表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女に認定されてしまったので逃亡します  作者: 天原 重音
襲撃と再会編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/18

霊力と代償

 駆け回り、漸く見付けた窓を叩き割って外に出る。 

 外で起きていた混乱は内部よりも酷かった。下位の魔族が大群でザカライアを襲っている。外と内部は怒号と悲鳴と断末魔の叫び声で満ち、魔族に襲われ血飛沫が風に乗って飛び散り、転がる死体は魔族が食い散らかす。正に、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。

 ザカライアが陥落するにはそう時間は掛からないと思える程に、凄惨極まる光景だ。

 それでも、助けようと言う感情が沸き上がって来ない。

 一人で対処するには数が多過ぎると言うのも有るが、一人ぐらいは助けようと言う気すらも起きない。

 闇夜に紛れて走って移動を続け、合流地点の西の林が見えて来た。傍に三人の姿も見える。

 ――やっと、合流出来た。

 そう思うと、緊急事態であるにも関わらず少しだけ気が抜ける。

 林に入り、ザカライアでの出来事を教えると、三人の表情が一斉に強張った。

 無理もない。魔族への対応が出来るのは、今のところ霊力保持者を抱えているザカライア以外に存在しない。唯一対応出来る国が滅びに瀕していると、聞かされれば、普通は動揺してもおかしくはない。この三人の反応はまだ大人しい方だ。

 何はともあれ、合流出来たのだ。早々に移動をする為に林から出ると、見覚えの有る女が――ベロニカが選定の杖を片手に立っていた。

 惨劇の場と化したあのザカライアから、一体どうやって脱出したのか気になったが、今訊ねる事ではない。

 暫しの間、無言で向き合う……事はなく、眉間に皺を寄せ、いかにも怒っていると言う顔でベロニカは徐に口を開いた。

「何故、貴女は霊力を封印しているのですか?」

 何処で封印している事がバレたのか。少し考えて、教皇(偽)の前で選定の杖に触った事を思い出した。あの時、ベロニカが選定の杖を持っていたな。アレで気付いたのか。ちょっと感心した。でも、今語る必要のない事だ。ここは惚けて逃げるか。

「……封印? 何の話?」

「惚けるのは止めなさい」

 一発でバレた。話す気はないのでやれやれと、肩を竦めて無視を決め込む。

 話す気はないと悟ったベロニカが目を眇めた直後、選定の杖が金の靄交じに白く光る。

「霊なる力よ! 雲を払い、霧を払い、闇を払い、隠されしもの、封じられしもの、その全てを白日の下に晒せ!」

 選定の杖が一際強く光り輝いた。光を浴びた瞬間、霊力の自己封印が解けた。

 ……おいおい。霊力の自己封印術式は、結構な時間を掛けて創り上げたんだぞ。何で光を浴びただけで解けんの!?

 内心で愕然としている暇はなく、一瞬で視界が、金の光一色に染まった。



 ベロニカが持つ選定の杖の力は本物だったし、本人の観察力もまた見事だった。

 自分は霊力を封印している事を見ぬいた人間に会った事はない。魔族ですら、見抜けなかった。

 杖が放った霊力の輝きである金の光を受けて、自分の中の何かが砕ける衝撃と共に、己に掛けていた霊力封印が『解けて』しまった。

 そう、解け『た』のではなく、解け『て』しまった、のだ。

 封印が解けてしまった直後、視界を埋め尽くす程の黄金の、否、霊力の光が溢れた。

「――え?」

 ベロニカが呆けた声を上げる。

 当然か。この光景は滅多な事では見られない。

「あーあ、解けちゃったか」

 肩を竦めておどけて言ってもベロニカからの反応は、無い。目を見開いて、呆気に取られている。

 彼女の様子に嘆息し、黄金に光り輝く前髪が視界に入り、眉間に皴を寄せる。

 後ろの髪を一房、手指に取って見る。黄金に光り輝き、砂金のような金の粒子を纏っている。

 ――決して、見慣れた黒色ではない。

 手鏡で確認していないが、瞳の色も変わっているだろう。それも、髪と同じ黄金に。

 手指で弄んだ髪を払うと金の粒子が宙を舞った。

「有り得ない」

「何が?」

 漸く再起動を果たしたベロニカの呟きに問い返すも、彼女は一歩後退り頭を振るだけで答えない。

「有り得ない。有り得ないわ、こんな事……」

 信じられない。怖ろしい。恐怖と驚愕が混ざったような表情をしている。

「生まれ付き霊力を持っていたのだとしても、髪と瞳の色が変わる程の霊力量を持つなんて有り得ない」

 独白のような、ベロニカの呟きに『成程』と納得した。

 封印を完全に解いた状態を見た人間ははっきり言って少ない。自分の背後にいる三人ですら初めての目撃なのだ。驚いているのが振り返らなくても気配で判った。勿論、他のパーティーメンバーにも今まで見せた事がない。

 見せた事がない理由は二つ。

 膨大な量の霊力振り撒くと魔族から狙われるので、これを防ぐ為。

 もう一つは、この状態だと魔力制御が難しくなる。威力が想定以上になるので魔力量の調整が難しいのだ。

 再封印して髪色を黒くしようと、自己封印の魔法を起動させている途中、茫洋としたベロニカの言葉が明瞭に響いた。

「貴女は」

「?」

「一体、何を捧げたの?」

 ベロニカの言葉の意味が分からなかった。

 捧げるとは、どう言う事だ?

 自分が怪訝そうな顔をしているのが判ったのか、疑問に答えるようにはっきりと言葉にした。

「生まれ付きの霊力は金の靄状。金の粒子は『何かを捧げた』証」

 ベロニカの続きの言葉で、長年抱えていた疑問の答えが解けた気がする。

「一体、何を捧げれば、それ程までの霊力が得られると言うの……」

 茫然とした、独白めいたベロニカの言葉を纏めるのなら、こうだろうか。

『霊力とは何かを捧げて得るものである』

 この仮説の意味を考え、ずっと抱えていた疑問が解ける。

 ――どうして自分には、家族が『与えられない』のだろうか。

 この答えが見えた気がする。

 与えられない理由は、誰かの手によって『捧げられていた』から。そう考えると、何処の世界に生まれても得られないのは『ある意味当然』と納得出来た。

 前払いで、欲しかった『縁』が奪われていたとは。

 ベロニカと視線が合う。その目に有るのは畏怖。同じ人間とは思えないと言う『恐怖』が顔に張り付いている。

「あたしは……」

 何と言うべきか。言葉に詰まった。

 己の意思で何かを捧げた覚えはない。

 何と返せば良いのかと考える暇はなかった。

 バサリ、と頭上で大きな羽音が響いたからだ。

 頭上を見上げれば、猛禽類の翼を持った男――魔族がいた。視線が合うと、にぃっと、下品な笑みを浮かべる。

「上玉じゃねぇか。ここまで霊力を持った女はそうお目にかかれねぇ」

 全身を舐めるように見られて、背筋に悪寒が走る。同時に顔が引き攣ったのが判った。

「上玉? 何を言っているの?」

 一方、ベロニカは魔族が言っている意味が分からなかったようだ。魔族が出現するようになったのは比較的最近だから、知らなくて当然か。そうなると、アレも知らないのか。

 魔族にとって霊力は、脅威であると同時に己を強化する糧である、と。

 もしそうならば、不味いな。ベロニカも――自分には劣るが――霊力を持っている。ま、狙うとしたら、量が圧倒的に多い自分だろう。

 現に魔族は、ベロニカは眼中にないのか自分に向かって突撃して来た。即座に攻撃魔法を放つ。ベロニカも我に返って攻撃魔法を放つ。小賢しい事に全て避けた。

「炎波!」

 点の攻撃が駄目なら、面の攻撃を放つまで。

 横幅五十メートルにも及ぶ金の粒子交じりの炎の波が一瞬で魔族に押し寄せた。回避する時間はなく、断末魔の悲鳴すらも掻き消して炎は魔族を消滅させた。

 金の粒子が舞い散り、宙に溶けて消える。

 美しいと感じる幻想的な光景だが、真実を知った今、そのように感じる事はない。逆に気持ち悪く感じた。

「っ!?」

 不意に肩を叩かれ、盛大にビクついてしまう。

「あ、ごめん」

 振り返るとロンが、驚かせて済まない、と言った顔をしていた。

「いや、ありがとう」

 髪と瞳を黒に戻しながら、思考に嵌ってしまうのを防いでくれたロンに礼を言い、彼の両脇に二人いない事に気付いた。

「あれ? クラウスとベネディクトは?」

「あそこ。尋問してるんじゃないの?」

「尋問……」

 ロンの口から非常に物騒な単語が飛び出した。慌てて二人を探すと、地面にへたり込んだベロニカの傍にいた。ベロニカから杖を取り上げ肩を掴み、何やら話し込んでいる。

 ベロニカの顔色が悪いと言う訳ではないが、腹黒(且つ女性の扱い(ルビ:誑し込み)が上手い)二人に挟まれては嘘は吐けないだろう。

 ベロニカに洗い浚い情報を吐かせたら、首筋に手刀を叩き込んで気絶させ、適当な木に寄り掛からせる。さり気なく見つかりにくい位置だ。

「う~ん、紳士の所業じゃないね」

「あの女顔と特殊性癖持ちの一体何処が紳士なんだ?」

 シリアスな空気を台無しにするロンの呟きに突っ込みを入れ、首根っこを掴んで引き摺り二人と合流。移動しながらベロニカから手に入れた情報を共有する。

 不干渉を決め込んでいたが、流石にこれ以上の不干渉は貫くと何が起きるか分からない。何より、身の安全確保も難しい。

 癇に障るが、元を叩かねば今一件は終わりを見せないだろうと、男衆と認識が一致した。

 故に、次に向かう場所は自然と決まった。

 目的地は赤灰山。かの山の麓には瘴気の洞穴が存在し、そこから魔族が出現していると言う。

 全てを終わらせて、身の安全を確保する為に、四人で赤灰山に向かった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

やっと書きたかったシーンが投稿出来ました。

短いですが、菊理にとっては長年の疑問の回答が突然開示された大事なシーンです。

別作品『転生したら、異世界召喚被害に遭った』の『愉快な魔王様』のラストにも載っていますが、こちらの作品は過去に当たります。

手掛かりの無い謎解きは本当に面倒だと感じる瞬間でもあり、意外なところで回答を得てしまうからどうすればいいか分からない、と言った感じですね。

あと少しでエンディングに到達するので、次の投稿で完結に持ち込みたいです。

間が空くかもしれませんが、最後までお付き合い頂けると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ