1-03 久しぶりの再会※
前回までのあらすじ:
アルバートとファムはそれぞれ3人ずつに分かれると、ファム側は敵に見つかってしまい戦闘が始まった。
レオンが自分の箱の銘を古代宝武具の一種『エクスカリバー』であると話すと、敵は高揚しはじめ、戦場が激化するのであった。
同日 レオンが檻を発動した頃
草木が徐々に無くなっていく。馬車2台がギリギリ通れるであろう太さに整地された場所に出る。アルバートらはシュッダリウム砦 東門に到着したのだ。
”前情報”と同じように、見た目が道化師のような男性が一人、門に寄りかかっている。こちらの存在に気づくと、見定めるように全員の姿を見ると微笑んだ。
「おいおい、アルバートかよ。俺にはちょっと荷が重いぜ」
寄りかかっていた門の柱から離れ、道の真ん中に棒立ちになる。まるでおしゃべりをしたいと身体で表現するように。
「ゲルマニウム、久しいですね。まだ貴方がシュッダリウム砦にいるとは思いませんでしたよ」
とアルバートが道化師に向かって返答する。
「いるに決まってんだろ? メルシグドとの戦争だぜ? お前と戦うことが今、一番の楽しみなんだよ。そのためにも、シュッダリウム砦にいればもう一回、アルバートと戦えると思ってな。それにしても、まさか今日の一発目にアルバートと当たるとはね。楽しみがすぐ無くなっちまうことが俺の不幸なのか。はたまた、邪魔者に体力を減らされた状態でアルバートを相手しなくて済むことが幸せなのか。どっちにしろ、シュッダリウム砦にいればお前と戦えると思って待ってたんだぜ? 幸運の女神様も俺を見放してなかったって事だな!そう思うだろ?【剣豪】アルバート」
【剣豪】という言葉にアルバートの左眉がピクリと動く。暖かく陽気な天気であるはずが、少し周囲の空気が冷えた。アレスはそんな気がした。
「ゲルマニウム、貴方の饒舌ぶりに俺は驚きましたよ。そんなに会話が好きだったとは知らなんだ。武器を構えもしないで、余裕が十分ありそうな態度をしてるのに何を仰ってるんですか」
互いに懐かしい話しをするように見えていた。しかしアルバートの顔だけは強ばり始めている。口調も普段の丁寧な口調とは違い、所々荒々しくなる。
「それはお前に言いたいよアルバート。あんた一人だけで俺とやり合うなら、楽しい勝負ができたと思うぜ? それなのになんだその周りのゴミみたいなやつ。良い年齢だからって、お子さんの子守をしながら戦おうなんてこっちも舐められたもんだぜ」
仲間を馬鹿にされたアルバートの周囲の空気が一段と冷えたように覗えた。
「貴方を討伐するために編成された部隊だ。相変わらず相手の力量を測るのが苦手らしいですね。二つ名が廃りますよ? 【偽りの道化師】ゲルマニウム」
アルバートは仲間をバカにされたことに怒りを表しながら話す。久しぶりの再会に少しだけ喜びと期待を抱いていたであったゲルマニウムだった。しかし、アルバートが言い放った言葉を楽しそうに聞いていたゲルマニウム。その顔からは笑みが消え、歪み、睨み、歯軋りを始める。
「俺を殺すための部隊だと? おいおい、ふざけるのも大概にしろよ? アルバート、俺はお前と同じ二つ名持ちだぞ? 石ころ二つ持ってきやがって、その石ころのために自らを庇うような、そんなお前が。俺を目の前にして何を言ってやがる?」
ゲルマニウムは姿勢を変えずに強い殺気を放つ。アレスはその殺気に身震いをした。
先ほどまではアルバートと親しげに話していた口調や雰囲気。そこから想像できないような声質に変化したからでは無い。
はっきりと自分を含んだ三人に向けた殺意を感じ取ったからであった。右足を振るわせながらイライラするゲルマニウムに、アルバートは左足を引く。
そうすると、戦闘態勢になりながら左の腰につけた剣の柄を握る。
ゲルマニウムに警戒をしながら、普段通りの冷静な口調に戻す。
「何回も言いますよ。私たちは、貴方を討伐する部隊です。今回は、いつもと違いましてね、足止め程度ではダメだと言われてしまったんですよ。私たちは貴方の命をもらいに来ました」
恐らく、アルバートは目の前のゲルマニウムに対してのみ殺気を立てた。
それでも後ろにいたアレスはアルバートの殺気に身震いをもう一度する。
(これが【剣豪】のオーラってやつなのか?……いや、ただのゲルマニウムへの殺気だ。ただの殺気をオーラと間違えちまった。アルバートさんはこちらを振向いてもいないのに。やっぱり、アルバートさんは強い!)
アレスはゲルマニウムから放たれた殺気。その殺気がアルバートの殺気で消えていた。
アルバートの強さを自分の肌で再確認する。二人に遅れながら、低い姿勢で左腰に帯刀していた剣の柄を掴み警戒をする。
アレスが立ち直った雰囲気を感じ取ると、アルバートはにこりと笑い剣を鞘から抜き構える。
「直線陣形。予定通りゲルマニウムを仕留めます。作戦はβ」
「「了解!」」
二人はアルバートに返事をすると、ゲルマニウムに対して横一列となった。
それぞれ剣を鞘から抜き、戦闘体勢に入る。アルバートとゲルマニウムは一瞬、別のことに気を取られる。
先ほどより荒い口調でアルバートがゲルマニウムに話す。
「悪いが、貴方に時間をかけられない。直ぐにこの勝負は終わらせる」
ゲルマニウムに対して、斜めに剣身を向けていたアルバート。その剣を一本の線になるようにゲルマニウムに剣を向けると”チリッ”と音がした。
次の瞬間、ゲルマニウムの背中が膨らみ臓器をまき散らしながら爆発をした。
メルシグド史書 “1-03 久しぶりの再会”
を完読していただきありがとうございます。
次回は、“1-04 二つ名の戦い 【剣豪】VS【偽りの道化師】”です!