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パンツの冒険

パンツの村は突如として襲われた。帝国の一般魔道部隊というよくある構成だった。陰謀が渦巻いたであろう帝国の背景など、辺境の村のものは知る由もない。


パンツは狩りに出ていた。狩りと穀物を育てることで生計を立てているよくある田舎の村だ。パンツが帰ってくると村は焼き払われ死体が散乱していた。


魔法は誰でも使える。しかし、教育のたまものである。パンツにはもちろん教養はなく、対獣に対する弓と槍の戦闘技能しかない。


怒りにかられたパンツだったが、狩りの経験が生き、冷静であった。鋭い眼光と思考で復習を決意。手始めに命尽きるまでこの村に滞在している敵兵を殺すと決めた。


炎が生み出す激しい影に隠れ、村に潜んだパンツはかたっぱしから、しかし冷静に狩りを始めた。もちろん人の狩りの経験はない。


「これで全てか。」「そうであります。」「では、炎熱の車輪エイドリアン様に報告に行くぞ。」「承知であります。」


まずは、残飯処理をしているこいつらだ。すべての村民を殺したと思っているこいつらが、後ろを向いた先に殺すと決めた。


幸い、敵が生み出した炎のはじける音が、多少の音をかき消すことが分かっていた。しかし、叫ばれたら終わりのため、勝負を決めるのはスピードであることはパンツにはわかっていた。


瞬間・刹那。パンツは持っている矢を1人の男の心臓に突き刺す。異変に気付き、横後ろを確認するもう1人の口に土くれをぶち込み、獣を剥ぐ小刀で心臓あたりを2,3度突き刺した。


パンツの心臓は爆発している。初めての殺し。殺しの背景。すべてをかみしめている彼は、正常な状態ではなかった。同時に、興奮物質が全身を駆け巡り、パンツは最強であった。もちろん幻覚である。


敵が慢心し、終わっていると思っているこの状況は、戦闘技能を持たないパンツにとって最善の狩り場であった。この調子でやれると感じた。実際に何人か殺した。


実際のところ、この部隊は小規模だった。そもそもこの村を制圧することに苦と思っていないということは推測できた。帝国の一般魔道部隊は、数人の魔法使いと下っ端兵士で構成される。また、1つの作戦で複数の敵地を制圧することが普通であるため、隊長クラスの人間は1つの現場にいることはない。


そして一般魔道部隊は高価な甲冑を着込むことはない。パンツの奇襲は波に乗っていた。複数の下っ端兵士を殺しきっていた。足りない矢や小刀は、マイトやアングランの家からとってきた。


快進撃はついに止まる。これまでと同じように殺そうとした相手は魔法使いだった。

魔法使いは探知魔法を張り巡らせていることが多い。近づくだけで近づいたことに気づかれる。

もちろんパンツにその知識はない。


「何者だ。」


後ろから近付いていたパンツは初めてハっとした。興奮物質にブレーキがかかることを感じる。

魔法使いと思われる敵と、その横にいた下っ端兵士がパンツの方を向いた。


間。


「報告の声に遅れが出ていると感じていた。お前か?」


血濡れの姿のパンツを見て思わず発した声だったかもしれない。しかし、プロであったのだろう。魔法使いは戦闘をしかける。明らかな魔法使いの姿であることを感じ取ったパンツは、こちらに向けられた手のひらを見て、本能にしたがった。


「エンゾ。」


ブォォン。とっさに横に飛んだパンツの横を火球が横切る。通り過ぎた火球は地面にぶつかり、火柱をあげる。焚火の火力と同程度の火柱があがった事実にパンツは恐怖を感じた。


言葉はいらなかった。パンツは近くの家の外壁の後ろに飛んだ。考える時間が必要だった。

敵は何かしら言葉を交わすと、足音を立てて近づいてきた。


軽く顔を出すと、下っ端兵士を先頭に、縦に並ぶ形でにじり寄ってきていた。

魔法使いの射線にいる以上は魔法が火球が飛んでくることはなさそうだが、兵士に近接戦闘で勝てる予感はない。


村、井戸、罠、弓、小刀、炎、大木、包丁、おたま、油、土、自然、敵、魔法、鳥、パンツ、狩猟・・・。


パンツには、戦闘技能はなく、魔法はもっとなく。興奮物質と狩りの経験、少しの武器。復讐の第一歩は、小さな村からはじまった。


「考えるしか、ない。」

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