第81話 咆哮砲
杖ネズミのヘドロは巨人と八本腕にもヒットした。うん、当たっちゃった。あれだけ凄まじい魔法が自分達に迫っているというのに、二体は足元のドワーフ殺しを如何に回避するかに夢中だったようで、全く魔法の存在に気付かなかったのだ。強くなっても頭が足りないのは、そんなに変わっていなかったという事か。何とも悲しい結末である。
「「「ウッ…… ウウッ……」」」
「グゥゥ……」
あ、それでもまだ倒れていない。直撃を喰らって生き残るとは、肉体面の強度は流石と言うべきだろうか。じゃあ杖ネズミは格納に引っ込めて、巨人の方を操作してお互いに戦わせておこうかな。これで一先ずは融合体に対する処置も完了っと。
「むっ」
そして気が付けばハゼちゃんの咆哮、大群の襲来も止まっている事に気付く。なるほど、黒霊を集結させる力が止まったのか。肉スライムも電波塔を作るの止めてるし。このエリアで大群が攻め入って来た周期から考えるに、恐らくあの能力は連続で使用できるものではない。再使用には少なくとも、何十分かの時間が必要な筈だ。つまり、この戦いの最中にはもう使う事ができないだろう。巨人と八本腕もさっき相討ちになっていたし、今や障害らしき障害はないと言って良い。
「ハゼちゃんズ、ホワイトと交代する形で咆哮を開始。奴を壁に磔にしたまま離すな」
「「「ウヴォ!」」」
如何にホワイトと言えども、いつまでも咆哮をし続けられる訳ではない。交代できる時はしっかり交代してやらないとな。ハゼちゃんが三体集まれば、大よそホワイトと同じくらいの威力になるし、これでも肉スライムを壁に釘付けにする事はできる。
「ハゼちゃんズ、辛くなったら合図してくれ。その時はまたホワイトと交代するから。んで、俺はまた盾を投げる!」
「……気のせいかもしれんがこの戦いでワシ、全然活躍しておらん気がするの」
そう言うな、ダリウス。肉スライム相手に接近戦仕掛けて耐久値削るのは、流石に自殺行為なんだから。バトルジャンキーなら兎も角、ビビりな俺にそんな事を求めないで頂きたい。まあ、こんな日があっても良いじゃないか。敵は大黒霊、止めはダリウスで刺さなくちゃいけないんだし、その時まで我慢してくれ。
だけど、まさかここまで上手く事が回るとはな。ホワイトの存在がでかかったし、何よりも俺と敵との相性が良過ぎた。感染状態にない敵を引き連れていたら、また違った結果になったんだろうが…… こればっかりは巡り合わせだ。どうかそのまま磔の状態で、ジリ貧になってほしい。じゃ、もう十分くらいは盾を投擲し続けようか。
『え、そんなにやるのか? ワシの出番って大分先?』
そんなにやるの、大分先なの。針一本でも刺されたら、もう絶対に倒せる! ってくらい、俺が確信できるまでやらせてもらう。そうしなければ、俺の安全は担保されないからな。
『うーむ、この心配性め』
フッ、馬鹿め。それは俺にとっては誉め言葉だ。さあ、投げて投げて投げまくるぞ!
◇ ◇ ◇
「うおおおぉぉぉーーー!」
ダリウスが待ちに待った止めの一撃。全力疾走するホワイトに騎乗した俺は、ダリウスの剣先を奴に向け、壁ごと串刺しにするつもりで前へと突き出した。ハゼちゃんズの咆哮に後押しされる形で、ホワイトのスピードは更に加速。俺達はその勢いのまま、肉スライムへと突貫する。あ、ちなみにこの叫び声は、ダリウスのものだから勘違いしないように。
「これで、終わりじゃ!」
ここぞとばかりに決め台詞を吐くのも、もちろんダリウスである。ここまでマジで活躍の場面がなかったから、最後の最後だけ盛大に目立つ気満々だよ。だがまあ、これで漸く俺も気を緩められるかな。
―――ピシッ、ピシピシピシッ……! ガシャーン!
大黒霊の巣を囲っていた見えない壁に亀裂が走り、次の瞬間にその全てが粉砕された。そう、俺達は第二の大黒霊である肉スライムを打倒し、オルカと同じダブルの探索者となったのだ。
「ワシの、ワシらの――― 勝利である! ……ほれ、相棒ってばもっと掲げて! ワシを掲げて!」
「へいへい」
ダリウスからの注文が多い。一応は掲げてやるが、どうもモデルが俺だと格好がつかないと言いますか…… 端的に言って、こういう決めポーズはちょっと恥ずかしい。
「ベクト!」
勝利のポーズを決めていると、不意にオルカの声が聞こえて来た。巣が破壊されたのを確認して降りて来たんだろう。俺は即座に決めポーズを止める。
「ちょ!? お、おい、まだワシの余韻タイムは終わっとらんぞ!」
うるせぇ、サービスタイムは終わったんだい! 流石にオルカの目の前でやり続けるのは恥ずかしいわ!
「ベクト、勝ったな! 私の支援が一切必要ないほどの大勝だったじゃないか! おめでとう!」
「ああ、どうにかこうにかな。想定していた様子見と全然違う結果になっちゃって悪いな。あんだけ時間かけるとか言ってたのに」
「いや、それは構わないのだが、あー…… 全身ベトベトだな」
「あー、うん……」
オルカが言う通り、俺とホワイトは全身がベトベト、それはもうベットベトであった。
「肉スライムに止めを刺しに行く時、赤スライムをコートみたいに羽織っていたからなぁ」
「う、うむ、ベクトが突然配下のスライムを纏い始めた時は驚いたよ。やはり、アレは酸への対策だったのか?」
「そういう事。赤スライムなら酸が効かないし、肉スライムが消えて俺達が壁に激突した時のクッション代わりにもなってくれるからな。唯一融合させられるのだけが怖かったけど、俺やホワイトに触れられなければ大丈夫だと思ってたからさ。結果、まあ何とかなったよ」
ベトベトの原因である赤スライムを体から剥がし、格納内へと帰還させる。赤スライムも『強酸』や『吸収』を持つから、体に被せるのには、なかなか勇気を要した。ま、そこは自分の能力への信頼でカバー。躊躇する時間を最短にする事ができたのである。
「ベクト、お前って奴は…… いや、私が先輩面できるのはここまでだったな。これからは対等な力を持つ探索者として、お前に期待しているぞ、ベクト!」
「だ、だから急に対等になれたとは思ってないって。経験が圧倒的に足りてないし、上位の敵を倒すには能力も全然だ。もっと精進しなくちゃだよ」
「フッ、二体目の大黒霊をほぼ無傷で倒しておいて、よく言うものだ。だが、その決して驕らない姿勢、神妙な立ち振る舞いこそがベクトの良きところだと思う。やはり私が思っていた通りの男だよ、君は」
納得したように何度も頷くオルカ。
「まーた勝手に納得してるし……」
「それよりも相棒、ワシってば早く新しい姿になりたいのじゃが。我らのマイホームへ帰ろうぜ!」
「テンションおかしいせいで、口調もおかしくなってるぞ、ダリウス……」
まあ、大黒霊討伐という大仕事を終えた訳だし、確かに今回の探索はここまでか。正直なところ、俺も早くリザルトを知りたいし。
「……ベクト、一つ良いか?」
「ん? 改まってどうした、オルカ? 一つを言わず、幾らでも何度でも聞くぞ?」
「すまない。ええと、だな…… 共に探索したい場所があるんだ。次の探索先は私が決めても良いか?」
「……? ああ、全然構わないぞ? 少しでもオルカに恩返ししなくちゃだしな! まあ、やばい場所だと思ったら逃げるけど!」
俺がそう言うと、オルカはおかしそうに笑顔を返してくれた。ただこの時、彼女の雰囲気が少しいつもと違うように感じられたのは、気のせいだろうか?




