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聖女に認定されてしまったので逃亡します  作者: 天原 重音
逃亡編

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2/18

楽しくない逃走

 王都で庶民向けの服を何着か購入その場で即着替え、徒歩で王都から出たあと、遠く離れた町に空間転移の魔法で移動した。日が沈む前に町に到着したので、すぐに宿を探し、幸いな事にすぐに見つかった。一階食堂、二階から四階が宿泊所になっている清潔感のある宿だ。料金も素泊まり二千マイカ――日本円で二千円ぐらい――と安かったので即座に一部屋取った。食堂で夕食を取り、直ぐに部屋に戻った。そして眼鏡をはずし、外套のポケットにしまう。髪と瞳が黒に戻る。



 ちなみにマイカとは、この世界の通貨の事である。通貨単位は日本円と同じだ。

 通貨無かった時代、マイカ石と言う叩くと決まった方向に割れる性質を持った鉱石を割り、通貨の代わりに使用していた頃の名残だそうだ。今では、加工時の炎の温度で色が変わるマーブル石という鉱物を利用している。温度で色が変わると聞くと、熔解温度が低いのかと思ってしまうが、実際は中々と解けない鉱物で、魔法を使って加工している。温度変化について厳密に言うと、空気と接触する面を何度も同じ温度で焼き続ける事で色が変わる。この焼く時の温度の違いが色の違いとなる。

 このマーブル石は高温の炎にも耐える為、一時期高級耐火防具の材料として使われていたが、違法の大量採鉱が続き、今から千年ほど前に採鉱量が急激に減った。各国の協議の結果、マーブル石は通貨の材料以外で使用禁止となり、この鉱石を使った高級耐火防具は通貨の材料として全て消えた。今でもたまに見つかるが、その時は国が買い取っている。オークションに出したら即投獄の処罰付きなので、お目にかかる事はまずない。



 閑話休題。

 夕食を取ったのでこのあとは寝るだけ――とはならない。

 荷物をまとめて道具入れに放り込んだので、改めて荷物、と言うよりも道具入れの中身を確認をしなくてはならない。王都にいた時に買うものないかなー、って考えていたが、道具入れの中身の再確認を済ましていなかった為、変装用の服以外に買うものが思い浮かばなかった。

 服自体は何着か持っているが、ワンピースタイプが多く、微妙にサイズが合わない。学院の寮内では制服の着用が義務付けられていたので、休校日であっても寮にいるのであれば制服を着ていなければならなかった。

 その為、約三年ぶりに着る私服は試しに着ると微妙にきつかった。腹とか二の腕周りがきつかったのではない。念の為。

 着れない服は、時間に余裕がある時に自分で仕立て直すか、どこかで売ってしまおう。

 改めて道具入れの中身を確認を始める。

 紙に書き出しながら、荷物の確認をした結果、必要なのは、食料品と治療薬、と言うある意味当然の品だった。

 武器や防具は自前のものが有るうえ、材料が有れば自前で作成できる。修復も自分で可能だ。

 衣服は購入済み。

 食料品は、学院卒業後に家を出る事になっていたので、前もって保存食や調味料をいくつか用意していたが、やっぱり生鮮食材が欲しい。

 治療薬は自力で作成できるが、効果の違いから自分以外に使用はさせられない。突っ込まれると面倒だからだ。念の為に何個か持っていると何かと便利なのは確かだ。

 買うものが決まったので、お金の残高を確認する。ちなみに宿代は前払いだった。食事代はその都度支払いである。

「あー、結構残ってる」

 学院では(事前申請が必要だが)、成績上位者に奨学金と言う名の褒賞金が出る。魔法の実技ではそれなりに成績が良かったので、結構な額を貰っていた。何で奨学金を貰っていたのかと言うと、原因は実家――と言うか両親にある。あの両親は何かと理由をつけて、自分に金を使う事を渋るのだ。兄や妹には湯水のように使っているが、そのせいで借金が増えているらしい。

 そんな理由があって自分の金は自分で稼ぐ癖がついている。

 幸いにも、この世界には魔物の一部――爪、牙、皮、骨、内臓などが武器や薬の素材と認識されており、買取も行われていた。買取時に子供の姿で怪しまれる事もなく、非常に助かった。稀に魔物の体内から魔石が出て来る事もあり、こっちは高値で売れた。学院の制服を着て売買はやっていなかったのでバレてはいないだろう。

 そんな訳でそれなりに稼いでいた。

 この額ならば、しばらくは大丈夫だろう。

「よし。あとは」

 荷物を仕舞い、ドアに鍵をかけて、防犯用簡易結界装置を枕元に置く。

 いつもならば、ここで探索を行う。探すのは、自分と同じ転生の旅を続ける九人の男女だ。

 だが、この九人に関してはすでに探索済みで、三人いる事が判明している。会いに行っていないのは、単に学院に在学中だったからだ。卒業したら家を出る事になっていたので、いきなり姿を消すよりも、卒業すれば怪しまれずに済む。

「あ」

 卒業で思い出した事があった。明日は卒業式。出たかったが、暢気に出席したら、王城に連れていかれる。

 王城に行ったら『聖女になれ』と言われるだろう。あのぽっちゃり王子の発言から察するに、王族との婚約を利用して国に繋ぎ止めようと画策していたに違いない。それを思うと、王子の発言は実に都合がよかった。あのあとどうなったか知らんが。

 戸締り確認後、外套を脱いで道具入れに仕舞い、部屋の明かりを落とし、カーテンを閉め、防犯装置を起動させる。

 ベッドに潜り込んで目を閉じる。

 色々とあって気疲れしていたのか、眠気はすぐにやって来た。

 


 ――夢を見る。

 煌びやかな会場。礼服やドレスを身に纏った老若男女がいる。目の前の金髪の少年も、パーティ用の礼服を着ている。

「貴方のせいで!」

 自分は泣きながら、少年を詰っていた。周囲の人々が茫然としている。

 お前がいるからだと、ずっと詰る。

 意味もなく毎日両親から暴力を振るわれ、妹は泣いて嘘をついて自分を悪者にして、使用人達からは腫物扱いされて、どんなにいい結果を 何をしても認めてもらえない、褒める価値がない、出来て当然、なぜもっと上手に出来ないのだと貶される。

 何もしていないのに、何で悪者にされなければならないの!? そう、叫んだ。

 愕然としている少年もまた、自分を見捨てた一人だ。

 会うと睨む癖に、彼の両親に相談して会いたくないと言って遠ざけると縋り付いてくる、おかしな少年だった。

 家で受けた仕打ちを全て吐き出して、少年を睨む。

 会場は騒然としていた。視界の隅で縮こまっている家族に批難が飛ぶ。その批難は、少年の両親――国王夫妻にも飛び火していた。静まらない。止めようがない。公表されない真実に、皆困惑している。

 この国では建国時の契約で、稀に女神の転生者が生まれる。転生者がいる間は、数多の金や銀に貴重な鉱石が採掘され、豊作が続き、国は豊かになる。国に繁栄をもたらす存在だが、転生者は、多くのものを『与える』存在で、『与えられない』存在だった。

 女神の転生者の寿命は短い。病死の例は一つもない。公表されていないが、例外なく自ら命を絶っている。天寿をまっとうした者もいない。この結果を公表する訳にはいかないのだろう。対策を取らない王家に批判が集まるから。

 そして、自分も同じ末路を辿った。

 なぜこんな結果になるのか。簡単な話だ。気味悪がられ、家族からの虐待の果てに自殺した。

 繁栄をもたらす存在なのに、なぜ国で保護されないのか?

 奇妙な話だが、虐待をしている家族が王に縋り付いて止めるのだ。だが、王に何度虐待を止めろと言われても止めない。

 醜聞を漏らさない為に縋り付くのなら、止めればいいのに止めない。転生者が生まれる家には愚かな人間しかいないのか。

 転生者が生まれた家は例外なく、王の言葉を無視したと、不敬罪で一家丸ごと処刑される。

 国で強制的に保護しないからか、転生者が死んだあとは神に見放されたかの如く、国内が荒れる。

 少年が何かの言葉を発するよりも前に、睨んで止める。

「大っ嫌い。――二度と、その顔を見なくていい所に私は逝く!」

 宣言し、隠し持っていたナイフを自分の喉に突き立て掻き切った。

 事前に、魔法で痛覚を止めていたので痛みはない。代わりに呼吸が出来なくなり、目の前は真っ暗になった。膝を振るえ、立っていられなくなり硬い床の上に倒れ込む。

 あちこちから悲鳴が上がり、誰かが自分の名前を呼ぶ。

 でも、呼びかけに答える気はない。

 視界は暗いままだが、目を閉じる。

 これでいい。苦痛に塗れた日々はもう嫌だ。嫌なのだ。だから、放っておいて欲しい。何度も家出をしたがすぐに連れ戻され、鞭で血が流れるまで打たれた。食事は満足にもらえず、殴られた。全身痣だらけで、一年を通して長袖を着て隠さなくてはならない。痣だらけの体を見て、使用人は気味悪そうな顔でこちらを見る。

 何でこんな世界に転生したのか。母の『産まれてこなければよかったのに』と言う通り、何で産まれて来てしまったのか。

 転生の旅は終わらない。故に、どこかの世界に転生しても、家族に嫌われる日々がやって来るだろう。

 それでも、この世界から去りたかった。

 信用できる人はいない。助けてくれる人もいない。皆、嘘つきの言葉を信じる。

 眠くなって来た。そろそろ、死ぬのだろうか。

 後悔はない。この世界で生きていて良かったと思える事はなかったのだから。

 体の感覚が消える。八年と言う短い人生だったけど、これで終わる。

 ――もう、嫌いな人に会わなくてもいいんだ。



「っ!?」

 はっとして飛び起きた。

 胸が重い。呼吸が乱れている。酷い寝汗を掻いている。呼吸を整えて、改めて部屋を見回す。

 カーテンの隙間から光が差し込んでいるが部屋は薄暗い。だが、夢と違って自分が借りた宿の一室である。

「……夢か」

 ベッドに背中から倒れ込み、しばし天井を眺める。

「はぁ、何で」

 何で、あんな夢を見たのか。

 あの夢は、自分の過去だ。どこかの世界に転生し、八歳の時に自殺した。その時の、自分の最期の一幕だった。

 どこの世界でもそうだが、子供が自殺すると騒動になる。それが、中世のヨーロッパのような貴族社会だと尚更だった。

 本当に自殺なのか、親に殺されたのではないか、誰かが放った暗殺者に殺されたのではないかと、憶測が憶測を呼び、騒動となる。関係のない人間は根も葉もない噂を流し、陰口を叩き、悪質な暇つぶしを行う。行方を眩ませても同様だ。

 思考を中断するように、鳥の鳴き声が外から聞こえて来たので、ベッドから降りて、カーテンを開ける。

 窓から見える空は白んでおり、日が昇り始めている。

 カーテンを半分だけ閉め、寝汗を拭いて、道具入れから出した服と下着に着替える。汗をたっぷりと吸った衣類はどこかで洗おう。でも、洗剤がない。どこかで買おう。今日の買うものリストに衣類用洗剤を加える。

 髪を梳かして首の後ろで纏める。道具入れから外套を取り出し、ポケットから眼鏡を取り出して装着する。髪と瞳の色が変わった事を手鏡で確認後、朝食を取りに食堂に降りた。



 朝食を取り、宿を出る。開いている店を見て回り、食料品や治療薬、洗剤(食器用と衣類用)を購入した。露店で串焼きなどを買い、紙袋ごと道具入れにいれる。

 事前に王都である程度揃えておいて良かった。

 王都から離れているだけあって――いや、王都の品揃えが良すぎるのか――品揃えは微妙だった。小さい町にしては良いのかも知れないが。

 とにかく、必要なものを買ったので町を出る。人目がなくなった所で眼鏡を外し、髪と瞳の色を元に戻す。

 すっかり忘れていたが、捜索隊が出ている可能性が高い。見付かったら王都に逆戻りである。

 何としてでも、今日中に国を出る。



 数時間後。探索用魔法具――羅針盤の指針が指し示す方向へ、空中移動用の飛行魔法具に乗り、向かっていた。

 この飛行用魔法具は数種類有り、状況に応じて使い分けている。断じて、色々と創り過ぎてしまったとかではない。

 現在使用しているのは、バイク型である。大型バイクを細長くしたようなものと言えばいいか? 二メートル半の鉄板にハンドルにサドル、膝をひっかける横棒、これらが付き、高速で飛ぶ時には腹這いの姿勢になる。

 うん。バイクでいいよね。バイクのように乗り回すんだし。

 実は、名称を箒型にしようか迷ったけど『魔女になりたくないです』だの、『箒ぃ? 何でそんな古臭い言い方すんのよ』だの、『箒に乗んのは女のイメージしかねぇから却下だ!』だの、『乗り回すもんなんだからバイクでいいじゃねぇか』だの、『あれ? 僕いつから女の子扱いになったんだろうね?』、『私、一応、男なのですが』と非難囂々であった。解せぬ。特に最後の二人。首から上は美少女(?)と言うか美女(?)で行けるでしょうが。顔面偏差値が自分より上な野郎共。

 話を戻そう。

 バイク型と言っても、空中移動用なのでタイヤとサスペンションはない。

 魔力駆動で燃料タンクやエンジンはないので、飛行中に音を立てない。

 方向転換は体を傾けると出来るので、ハンドルは有っても摑まり棒に近い。両手を放しても、サドルに位置座標固定機能を付けているので、空中縦回転のような上下逆になっても落ちない。

 ブレーキ、ギア、アクセルの類もない。使用する魔力量で速度が変わる。魔力を大量に注ぐ=アクセルとなり、逆に注ぐ魔力量を減らせば、それだけで速度は落ちるのでブレーキとなる。エンジンを積んでいないのでギアは不要だ。

 膝が遊ぶのを防ぐ為の横棒はペダルとも取れるが、用途は他にない。やっぱりバイクか。

 通常速度で時速二百キロ~三百キロで飛ぶ。超高速飛行形態になれば、最高速度は音速に近づく。飛行の仕組みは重力魔法を使用した『任意方向による落下』による疑似飛行である。空気抵抗は障壁を展開する事で対応。なので、急停止が出来るのだ。

 索敵用に、魔力熱源探知機能とかもつけている。新規追加機能は何にするか目下の悩み所であるが、機能を付けすぎるとどれを使うか迷ってしまうので、どうするか悩む。

 だが、飛行用魔法具についてはここまででいいだろう。陸上を走るバイクも別で存在するし。

 移動途中で見つけた泉の畔に降り、昼休憩として昼食用に買った露店の串焼きを食べ、衣類を洗い、魔法で乾かす。衣類が乾いたら、道具入れに仕舞い、今度は地図を取り出し、現在位置と国境までの距離を確認する。今日合流できなくても、国から出てしまいたい。空間転移で移動したいが、魔族がいる。転移先で魔族と遭遇とか嫌である。魔力消費量を考えて転移するなら、遭遇してから使って逃亡した方がいい。

 食休み後、再び空に舞い上がって移動を開始した。

連続で投稿します。

一章分上げる予定です。

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