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メルシグド史書  作者: カツマタキ
第1章 1764年 シュッダリウム砦 奪還作戦
2/5

1-02 予想外の遭遇

前回までのあらすじ:

6人の男グループ、1人が大量の罠を見つける。2人の男、ファムとユークによって、大半の罠を無力化することに成功した。その後、3人ずつに分かれると、”第2任務”を開始するのであった。

 今回の任務はメルシグド国(俺たちの国)イーラス武国(隣国)との国境沿いに存在する

”シュッダリウム砦”の奪還だ。

大型の(メイン)部隊、約150人が砦の死守をする敵部隊約50人。砦の一番大きな南門で正面衝突をしている。俺たちは、大型の(メイン)部隊とは別部隊の5部隊の内の1つ。

偵察・罠の解除および敵の別動隊を足止めすることになった。


 今回の砦を奪還する作戦は今までで最も大規模なものだ。そのため、絶対に成功させなければならないのだ。俺たちは事前の偵察で発見していた強敵 ”ゲルマニウム”の足止めと周囲にちりばめられた罠の解除だ。


 二手に分かれてから、そんなに時間も経たないうちにファムが口を開ける。


「レオン、ユーク、止まれ。誰かいる」


 2人はあり得ない。そんな表情をした。ユークは冷静に


「そいつのランクは?」


 ファムに訪ねると目が泳ぎ、少々驚きを隠せないような表情と声色で


「……ガリュード」


 と2人にギリギリ聞こえるぐらいの声量で答えた。ファムの言葉に、2人は顔を青くし、目が泳ぐ。ファムとユークの全身から汗がどっとにじみ出ており、額から汗を垂らす。


「俺たちが戦っても足止めにもならないだろう。引き返すか」


 と周囲の状況からユークがファムに提案をするが、


「……どうやら罠を解除させるのも”罠”だったらしい。こちらに気づいているな」


 と逃げるのを諦めたように、ため息をするように返答をする。


「……そうか。なら、見通しの悪いこんな場所にいるのは不利になるな」


 現状を的確に判断するようにファムに提案する。見通しの悪い場所で隠れずに、敵が立っている。砦を守るように円状に囲んだ壁周辺の見通しが良い場所に3人は移動し、

3人は目の前の男、1人に警戒を続けた。白いマントを身につけ、身長も170後半といった黒髪の男。

地面に刺した腰ほどまでの長さがある大きな刀に寄りかかりながら、

人差し指で数を数える用に動かしながら3人を見る。


(ひぃ、ふぅ、みぃ……3人。銀髪、茶髪、紫髪か。金髪は……っいない。てことはこの中にアルバートはいないのか)


 ため息をつき少し落胆する。ファムは戦闘態勢に入るため、2人に向かって


基本陣営(トロワリール)を取れ。最優先事項は5班(ガーバル達)の到着まで時間稼ぐこと」


 指示を出す。3人を線で結ぶと地面に三角形を形成するように陣営をとり、後衛の2人はそれぞれ武器を持ち構える。

 

 先頭に立つレオンは、右足を引き、低い体勢になる。地面を蹴ると同時に相手の方向に突進するように直線に突っ込む。ベルトにつないでいた右腰付近に紐でつながれた、手に収まるサイズの箱。箱を掴み、引っ張るとその紐が引きちぎれる。

人差し指、中指、親指で支え、回転させるように空中に投げつける。腹部あたりで停滞するよう空中で3回転した箱が光る。

すると、”刀身が無い”双剣が出現した。双剣を両手で一本ずつ握る。

眉間にしわを入れ、柄を強く握る。それと同時に、黄色い半透明の刀身が鍔から伸びるように出現した。右下と左上から交差した両腕を戻すように斬りかかる。

 しかし、男はほくそ笑みながら大剣と右腕で防いだ。


「いい動きだねー。でもなんで正面からなのかな? 悪くないけど……単調だし、浅すぎるかなー」


 レオンの攻撃を見直したかのように褒める。レオンは片腕を切り落とす勢いであったが、何一つ、傷をつけることは出来なかった。


(右腕が切れていない!?)


 レオンは驚きを隠すことが出来なかった。その瞬間、隙が生まれていた。

 レオンは右足を巻き込まれながら腹部を左足で蹴られる。陣形を取っていた元の位置まで地面に2回ぶつけながら、飛ばされた。

 着地も出来ず、地面に転がったため、柄を強く握ることが出来ていない。そのため、双剣から刀身が消えていた。

 男は再度、大剣を地面に突き刺すと大剣に寄りかかる。レオンによって切られたマントの部分が太陽湖を浴び、右腕が黒光りした。恐らくガントレットで防がれていたのであった。


「3人かー。お前ら(メルシグド)は6人の行動が最小人員だって聞いていたんだけどねー」


 男がしゃべり始めると、ファムが返事をする。


「てことは、あんたは6人を1人で相手にすることを想定していたのか。悪いな半分しかいなくて」


 嫌味ったらしく話し挑発をするも、


「お前らが謝る事じゃなーくねー? 俺的にはー、数が少ない方がさー早く終わらせられるしー。とっとと情報だけもらってさー、この戦いを終わらせるからいいんだけどー」


 気怠そうに事実のみをしゃべるように淡々と話した。

 彼の話し方の癖で適当に話しているように聞こえる。

しかし、本来は事実のみを語るような人物であるのだ。

 ファムがランクを教えてくれたから3人は分かっていた。


「『早く終わらせられる』か。言ってくれるね。でもあんたも知ってんだろ。俺たち(メルシグド)は6人が基本なんだ。それでも、俺らが3人で動いているってこと。分かるだろ?」


 再び煽るようにファムは話す。


「...なるほどねー。さっきの突進で何となーく分かってたつもりだったけど、あんたらがメルシグド(そっち)の上位ランクなんだー」


 ファムの言葉に敵は全く動じない。


「そうなんすよ。悪いね。早く終わってあげれないんで」


 挑発に乗ってくれない相手に対してファムは苦い顔をする。


(それにしてもさー、やつはいつまで寝っ転がっているんだー?そんなに打たれ弱いやつなのかー?)


 レオンのことを見下していると、何かをしていることが分かった。


「気づくの遅ーよ」


 はっとした瞬間、自身を中心に半径1mほどの円を作るように地面が光る。

黄色く半透明のパイプ状が等間隔で100本ほど地面から生えると、高さが2m近くまで伸びた。


「『鳥籠(ゲール)』」


 レオンが右手を握りながら唱える。一番上の頂点部分が曲がりながら中央に集まるようにつながることで、鳥籠のような檻が完成された。


「……んーん。なかなかやるねー。俺じゃなかったら、これだけで十分時間を稼げただろうねー」


 檻が完成しても全く動じずに魔法の完成度合いを確認するように檻を見つめる。

剣に寄りかかっていた体勢を少し正すと、右手を腰に当て左手をまっすぐ伸ばす。


「『解錠(アンロック)』」


 左手の前に紫色の円形魔法陣が浮かび上がる。魔法陣が消えると同時に檻が強く光り始めると、一瞬にして粉々に砕け散る。レオンの魔法は一瞬に解かれ、砕けた破片が空中に散乱した。


「それが奇襲のつもりかー? まだまだ下手くそだぜー。特に”格上”と戦うときにはもうちょっと頭を使いなーね」


 粉々に砕け散った檻の欠片に隠れ、レオンは接近していた。

再びレオンは双剣で左右から斬りつけ、仕留めるはずだった。敵は突き刺していた大剣の柄頭を左手で掴み、逆立った状態で全身を支えていた。斬りつけた双剣を大剣で受け止められていた。

 レオンが見上げた瞬間、振り子のように身体を曲げながら降下する。降下したまま、レオンの頭に右足で蹴りを入れる。

 レオンは壁の方向に蹴り飛ばされると、空中で体勢を整えようとする。しかし、レオンは間に合わず上体を壁に強く打ち付けた。その距離5mほど飛ばされたのであった。壁に寄りかかるようにな体制になる。重力による自由落下で足を伸ばしたように座った状態となった。

また、刀身が消え双剣の柄が転がり、座るのと同時にやつは両足を着地する。


「レオン!」


 ファムが叫ぶがレオンに声が届いている雰囲気はなかった。


「やーっと、1人目っとさー。次はさーどっちが相手になってくれるのー?」


 剣を地面から抜くと、右手に持ち、気怠そうに刀身を2人に向ける。


「……流石、”ガリュード”。レオン相手に剣も使わないとは」


 ユークが悔しそうな顔でボソッとつぶやく。


「何が言ったー? レオン(この子)はさー、3人(この)中で一番弱いでしょ? それなのにさー、先鋒を任される陣営を組んだのか組まされたのか、多少の慈悲を与えてやらないとねー。でも、あんたらは剣を抜かないと時間かかりそうだしー、あの子が報われないよねー」


 規格外の発言に2人の足が後ずさる。


「あんたらさー、何もしないし、ほんと最低だよねー。”自分たちから茂みから出てきて”、さっきも俺の強さ(ガリュードランク)を分かってんならさー、探知スキルかその装備品で俺のこと分かってんでしょー? 本当、転がってる子、かわいそうだよねー」


 レオンを倒し余裕ができたのか、警戒が緩んでいると


「隙見せすぎ」


 レオンが小声で言い放つと、ハッとする。”消えていた刀身”が()()()()()()()、倒したと油断をしていた。

そのため、振向いた瞬間はすでにレオンの間合いに入っていた。


「いぃ!」


 言葉にならない声が出ながら、剣を両手で振るう。

 ギリギリのタイミングで双剣を大剣で受けとめる。受け止められたはずが、レオンは腕を振り切っている。持っていた半透明の黄色い刀身が2本とも砕け散っていた。

 またも左足で顔に蹴りを入れようとするも、レオンは右腕で受け止めようとする。しかし、右腕と顔で受けるような形になったのだ。それでも蹴りの威力は先ほどよりも強くなっていた。

 そのため、またも吹き飛ばされると両手の手のひらを地面につけ受け身をとる。上に跳ねるように跳ぶと、両足で地面に着地をする。しかし、3mほど擦り続けながら飛ばされた場所でようやく止まる。


「ようやく剣を振ったな」


 にやりとレオンは言うが、あまりの蹴りの強さに、口を切っていた。そのため、血溜りを口からペッとなれたように吹き出し、左手で口元をぬぐう。


「さすがにもう倒れないよねー。全く、このやろう……。俺に剣を振らせやがって。お前と俺の差はじゅーぶん分かっただろー? 刀身も()()()()()()しさー、見たところお前は箱があと2つ。お前は大人しくさー、仲間が負けるところをゆーっくり見てなっ」


 レオンは苦虫を潰したような顔をする。確かに、レオンの双剣は二本とも刀身を()()()()()()()()のだ。


「黙って見てるなんて俺の性に合わないんでね」


 まるで犬の遠吠えのように吠える。その光景を見ると呆れたように返事をする。


「あんたの仲間、お前のサポートも何もしてくれてないぜー? 俺との力の差にただただ怯えてるんだろーよー。だからさーそんな頑張るのやめなよ。お荷物さーんのために死ぬこと無いぜ?」


 レオンの仲間を馬鹿にするように話し、まるでレオンを逃がすような口調で話す。


「……お前は確かに強いよ。3人(俺たち)が全員で戦っても、それでもあんたのほうが遙かに強いよ。それでも俺は死ぬまであきらめないぜ」


 先陣をきったレオンは、相手の強さを掴み始めていた。

それでも任務を遂行するためにもそう虚勢を言い張るしか無かった。


「”格上”の俺から言わせると、命を大切にするために諦めも時には肝心だぜー?」


 と少し残念そうに話す。


「……命を大切にっか。悪いが、俺が守らなきゃいけない物は”命”より”俺の意思”なんでな」


 レオンが()()()()()()()()()()話す。


「”命”より”誇り”を取るのかー。なら仕方ないねー」


 オーラを放つと、少し気怠げだった雰囲気をピリつかせ微笑みながら、


「お前から立ち上がれないよーに潰してあげる♪」


 レオンは再び右足を引き、直進に突っ込む。2つの腰につけた箱を使って攻撃を仕掛けてくると構える。


(いつ腰の箱を開ける? どんな箱だ?)


 様々な思考を続けるが、レオンは一切その箱たちを開ける素振りを出さない。


(なぜ箱を使わない? やつの刀身は折ったぞ!? それなのになぜ武器も変えずに俺に突進できる?)


 予想外の行動に思わず行動が遅れる。もちろん最初の一撃で見た動きから警戒はしていた。していたのだが、攻撃方法の予測があまりにも出来なかったため、大剣を大きく振りレオンの突進攻撃を防ぐ。

 ()()()()双剣に再び刀身が綺麗に現れており、刀身がぶつかる。

先ほどよりも強い衝撃が加わったはずが、レオンの刀身は2本とも()()()()()()

鍔迫り合いになったが、敵はレオンの双剣。

”折れたはずの刀身が再び出現している”のと、レオンは蹴りを警戒したため、双方とも相手から離れる。


「なぜ、お前の刀に刀身が()()!? さっき折れたはずだろ!?」


 さっきまで言葉をゆったりと話すような口調だったがはっきりと聞き取りやすいように問う。


「エクスカリバー」


 答えずらそうにレオンが答える。


「!?」


 聞こえてきた言葉が信じられない。


 そんな気持ちを隠しきれないように表情に現れた。レオンが無防備に棒立ちのように立つち、右手に持った双剣を見つめる。少し哀愁を漂わせると、握りナオしている間は刀身が消える。

 再び強く握り直すと刀身が先ほどよりも色が濃くなって現れ構え直す。構えた状態から、右手の双剣を見せつけるように持つ。そして、はっきりと聞こえるように話す。


「他国のあんたでも聞いたことぐらいさすがにあるよな。俺の専用箱(ユニークボックス)()は『エクスカリバー』。古代宝武具の一種と同じ()を持つ専用箱(ユニークボックス)だ」


 レオンが()を言い放つと、丸くなっていた目が泳ぐ。気怠そうな体勢を綺麗な直立した姿勢に正し始めると目が据わり、やつの目が細くなり、口角が上がり始め、歯が見えるほどの満面の笑みになった。

 剣先をレオンに向け直立し、左半身を後ろにした独特の構えを見せる。今までの気怠そうな声とは異なり、大声で


「そうかそうか、面白い! あの『エクスカリバー』が専用箱(ユニークボックス)()()()とはな! レオンといっていたか? 俺はお前のことを甘く見過ぎていたらしい! しかし、今の()を聞いて俺はお前を、お前を、必ずお前だけは! 生かすことは出来なくなった! 今から半刻以内にお前らを仕留める! お前を必ず! 絶対に! 息の根を止める!!!」


 先ほどまでの気怠げな雰囲気はすでに無くなっていた。強すぎる力が紫色のオーラとして身体中を身にまとう。まがまがしく、羽織っていたマントも根元から燃え消失した。

 彼を中心に風が生じ、その風はレオンたちの身体中を刺すように全身に与えた。オーラだけで死人が出てもおかしくは無いと感じるほどの強すぎるオーラ。

それを感じると、固唾を飲み込む。

圧倒的すぎる強者の雰囲気が、この戦いの場を埋め尽くし異質な戦いの場へと変えたのであった。

メルシグド史書 “1-02 予想外の遭遇”

を完読していただきありがとうございます!


次回タイトルは、“1-03 久しぶりの再会”です!


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