ep.5 恐怖のアイリス祭 ー混血の少女
ー・・きて、おきてーー
声が聞こえる。身体中が痛い。
重い瞼を開けると見覚えのある複数色の色彩が目についた。
(・・自分以外で初めて会ったな)
そう思ったのも束の間、少女の耳から控えめにツンと尖った耳が目に止まる。
美しいブロンドから除く耳は人間のものではない。
夢かと思い、何度か瞬きを繰り返した。
「君、大丈夫?」
鈴のように透き通った声がアステリアの鼓膜を擽る。
少女の声に応えるように重たい身体を起こすと、聞き慣れない金属音が自分の身動きに合わせて反響した。
視線を下げると手足には頑丈な鎖が嵌められており、行動の自由を奪っていた。
「ああ、なるほど・・あんたはエルフ?俺と同じく捕まったたち?」
状況を飲み込めたアステリアは諦めたように目の前の美女に向き直ると、彼女は困ったように笑った。
「正確にはエルフじゃないんだけどね。捕まったかっていう君の問には”そう”としか言えないかな」
「正確にはって、どういうこと?」
彼女の話によるとエルフという名称は人間が作り出したもので、自分は小人と人間の間に生まれた子供だという。
小人は他の種族の前には決して姿を見せない。
それゆえ小人は架空の存在だと信じている者も多い。
伝承の小人は身体が30cmほどで耳は兎のように大きく、手足は身体に不釣り合いなほど大きい。
見た目が伝え聞いた小人と異なった為、別の種族だと考えた昔の人間族が彼らにエルフという種族名をつけたらしい。
「へえ、すごいね。じゃああんた、小人族のハーフなんだ?名前は?」
「私はローズ。パパが小人でママが人間なの。
ママはもうかなり昔に死んじゃったから、今はパパと暮らしてる。君の名前は?」
「俺はアステリア。いいなー、家族と一緒に暮らせるとか羨ましいぜ。
俺2年前に家出しててさ、今は魔具師見習いしてんだ」
「・・・魔具師?」
アステリアの言葉にローズは眉をひそめる。
美しい顔立ちに浮かべたのは嫌悪感と軽蔑。
魔族にとって魔具師は良い印象じゃないのだろうか。
不思議に思ったアステリアは「何?」とローズに問う。
「ううん、なんでもない」
ローズは作り笑いを浮かべると、よそよそしくアステリアから視線を外した。
若干開いた心の距離が気になったものの、会話が途切れたことでアステリアは牢の中を見渡す。
月の光が差し込む窓はとても小さく、暗い地下牢に目が慣れるまでは目の前を認識することしか出来なかったが、暗闇に目が慣れて来たことで周囲の状況を確認することが出来たアステリアは悲憤に駆られた。
そこにいたのは魔族の子供達だった。
獣人族、水人族、羽人族、巨人族、そして半小人族のローズ。
人間の国では滅多にお目にかかれない珍しい魔族が集結していた。
多種多様の魔族の子供達が頑丈な鎖に繋がれており、身体は傷つき、飢餓で骨が浮き上がっている。
「おい、なんだよ・・・これ」
唖然とするアステリアの横で、ローズは小さくため息を吐くと呆れたように答えた。
「こんなの今に始まったことじゃないよ。
魔族には魔力があるから人間に捕まったら最後、絶対に家には帰れない。奴隷か魔具研究施設で魔道具の動力の実験体にされる」
「おい待てよ、ヘムカでは魔族の立ち入りが禁止されてる。・・・もしかしてグリムウッド男爵が実験体の確保のために行ってる違法な奴隷売買ってーー」
「魔族だよ」
納得してしまったアステリアは拳を握りしめる。
違法な奴隷売買を行っているという噂のグリムウッド男爵が国から検挙されないのは売買する商品が魔族だったからだろう。
他者と違うだけで、比較され評価され使い捨てられる。
個性というものは本来強みのはずなのに、なぜ俺たちは協力することができないのだろうか。
なぜ人間は自分の利益と欲求に逆らえないのだろう。
答えの出ない問いに自分を重ね、鬱屈した気持ちが積もっていく。
アステリアは制御できない感情に大きく舌打ちをした。
ローズは透明感のある美女なのに身だしなみに無頓着で着飾らない女の子。
イメージは休日は寝巻きのままカップ麺食べて、ゲームして、ベットでお菓子を食べる。
カーテンの閉め切った部屋でダラダラ1日を過ごすようなちょっぴりズボラな女の子ですww
パパの苦労もいつか書けたらいいな。