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ep.4  恐怖のアイリス祭 ーグリムウッド侯爵

先ほどの小さな待合室とは打って変わり、通されたのは2階にある大きな客間だった。


部屋の中央には豪勢なシャンデリアが掛かっており、その下にはガラスの展示ケースに大切に仕舞われている花の化石がある。


それは意外にも名前とは随分異なる印象を与えるものだった。

石のような質感は一切なく、押し花を氷で保存しているかのようで見たことがない神秘的な美しさを放っていた。


「随分・・・印象が違うんだな」


「ただ単純な化石という意味ではありません。自然界では存在し得ない鉱物だそうで、専門家たちが化石(トランストーン)と名付けたそうです」


化石の中央で硬化した花はアイリスだろう。

アイリスの花に惹かれたわけではない。

しかし無性にその花に触れたいという衝動に駆られた。


ガラスケースに向かって手を伸ばすと、突如胸の右側が強く脈撃つのを感じ、頭の中で知らない光景が浮かんできた。


頭に浮かぶのは、自然が豊かな見知らぬ土地だ。


ヴァギラン王国だろうか?こんなに美しい光景は見たことがない。


そこには想像もできないほど歴史を感じる巨樹が荘厳に大地に根を張っており、木の根元に咲いた様々な種類の花を掻き分け進むと地下へ続く小さな階段が現れた。


太く根が張り巡らされた地下の階段には、身体を明るく光らせる蝶が優雅に浮遊し、薄暗く湿った入り口は不思議と幻想的な空間になっていた。


しばらく地下を下っていくと、静寂な空間に次第と音が反響していく。


音が大きくなるにつれて薄暗かった階段に光が現れ、狭い階段からは想像できないほど大きな地下空間が現れた。


その場所を照らすのは先ほどの蝶ではなく煌々と輝く金色の鳥だ。


数多くの闇鳥が地下空間の中を悠悠と飛び交っており、毛足が長い優雅な風貌は古代伝説の不死鳥を連想させた。


闇鳥の下には色鮮やかに塗装された石と木材で出来た建物が規則正しく並んでおり、周囲には地上から持ってきたのか幾千万の植物が植えられている。


ーーお姉ちゃん!!


突如幼い声に呼び止められて後ろを振り返ると、自分よりも背丈の低い少女が自分の裾を引っ張っている。


兎のような大きな耳に、小さな身体とはバランスが取れていない大きな手足、そして幾重に色が重なる瞳は宝石のように美しい。


しかし次の瞬間、少女の双眸から緑色の血液が流れ出した。


ーー助けて


「!!!!」


澱んでいた意識が鮮明になると、顔面から滝汗を浮かべていた自分に気がつく。

肺に負担をかけているわけではないのに、呼吸は荒く肩が激しく上下していた。

ピリリと手のひらに痛みを感じ、自分の拳を見ると指 から鮮血が滴り落ち、いつの間にか手の中に花の化石を握っていた。


「・・・素晴らしい」


背後から絞り出すような声が溢れる。


咄嗟にアステリアが振り向くと、いつの間にかモートンの隣に見知らぬ細身の男が立っていた。

男の顔は青白く目は窪み、頬骨が鋭く突き出している。

例えるなら骸骨のような風貌だ。

しかし身なりの良さから男の正体はひと目で把握することが出来た。


「・・なぜこちらに・・?グリムウッド侯爵」


アステリアの問いかけに可笑しそうに笑うと、血管の浮き出た細腕を上にあげる。


するといつの間にかアステリアの背後には年老いたモートンが控えており、「失礼」という言葉と共に素早くアステリアの背後に回り込み、腕と体の動きを封じた。


腰に手を当てられ動きを制限されているため上手く抜け出すことが出来ない。


「君は自分が今何をしていたか覚えているかい?」


グリムウッド侯爵は興奮気味に笑うと、興味深そうにアステリアの桜色の髪を力強く引っ張った。


「この髪・・染めているな、貴様白髪か?」


グリムウッド侯爵の言葉に身体が強張る。

身動きの取れないアステリアの顎を掴むと魔道具であるメガネを奪い、顔周りの髪の毛を捲り上げられる。


「2色以上が混ざった瞳と・・ふむ、耳は人間か。


貴様、先祖がエルフか・・・小人の血が入っておるな」


「何を・・・」


アステリアは自分の声が震えるのを感じた。


人間族の瞳はその眼球に何色もの色彩を持つことはない。

魔族の中でも2色以上の眼球を持つ者はエルフか小人族だけだと言われている。

アステリアの眼球は桃色と薄黄色が混ざっており、普段は自身の瞳と同じ色のレンズで瞳を隠すことで複数の色彩を隠していた。

そうでもしなければ周囲の人間からは偏見を持たれ、奴隷商人に誘拐してくれと言っているようなものだ。


その瞳をあのグリムウッド侯爵に見られてしまった。


「先ほどお前が花の化石に触れた時、この部屋から信じられないほど眩しい光が漏れ出していてな、部屋全体が黄金の輝きで満ちていた。何やらぶつぶつ呟いていたが・・」


そう言いながらグリムウッド侯爵は薄笑いを浮かべながら不快な眼差しでアステリアを見つめた。


「知るかよ、とっととこの拘束ときやがれ」


言葉を吐き捨てるその刹那、アステリアの視界は漆黒の闇に包まれた。



〜プロフィール〜

アステリア(17)

176cm 

白髪をピンクの染料で染めている(ウルフヘアで癖っ毛)

目はピンクとクリーム色のグラデーションで、2色の瞳を隠すためにカラーレンズの魔具を装着している

美男子です

この世界での白髪の意味については後日ストーリーで触れていきます。

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