ep.2 恐怖のアイリス祭 ー花の化石
「は?花の化石??」
「そうなんだよ!」
窓に身体を向けながら、周囲に声が響かないように肩を寄せ合う。
ターガンの話は確かに違和感を覚える内容だった。
近年此処ヘムカ帝国の各地で、魔族の国であるヴァギラン王国から流れて来たであろう”魔物”が様々な領地に出没しているようだ。
魔物の実体はわかっていない。
確かなことは人間と意思疎通が可能な魔族と違い、魔物には自我が無いという事。
自我のない魔物は無差別に攻撃を行い、C級冒険者以上でないと討伐ができない。
そんな魔物の群れが隣町に身を隠して生息していた。
幸い帝国騎士団が討伐に赴き殲滅が完了したそうだが、その際に隠れ家で見つかった品が”花の化石”という代物だったらしい。
帝国騎士団は守花の可能性を考え、王族直属の研究機関へ回したようだが何も反応がなく、その代わりに化石に触れた全ての者の気が触れたのだとか。
「奇妙じゃない?」
「・・・そうだな」
この世界は全ての事象が解明されているわけではない。
しかし全ての事象は繋がっているのだ。
化石に触れた全ての者の気が触れたのなら、なぜ何も反応がなかったのか?
魔力か、もしかすると魔具のコアに関係しているのかもしれない。
「でもその花の化石とやらは、帝国がもう回収してんだろ?この情報だけじゃ対価にならないぜ?」
アステリアの言葉にターガンは嬉しそうに笑う。
・・・なんだよ、気持ち悪いな。
「それが!手放したんだよ!」
「は!?バカじゃねえの!?」
「そう思うでしょ?ただね、化石に触れた全員が自殺したそうなんだ。上の人間は次は我が身かも知れないと”呪い”を恐れた」
「ふーん・・・・・・・で、今は誰が持ってんの?」
アステリアは真剣な面持ちでターガンを見つめると、ターガンはアイリスの花に視線を向ける。
「アイリス祭の運営を任されてる領主のグリムウッド侯爵様だよ」
グリムウッド侯爵、彼は自由奔放で貴族らしくない所謂 ”変人” である。
死んだ妹を生き返らせるため、名のある魔具師を集めて蘇生術の研究を行った。
もちろん人間を生き返らせる事など出来る筈もなく、妹を動き回る肉塊にしてしまう。
絶望に打ちひしがれていた侯爵だったが、そんな彼の元に変わった客人が訪れる。
その客人とは呪物収集を生業とする商人だった。
もちろんこの世界では呪物の解明などされておらず、それが本当か否かは本人が判断するしかない。
しかし病んだグリムウッド侯爵を虜にするには十分すぎる品物だった。
「でもあのグリムウッド侯爵だろ?渡してくれるわけねーじゃん」
「違うよ、アステ。魔具師の君が調べてあげるんだよ」
アステリアは美しい顔を硬直させた後、顔を歪めるほど声をあげて笑った。
アステリアの爆笑が工房に響き渡り、店主が表から怒鳴り込んできた。
周囲の視線が二人に集中すると、2人は勢いよく立ち上がり深々と頭を下げて謝罪する。
「ガン、お前ほんと天才」
顔を床に向けながら店主にバレないように小声で囁くアステリアにターガンは満面の笑顔を返した。
アステリアとターガンは17歳です。
ちなみに見習いは10歳〜15歳までの少年なので2人は見習いにしてはちょっとお兄さん気味。
2人の過去の話はまた今度お話しします。