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聖女に認定されてしまったので逃亡します  作者: 天原 重音
襲撃と再会編

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7/18

脱出、ザカライアの終わりと、追いかけて来た過去との再会

投稿まで間が空いてしまいすみません。

終わりまでの構想がほぼ纏まり、一括投稿しようかと思ったのですが、前話に誤字を発見したので変更して投稿を決めました。

※ 誤字修正箇所

正 ・瘴気の洞穴から出現する魔族の対応に追われて

誤 ・瘴気の洞穴から出現する魔物の対応に追われて

 メールを何度も読み返し、やはり重要なのは『瘴気の洞穴の拡大に伴う魔族の出現』と『黄金の聖女を瘴気の洞に投げ込めば洞は閉じる』だろうか。このままだと生贄一直線だし。

 魔族は基本的に物理攻撃が通らない。ベネディクトやクラウスの剣で攻撃可能だったのは神聖魔力を付与していたから。

「あれ?」

 魔族の特徴を思い出していて疑問に思った。

 この世界で初めて遭遇した魔族に魔法が効かなかったな……などと思ったが、あれは耐久の限界を超えていなかったからではないかと推測。だが、無傷だったような気がする。

 魔法による攻撃の効き目がないと言う事は今までなかった。

 どうなっているのか。

 魔族は個体差が激しいから、『物理攻撃が通らない』、『魔法攻撃は耐久の限界を超えれば効果有り』、『霊力を奪うと強化されるが、霊力による攻撃で消滅』、と言った共通点しかない。

 過去に魔族と遭遇した時に得た情報が役に立っている。

 そう思いたが、忘れている『何かが在る』とも思ってしまう。思い出せる範囲で記憶を探っても答えはない。

 正直に言って、魔族との『交戦』は有っても『交流』はない。

 魔族からすれば、霊力を持つ自分は『忌むべき脅威』で在ると同時に――魔族の中でも高位存在と言う但し書きが付くが――『己を強化する糧』でも在る。矛盾している気がしなくもないが、魔族はそう言う存在。

 何もかもが手探りな状態で、判明している情報は少ない。そう言う存在だと受け入れるしかない。これは、霊力にも言える。

 暗中模索と言うべきか、五里霧中と言うべきか、あるいはその両方を混ぜた状態。

 どちらにしろ、謎だらけの状態だ。

 謎解きは得意ではない。少しずつ積み上げる探索と探求ならば出来るかもしれない。

「いや、無理か」

 今の自分は大量の経験を積み上げて出来ている。この経験は数多の失敗の積み上げで、断じて、成功の積み上げではない。

 失敗を積み上げ、失敗しない方法を身に着けた。これが『成功』と認識出来ない当たり、生まれ付いての呪いか。

「……」

 頭を振って別の方向に向かいかけた思考を飛ばす。

 今考えるべきは魔族について。魔族との遭遇経験は男衆三人よりも多い。多いのは当然だ。自分から探し出さずとも、向こうから探しにやって来るのだから。

 初めて魔族に遭遇した時の事を思い返す。

 はっきり言って、良い事はなかった。魔力は封じられるわ、監禁されるわで、他のメンバーがいなかったら、自分は数多のものを失くしていただろう。

 魔族との戦闘で得た情報は、現時点で持っている情報と大差ない。僅かな差も、個体差で片付いてしまう。

 ベッドに寝転び思う。

「結局、その状況にならないと分からないんだよね」

 何一つとして分からない。思考に意味を求めても仕方がない。

 目を閉じて、体力の維持と気力の回復に努めよう。



 運ばれて来た食事を食べ、ベッドの上でゴロゴロとする。やる事がないからね。

 何となく通信機を取り出すと同時に、一通のメールを受信した。

 次は念話でお願いとメールを送った筈なのに、如何したのだろうか。

 通信機を操作してメールを開く。送信者名はベネディクトだ。

『返信不要。幾重にも障壁が張られている為これ以上は近付けない。西の林で待機する』

 短すぎる気もしなくはないが、やる事は分かった。返信不要と文面に在るので返信はしない。

 自力で脱出、西の林に向かい合流。

 やや厳しく感じるが、どうにかしなくては。

 手始めとして室内を隈なく調べて、意外な事実が判明した。

 ここ、本当に押し込めるだけの部屋だったんだな。

 押し込めた人間への対策がザルを通り越して、何もない。せめてドアに魔法が使われた時に警報が鳴るシステム位は付けろよ。けれども、窓から見えた範囲と限られるが、人間の警備要員が沢山いる。ドアの前にはいないけど。

 魔法で姿を消せば簡単に脱獄は可能。

 でも――いざ脱出する時になって、どうしても気になる疑問が湧く。

 それは教皇についてだ。

 目の下に妙な隈が居座っていた。その隈のせいか分からないが、豪華絢爛な衣装が死に装束に見えた。

 今になって気付く。記憶の中の教皇の顔はまるで、死人のような顔をしていた。

 教皇の状態について詳細を入力し、気になるから少し調べると締め括って、メールをベネディクトに送信。

 魔法による移動準備をしていると、メールを受信した。ベネディクトからの返信だ。

 意外な事に、調査に反対されなかった。それどころか『死相っぽいものが出ている教皇が、まだ生きているか確認しろ』とクラウスからの指示が来た。

 メールの文章を読み直し、クラウスの疑念に気付く。

 有りそうで、なさそうな事だが、クラウスは教皇が魔族に操られていないか疑問を持っている。

 確かに教皇が魔族に操られているのなら、『教皇が文献を調べていた最中に見付けたと主張』の部分の辻褄が合う。魔族に言わされた可能性が出て来るからだ。

 ドアを開けて廊下に出る。姿消しの魔法で姿を消し、移動を始めた。



 こそこそと移動する。姿消しの魔法を使っているが、いつバレるか分からない。時に柱や物影に隠れて巡回兵をやり過ごし、教皇を探す。

 最初に向かったのは、教皇と謁見した広間。そこから続く部屋を虱潰しに調べたが見付からなかった。

 次に向かったのは上階。偏見だが、身分の高い奴ほど高い場所に部屋を持ちたがる。階段を上り、上階を調べ――ついに見付けた。

 場所は二階ほど上に位置する、荷物が一切置かれていない、窓一つだけの殺風景な部屋。

 灯りのない部屋の中央で、教皇は独りで佇んでいた。それも、護衛すら従えていない状態で。

 目を凝らして教皇を視る。霊視を発動させなくとも、色濃いのならば『何か』は見える。

「――!?」

 視えたには視えた。顔が強張る。発声は堪えられた。

「ほう。抜け出すとは見事」

 姿は魔法で消している。にも拘らず、振り返った教皇には見えていた。そして、教皇の陰で見えなかったものが、教皇と同じ衣装を纏った白骨死体が見えた。

「しかし、我が入れ替わりを見破るとは、流石は聖女と言ったところか。ここで最も霊力を持ったベロニカですらも騙されたと言うのにな」

 何が愉快なのか。教皇と認識していたものが、喉を鳴らして嗤う。

 振り返った教皇の顔は別のものになっていた。正確には人間の顔両目に当たるところが、昆虫のような複眼になっており、口や鼻と言ったパーツはそのまま。

 気持ち悪く怖気を誘う顔に、一歩後退る。

 間違いない。こいつは魔族だ。だが、どうして魔族がやって来た? 魔族で異世界に渡る方法を持った個体がいるとは聞いた事がないし、遭った事もない。

 魔族の口が三日月のように裂け、体が二倍以上の巨躯に膨れ上がり、法衣がはち切れて床に落ちる。

 一歩踏み出しただけで、ズシン、と震動が響く。

「さて、そちらからやって来たのだ。ここで喰らうか」

 背中から第三第四の腕が生え、握り拳を作る。

 魔法を解除し、少しずつ後ろに下がっていると廊下が騒がしくなった。複数の慌ただしい足音がやって来る。荒々しくドアが開け放たれ、声が響いた。

「何事ですか! 教皇さ、ま? ……っ!?」

 振り返れないので台詞で推測するしかないが、護衛兵が先の振動を聞き付けてやって来た。勇んで部屋に入るも、部屋に押し込まれた人間と明らかに人間じゃないもの、そして白骨体に気付いて絶句している。

 魔族が僅かに腰を落とし、タックルに入る体勢を取った。背後には混乱して動けない兵、前方には攻撃態勢に入った魔族。

「ちぃっ」

 魔族が動いた瞬間に合わせて身体強化魔法を使い、震脚で床を踏み抜き、人一人が通れる程度の大穴を開ける。魔族は穴に落ちるような間抜けではない。普通に飛び越えたが、震脚の振動で、我に返った背後の兵が逃げる。自分は滑り込むように穴に飛び込んでタックルを躱し、落下途中で頭上に障壁を張る。

 数秒遅れて、重い衝撃音が響いた。頭上の確認は行なわずに、下階の部屋から飛び出す。

 運悪く巡回の兵と遭遇したが、先の轟音で混乱していたのか即座に逃げると追って来なかった――いや、混乱の声が断末魔の悲鳴に変わったのでその場で殺されて『追えなかった』が正しいか。

 どちらにしろ、今は逃げて、あの三人と合流しなくては。



兎に角、移動する。足を止めて道を選ぶ時間すら惜しいと感じる。何としても脱出しないと。

 移動途中、枢機卿と思しき格好の男に遭遇したが全員魔族と入れ替わっており、普通に襲い掛かって来た。速攻で逃げたけど。

 ザカライア内部は、教皇の他に、何体もの魔族が枢機卿と入れ替わっていた影響でか、各所で混乱が起きていた。魔族対策指揮系統に至っては、トップが魔族と入れ替わっていた枢機卿だった事も在り、全くと言って良い程に機能していない。兵の数が少ないことも拍車を掛けていた。

 出口が何処か分からず、いっそ窓から出ようかと考え始めた時、『エステル』と、懐かしさを感じる名前を聞いた。

 聞こえて来た方向を見る。

 そこには、見覚えの有る容貌の子供が成長したような姿の青年がいた。再び、誰かの名を口にする。その声音は逃亡者を引き留めるものではなく、何処か呆然としていた。まるで、『会えないと思っていた人物に思いがけず会えた』ような感じだ。

「……エステル」

 だがその名は、遠い昔の自分の名前。今の自分の名前ではない。『その名で呼ばれた事があったなぁ』程度の認識しかない。

「俺は……」

 縋り付くような視線に見覚えがあった。何時ぞやかの夢で見た、二度と会いたくないと、突き放した子供と同じ。

 青年が口を動かし、言葉を紡ぐ。けれど、放たれた言葉は信用出来ない。

 ――謝りたかった。

 今更、そんな事を言われても、もう遅い。この青年と会った頃の自分はもういない。

 自分がこの青年の前世で会った事が有るとしても、感覚のズレが生じている。自分がこの世界で青年に会うまでに数多の世界に転生している。

 仮の話、この青年からして昨日の出来事だとしても、自分からすると何十年も昔の出来事に等しい。それ程までにズレているのだ。

 尤も、この事を説明しても、青年は理解しないだろう。

「輪環の女神からも謝罪の言葉を預かっている」

 続きの言葉を聞き、この青年と何処で会ったのかを思い出した。

 輪環の女神。建国の契約で国家繁栄をを齎す『大地に縁のある女神の生まれ変わり』が産まれて来る世界。女神の生まれ変わりを保護する為に結ばれた王族との婚約。この青年は互いの意思に関係なく結ばされた婚約相手だった。王と王妃に頼んで最短で婚約解消に持ち込んだが。

「輪環の女神は『巻き込んで、ごめんなさい』と言っていた」

「……そう」

 謝るのなら巻き込むなと、声高に言いたい。文句を言う相手がいないので口には出さないが。

 背を向けると、待て、と青年が叫んだ。

「エステル!」

「一つだけ言って置く」

 この青年との縁は最早ない。例え女神の力を用いて再び繋がれても、全力で拒む。

「今のあたしは、もう、エステルじゃない」

「っ」

 背を向けていたが、青年が息を呑んだのが判った。

 そのまま振り返らずに走り去る。遠目に神殿騎士がやって来たからだ。

 この手で断ち切った彼との縁を、再び繋ぐ気はない。繋がれたくもない。

 自分を先に拒んだのは彼。拒まれたから、自分は見放した。

 ただそれだけの、遠い昔に終わった関係だ。

 


ここまでお読み頂きありがとうございます。

終わりが見えて来たと頑張って書いています。

進み具合が悪いと短編ネタを書き溜める癖が付いてしまったので、中途半端に短編候補が溜まりました。書き上がり次第随時投稿すると思います。

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