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聖女に認定されてしまったので逃亡します  作者: 天原 重音
逃亡編

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3/18

今回は男衆と一緒の旅だ

 昨日泊まった宿がある町から、かなり移動した。それはもう、国境を超えるぐらいにね。

 ちなみにだが、密入国はしていない。ちゃんと国境を超える手前で地上に降りて、正規の手続きを行ない歩いて国境を越えた。法は犯していません。念の為。

 そんな訳でやって来たぜ隣国。

 元居た国の王都からも直線距離が最も離れている。ここが最も重要である。

 国境沿いの町を通り抜け、先ほどのバイクを道具入れから取り出して空に舞い上がり、羅針盤で方向をチェック。指針が示す進行方向に向かて再び移動を開始した。



 夕方。

 とある街の宿の食堂で現在夕食を取っている。

「このお酒、スッキリとした苦みが美味しいですね」

「苦みが丁度いい。度数が高くなければもう一杯飲みたいぐらいだ」

「そう? ちょっと苦みが強い気もするけど」

「僕もちょっと駄目かな」

「ははは。つまみと一緒に飲まないからですよ」

「そうそう」

「つまみと一緒って……。肴一口でどんだけ飲んでるのよ。もう六杯目なんだから、追加は止めなさい」

「そうだよ。あとから酔いが回ってくるタイプのお酒だから、飲み過ぎは不味いよ」

「あー、そうだったっけ」

「酒は飲んでも飲まれるなが常識でしょ」

 以上の会話でお気付きだろうか?

 現在、とある三人と一緒に夕食を取っている。

 テーブル一杯に並んだ大量の料理の皿と酒の入った木でジョッキ。

 これらを取り囲んでいるのは、自分と探していた三人。

 金髪と銀髪の青年二人と銀髪の少年――クラウス、ベネディクト、ロンと言う名だ。

 銀髪の少年と青年である、ロンとベネディクトは兄弟ではない。瞳の色は違っており、ロンは青色、ベネディクトは緑色だ。

 だが、揃ってやや中性的な美形なので兄弟に見えるのだ。

 まぁ、瞳の色で言うならベネディクトとクラウスは同じ緑色系だ。だが、微妙に違う。クラウスがエメラルドなら、ベネディクトは翡翠と言ったところか。本当に微妙な違いだけど。

 そんで、高さニ十センチを超える程に大きなジョッキで、高いアルコール度数を誇る、六杯目の酒をぐびぐび飲んでいるのは――丁寧口調のベネディクトである。普通の人なら顔が赤くなりそうな位に飲んでいるが、顔に赤みはない。まだまだ飲めそうだね。

 背の高い銀髪緑眼の美青年で、とある人物に『首から上は美女よね』と言わせる程に中性的な容姿だ。礼儀正しく、丁寧口調で喋り、物腰も柔らかで、どこぞの執事と言っても多分疑われないだろう。口八丁で頭の回転も速く、交渉上手で、滅多な事ではボロは出さない。

 ……これで、出会う切っ掛けとなったゲームの適職(天職か?)が『暗殺者』だから、見た目で人を判断してはならない例だろう。

 ウォッカをボトルで三本も開けても酔わない大酒飲みで、車のハンドルは握らせてはならない欠点は有る。しかし、車の運転技術はカーレーサー並だ。地雷原をマニュアル車で駆け抜けなくてはならないとか、悪路を高速スピードで行かねばならんとか、状況によっては運転を任せる。車内はジェットコースターと化すので、乗り物酔い止めが必須だ。

 ベネディクトの隣で、クラウスが大量の料理を平らげている。夕食開始時、十人前位の料理の皿が並んでいたが、そのほとんどはクラウスの胃袋に消えた。ベネディクトもロンも二人前近い量を食べる方だが、自分も食べる量は多い。

 でも、クラウスだけは異次元だろう。お前はどこの大食い王だと、突っ込みたい。

 気前の良い食べっぷりと輝く笑顔で『美味しかった』と感想を述べるもんだから、食堂のおばちゃんや看板娘からの人気は高い。見た目は筋肉質な美丈夫だから、ベネディクトやロン共々、女性人気は高い。『美醜感覚が逆転している世界』でもない限り、大体モテる。そして、この三人と一緒にいると、自分は必ず嫉妬の視線を浴びる。

 しかし、クラウスには妙な性癖……と言うか拘りが有り、告白して来た大抵の女性は玉砕する。そして、自分は恨まれる。

 恨むなと文句が言いたい。こいつの拘りは『金髪巨乳天然』と恐ろしく限定されているのだ。文句は本人に言え。

 大食漢で奇妙な拘り持ち。何て残念な美形なのか。

 最後の一人である、ロンはこの二人と比べるとマシな方だ。見た目は二人よりも上だけど。

 銀髪青眼の色彩と『性別不明な』容姿。出会った時の歳の差は二倍近くも有り、パーティメンバー最年少だった事から『全員の弟分』扱いだ。本人は大家族の長男で兄姉が欲しかったらしく、扱いに不満を漏らさなかった。

 ただ気になるのは、四人いる女衆の中で、何故か自分に一番懐いている。

『女衆でまともな奴が、一周回ってお前しかいねぇのを本能で感じ取ったからだろうよ』と言われて納得してしまった自分は悪くない。

 ここにいない残りの三人は『うっかり打撃系修道女』と『大食漢で美麗な男装剣士』と『高笑いが似合う剣も槍も使える魔女系』と言った感じか。

 仮に、自分が妹分扱いされてこの三人に懐く……事はないな。

 メンバー内の立ち位置は――転生の旅の合間の再会で、年齢が逆転するようになったが――最初に出会った時の年齢で決まっている。

 女衆最年長でパーティ次年長が自分。ベネディクトは男衆二番目だが、パーティでは三番目。クラウスは男衆三番目だが、パーティでは七番目。ロンは男衆及びパーティ最年少。改めて思い返すとややこしい。

 今回は自分が最年少であるが、出会った時は次年長だった為、妹分扱いはされないだろう。された事もない。

 今後どうするかは泊まる部屋で話し合うのでここでは話さない。

 残りの料理を食べて皿を空にして支払いを済ませ(食事はその都度支払いだった)て宿泊部屋の一つに集まる。

 外に音が漏れないよう防音障壁を張り、情報交換と今後について話し合いを始めた。



 情報交換終了後。

「聖別の儀で聖女に認定されるとか運がないですね」

 他にも色々と言う事が有るだろうに、第一声はこれだった。クラウスとロンも頷いている。

「煩いわ。ま、バカな王子が『聖女を辞めろ』とほざいてくれたから、速攻で逃げ出せたんだけどね」

 ベネディクトの感想に肩を竦める。

 全員で探している『あの男』に関しては『情報は共有。思い出すと苛立つから詮索推測は余りしない』が暗黙の了解となっている。情報が少ないし、確認のしようがないから、こうなっているんだけどね。

 故に、話題はこの世界での事になる。

「王国と捜査網は放置で良い。問題は魔族だろう」

「この世界にもいたんだね」

「いたと言うよりも、最近になって現れるようになったらしい」

 話し合いの最重要課題である『魔族への対応』は、

「我々の目の前に現れたら、確実に仕留めて情報の拡散を防ぐ。これしかないでしょう」

「物騒だけど、その通りだから何とも言えないわね」

 ベネディクトの発言を肯定し、残りの二人も頷いて同意した。

「対策の考えようがないから仕方がないが、出たとこ勝負が少し心配だな」

「装備を強化する事で妥協ですね」

 クラウスの懸念とベネディクトの対応策が現状の最善だろう。

「聖結晶だっけ? 神聖魔法は見た事が有るけど、神聖魔力は初めて聞いたよ」

 装備強化として宝物庫から取り出した半透明の結晶をロンが興味深げに見詰める。説明用に取り出した杖はクラウスの手に有る。

「神聖魔法は光属性の魔法と混同されがちだが完全な別物だ。世界によっては上級魔法扱いだけどね。基本的な事に変わりはないから『上位互換』の認識で良いと思う」

 使用経験が有るのか、神聖魔法についてクラウスが解説する。自分の認識とほぼ変わりないので付け加える補足はない。

「へぇ~」

 光属性の魔法適性のないベネディクトとロンはクラウスの説明に感心しながら頷いた。

「ま、その前提の認識を覆して、直接神聖魔力を使えるようにするのがこの聖結晶なんだよね」

 そう、聖結晶は『魔力を神聖魔力に変換する』性質を持った鉱石なのだ。

「こうも容易く認識を覆されると、世界は無数に存在するって実感する」

「聖結晶が特殊なだけな気もする。でも、魔力は溜め込めないし、神聖魔法が使える訳じゃないから、覆されるってのも微妙な表現なんだよね」

「ん~、適性なしでも装備するだけで使えるようになるから『覆される』で良いだろう。議論しても答えは出ないんだしさ」

「確かに」

 少々ぼやいたが、議論しても意味がないのでここで話は終わった。

 三人が持っている武具に聖結晶を後付けで組み込む。リクエストが幾つか発生したが、作業の進捗に影響が出ない範囲だったので、全て取り入れた。

 作業終了後、三人に確認を取り、問題なしの返答を貰う。

 微調整類は実際に使わないと分からないのでここでは行わない。どこかで魔物に遭遇した時に実際に使って貰うしかない。

 作業と情報交換が全て終わった。防音障壁を解除してから、借りている部屋に向かう。

 いつもの防犯対策をしてからベッドに入ると、眠気がやって来る。

 久しぶりに仲間と再会出来て気が抜けているのか不明だが、直ぐに寝つけるのはありがたい。

 目を閉じると意識が落ちる。

 夢も見ずに眠れた。



 翌朝。宿の一階で朝食を取り、別の町に移動を開始する。

 目的地はない。移動途中に魔物で装備の威力確認をする為、移動は魔力駆動四輪車のジープである。ハンドルを握るのはロンだ。運転下手を直したいらしい。だが、それが建前なのは明白で『ベネディクトが運転する車には乗りたくない』と言うのが本心だろう。

 出発直前、嬉々として運転席に座ろうとした暴走運転狂をクラウスと二人がかりで、運転席から引き剥がす騒動が発生したが、大したイベントではない。たまに起きる事だ。だから誰も気にしない。

 気を取り直してロンが出発させた。運転下手を自称するだけあって、初動がぎこちない。ブレーキを踏んでもいないのに、大きく揺れるのは何故か。結局自分が運転する事になった。

 青い空の下、第二の日々が始まる。

 願わくは平穏な日々を要求する。刺激に満ちた日常なんぞ要らん。



 それからの日々は特筆するような事はなかった。

 魔物を発見しては修練の為に襲撃。

 立ち寄った街で魔物の一部を買取を行っているところに持って行って換金。

 偶に魔物の駆除の依頼を受ける。

 合間に女性から嫉妬に満ちた視線を貰い受けるが、睨まれる以外の害はなかったのでスルー。

 実に平和だった。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

やっと登場パーティメンバーである九人内の三人。

そして一章も短いですがここで終了です。

二章はある程度話数が溜まったら上げます。

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