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第三話 尻尾はモフってみよミミもモフってみよ 1

 司は自宅のリビングで正座をしていた。

 目の前のソファーにはひなたが足を組んで座って司を見下ろしている。氷のような冷たい視線が痛くて、何も言えず正座も崩せない。

 美也孤は今は別室で着替えている。キチンと体を拭きなおして、ドライヤーで髪を乾かしてとしているので、そこそこ時間がかかっているようだ。

 その間、ひなたは一言もしゃべらなかった。妙な緊張感で司も何もしゃべれない。

 そこへコーヒーを入れた司の姉、(うしお)がキッチンからやってきた。


「おまたせー。はい、ひなたちゃん」 

「ありがとうございます」


汐はあの事件の後すぐに帰ってきた。幸い、美也孤が着替えに別室に行った後だったのであの光景は見られてはいないが、ことの顛末はひなたが簡単に話していた。かなり誤解があったが、ひなたに睨まれた司は何も言えず、ただただ正座をしておくしかなかった。

 ソファーの前のローテーブルにマグカップが三つ置かれる。

 目の前の二人はマグカップを手に取り、淹れたてのコーヒーを味わう。ふんわりと良いにおいが漂ってくる。

 司も自身の頭を落ちつけようとマグカップに手を伸ばす。


「まて」

「はい?」

「それは美也孤ちゃんのです。司の分はありません」

「ひでぇ⁉」


 汐がコーヒーカップを取り上げた。顔は笑っているが、目は笑っていない表情に司は引き下がるしかない。仕方なく正座を続けるが、一向に落ち着かない。

 おそらく汐は誤解をしているだろう。司としてはひなたと汐の誤解を解きたいが、二人の雰囲気から察するに発言すら許されていない。

 そろそろ司の精神が耐えられなくなったころ、リビングにおずおずと美也孤が入ってきた。


「あの……お待たせしました。着替え終わりました」

「あら制服? 似合っているじゃない」


 汐に褒められて恥ずかしそうに笑う美也孤はセーラー服を着ていた。司も通う流谷学園高校の制服だ。赤を基調としたセーラー服に赤いリボン。美也孤がつけている髪飾りと相まって非常に似合っていた。


「ふふん。どうですか司さん?」

「え? すごく似合っていると思います」

「えへへー。そうでしょう!」


 くるりと一回転。ふわりとスカートが舞って、もふもふな尻尾がぱたぱた揺れている。

 司としては見慣れた制服だが、彼女が着るとかなり新鮮に見えた。イメージに合っているとでもいうのか、思わず息をのむ。


「ていうかなんでうちの制服着てるんだ? 姉さんが貸した?」

「私の私物です! 来年から同じ高校に通うので、その証拠です!」

「証拠……?」


 えっへんと胸をはる美也孤の言葉が引っかかったが、すぐに思い出す。昨日の昼に確かに言っていた。その後のやり取りですっかり忘れていたが、司は責められないだろう。


「制服が証拠になるのか?」

「四月から入学するから制服があるんです。さすがに信じましたか?」

「いや、制服だけなら注文すれば買えるし」

「まだ言いますか⁉」


 美也孤は耳を立てて怒るが、司としては正直それどころではない。目の前に座ってコーヒーを楽しむ二人こそが問題なのだ。

 「まぁまぁ」と汐が美也子にソファーに座るように促す。


「美也孤ちゃんはミルクとお砂糖はどうする?」

「ありがとうございます。どちらもお願いします」

「はい……どうぞ」

「あ、わぁ。あったかい」


 ミルクと砂糖たっぷりにコーヒーに美也孤はご満悦。ぴこぴこと揺れる耳がかわいらしい。しかし、司としてはなぜ汐が美也孤のケモミミにも尻尾にも反応しないのかが謎だった。あれほど自己主張しているのだから真っ先に目線を奪われそうにも思えるが、汐は一瞥にもくれない。


「さて、じゃあ司。自分の行いを反省しますか?」

「姉さん、さっきから言ってるけど反省も何も」

「先輩が女性を家に連れ込んで押し倒すようなケダモノだとは思いませんでした。失望です」

「だから誤解だって!」

「あ、あの! 司さんは悪くないんです! 私が助けてもらって、それで――」


 汐とひなたの冷たい視線が痛い。が、誤解を誤解のまま放置しておけない。

 必死の弁解と被害者本人の助けもあり、なんとか先ほどのことは「事故」と理解してもらえた。

 だが、話終わるころには司の足は立ち上がれないほどにしびれてしまった。


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