナの部屋から行くから、二人はどうするか決めてちょうだい。あぁ、もしアンナの部屋で蜘蛛を見つけたら言うわね」


 シアの意図を察したらしいアンナがシアに提案する。このままでは埒が明かなそうではあったので、その提案は渡りに船であった。


「ごめんなさいね。いつもアンナばかり気を遣わせてしまって」

「いえ。私はシア様と一緒にいられるのが嬉しいので」

「そう? ありがとう。でも、そんなに気を遣わなくていいのよ?」

「本当です。気を遣ってるわけではなくて、私はシア様が来てくれて嬉しいんですからっ」


 必死な表情で訴えるアンナは可愛らしかった。シアは嬉しくなって思わず抱きしめると、そのままよしよしと彼女の頭を撫でた。


 すると、アンナは照れたように耳まで真っ赤に染める。どうやらハグやよしよしなどに慣れていないらしい。


「ありがとう。私も嬉しいわ」

「……シア様は本当にお優しいですね」

「そうかしら? あまり自分ではわからないけど、そう思ってもらえたら嬉しいわ」

「シア様はとっても優しいです。あと、その、もしよければ、またこうしてハグしてもらってもいいですか?」

「もちろん。減るものじゃないもの。アンナがよければいつでもするわ」

「ありがとうございます」


 自分のハグなんかでよければいつでもどうぞ、とシアが言えばはにかむアンナ。今まで甘えることができなかったらしいのを何となく察する。

 そして、そんな彼女が甘えてくれることをとても嬉しく思いながら、シアはアンナの部屋へと向かうのだった。

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