序章
太陽の光が厚い雲の背後に隠れて、どんよりとした空気が辺りを包む日だった。
街の広場には、緊張と期待が入り混じった群衆がひしめきあい、一世一代の見せ物を見物しようと身を乗り出している。
彼らの視線は一つの場所に集中していた。
広場の中央には薪が積み上げられており、全身から油をかけられた女が大きな杭の前に座らせられている。
美しい白い髪は風に揺れ、アメジストとトパーズが溶け合った瞳は静かに広場を見渡していた。
周囲のざわめきが次第に大きくなり、憎悪と恐れの声が耳に届いた。
女の目に一切の恐怖はなかった。
裁判官が高台から刑を宣告すると、群衆は一斉に歓声を上げた。
それは反革命活動の研究と扇動を断罪するものであり、火刑がその罪に対する正当なものであると告げていた。
女の脇に立つ兵士たちは無表情で彼女を杭に縛りつける準備を進めた。
彼女の手足に縄が食い込み、身動きが取れぬようにしっかりと固定される。
最後の言葉を残す機会を与えられた女は、ゆっくりと口を開いた。
「真実はいつの日か明らかになるでしょう。私を恐れるのではなく、真実を求めてください」と。
彼女の言葉に一瞬の静寂が訪れたが、それはすぐに怒号と罵声にかき消された。
そんな中、1人の男が処刑台に向かって女の名を叫んだ。
「アイリス!!!!」
身なりのいい青年は群衆を掻き分け、何度も名前を呼びながら近づいていくが、近くの騎士が青年を床に押さえつけた。
「ディヴィタリウス様!!お辞めください!!」
「放せ!!!」
騎士の拘束を解こうと踠くものの、3人がかりで押さえつけられてるディヴィダリウスに拘束を振り解けるはずはなかった。
アイリスはディヴィダリウスを確認すると愛おしそうに微笑んだ。
やがて刑吏により松明の火が放たれ、熱と煙がアイリスを包み込んでいく。
彼女の目は絶望の表情を浮かべるディヴィダリウスを見つめていたが、やがて炎の中にその姿は消えていった。
群衆の歓声と炎の音が交じり合い最愛の女性を失った男の鳴き声をかき消した。
帝国歴156年11月20日、始まりの魔具師が死んだ。
こんにちは<たおる>です。
初めての小説の投稿です。
先に謝罪しておきます、読みにくかったらごめんなさい。