第80話 融合機
間違いない。あの特徴的なフォルム、電波塔だ。
『相棒、電波塔とは何ぞ?』
え? ええと、何と説明すれば良いんだろ。目には見えない魔法で、空中を伝って情報の送受信をする塔っていうのかな。遠くの人と連絡をしたりする事ができるんだ。
『う、ううむ……?』
この反応は分かっていないっぽいな。うーん、改めて説明するとなると、なかなか難しい。そもそも、ダリウスの時代に電波なんて概念なかっただろうし。いや、それなら何でこの肉スライム、そんな文明的なものを扱ってるって話だよな。頭が切れる研究員と融合して、自分も頭が良くなったとか? それはそれで怖い進化をしていなさる。
『それで、そのデンパトウ? とやらを頭に乗せて、奴は何をしようとしておるのじゃ?』
本当に電波塔なら、そりゃあ情報を発信しているんだろ。どこの誰に向かってやっているのかは知らないが、まあこの周辺には黒霊しか居ないかな。
『……相棒、ワシってば嫌な予感がするんじゃけど』
奇遇だな、俺もだ。
―――ズズ、ズズズズゥン……!
この監獄で何度も何度も聞かされた地鳴りが耳に入り、同時に地面が軽く揺れ始める。研究員の記録、肉スライムの電波塔、突然の揺れ――― もう考えつく先は決まっていた。
「ベクト、全ての通路から夥しい数の足音が聞こえて来てる! 黒霊の大群が来るぞ!」
「だよね!?」
研究員の記録にあった魔物を操作し、指定した場所に集結させる力。それは正しくこの肉スライムが有する能力の一つであり、このエリアに来てから度々苦労させられた大群の襲来も、こいつが巣の中から行っていた事だったんだ。 ……お前、巣の外にまで関与してくんなよ。もっと大黒霊らしく振る舞えよ。
「「「アアウアァッ!」」」
そうこうしているうちにも、真上から黒霊達の声が聞こえて来た。確か通路口は全部で四ヵ所、オルカが陣取っている高所と、大体同じくらいの高さの所にあった筈だ。あの大群が真上から降って来る、そんな地獄は想像したくないものだ。とはいえ、この事態はぶっちゃけ予想していた。なので、既に対策も出来上がっている。
「ハゼちゃんズ、出番だぞ!」
「「「ウヴォ!」」」
格納から三体のハゼちゃんを取り出し、後方へと配置。如何に頑強なハゼちゃんでも、肉スライムの強酸攻撃は受けさせたくないからな。できるだけ肉スライムとの距離は離しておく。そして念には念を入れて、ドワーフ殺しをその周辺に散布! こうして床や壁の亀裂に沁み込ませておく事で、肉スライムの触手を遮断する結界を構築するのだ! またしても活躍してしまったな、ドワーフ殺し。これからも頼むぞ、ドワーフ殺し。
「おっし、ぶっ放せ!」
「「「ウヴォオオオウゥ!」」」
そして解き放つは、ハゼちゃんズによるトリプル咆哮。上空から敵降って来るとはこれつまり、地面に着地するまで黒霊達は無防備であるという事! 咆哮砲に当たった敵は次々とぶっ飛ばされ、そのまま壁に激突してしまうという寸法だ。数が多いとは言え、三体のハゼちゃん達が力を合わせれば、まあ大体の範囲はカバーが可能。数体取り逃したとしても、そいつらは俺の統率能力で有効活用してやれば良い。
ちなみに俺達自身がドワーフ殺しを丸々被って、一種の無敵状態のまま戦う案も考えはしたんだが、黒霊であるホワイトに何らかの悪影響がありそうだったので不採用となった。悪影響以前にホワイトが凄い嫌がっていたしな。
で、肉スライムの方も電波塔出してるところ悪いんだけどさ、触手攻撃がなおざりになって来てない? ホワイトが若干手持ち無沙汰になってるから、邪魔しちゃうぞ?
「ほっ!」
「ヴォン!」
盾の投擲プラス、ホワイト渾身の咆哮。肉スライムを根っ子ごと浮かばせ、その一瞬で地面に這ったその根っ子をフリスビー攻撃で両断する。おっ、これはぶっつけ本番だったけど、上手く狙ったところに飛んでくれた。
「ヴォーーーン」
ホワイトの更なる追撃咆哮。根っ子による安定性を失った肉スライムも、こうなってしまっては他の黒霊達と同様に、勢いよく吹き飛ばされて壁に衝突するしかない。打撃に耐性があるかもだから、その間に俺は再び盾を投擲、投擲、投擲――― 壁に磔になっている奴を、兎に角切り刻みまくる! ついでに血塗れ聖ゾンも一体出して、強化炎弾で支援してもらう!
『む? もしやこの調子で攻撃していけば、いずれ勝てるんじゃね? 撤退する必要なくね?』
そりゃあ、このまま奴が新たな手を使って来なければ、押し切れるとは俺も思うさ。けど、俺は学んだんだ。黒ネズミの時もそうだったが、大黒霊は倒したと見せかけてからが本番! 気を緩めて良いのは、無事にマイホームに帰ってからだ。
「報告! 巣の中に入った何体かが、落ちる最中に触手に触れて合体した! 咆哮で飛ばされる様子もない! 頭上に気を付けろ!」
「ッ!? ここで来たか、融合……!」
おのれ、上の壁にも触手を隠していやがったか。オルカの警告が耳に届いた直後、ズンズンと大きな着地音が複数鳴り響く。
「「「ウウゥゥゥ……!」」」
「アァ……」
「ヂュウ」
落下して来た黒霊は全部で三体。赤ゾンビの頭が複数首の辺りに埋まっている筋肉質な巨人、剣を握った八本の腕を持ち、千手観音の如くそれらを広げる兵士のゾンビ、杖を口に銜えたゾンビネズミ――― なるほどなるほど、正に融合してこうなりましたっていう、そんな面子である。ハゼちゃんズの咆哮を越えてここまでやって来たあたり、同等に強いとみえる。
「けど、そいつは逆にありがたい!」
目の前に現れた黒霊は、いずれもゾンビに属する者達だ。ならば、ホワイトをも従える俺の『統率・屍』に抗える筈がない。弱いけど無数に居るゾンビより、強いけど数体しかいないゾンビの方が、俺は圧倒的に戦いやすいんだ。まあ、今の俺じゃ一斉には五体までしか操作できず、ホワイトとハゼちゃんズの枠で残りは一体分しかないんだけどね。
って事で、魔法を使いきった血聖ゾンを処分し、まずは魔法が使えそうな杖ネズミから操作! 使える分の攻撃魔法を、全部肉スライムに叩き込んでもらう! その間、残りの二体はドワーフ殺しを振り撒いて動揺させる作戦で!
「「「ウウッ……!?」」」
「イアアァ……!?」
思った通り、巨人と八本腕はドワーフ殺しを放った途端に動揺してくれた。 ……今更だけどこのアルハラ攻撃、未だに第一線で通用しているんだよな。うーん、末恐ろしい。
「ヂュヂュウ!」
その隙に杖ネズミが詠唱して作り出したのは、何やら毒々しい色をしたヘドロの弾だった。うっ……! と、ドワーフ殺しで鼻が麻痺している筈なのに、無意識のうちに鼻をつまんでしまうほどの悪臭を放ったそれは、曲線を描きながら、炎弾よりも随分とゆっくりとした速度で肉スライムへと迫って行き、そして―――
―――ボォン!
肉スライムに接触したヘドロ玉は、奴の巨体を覆い尽くすほどの爆発を起こした。ヘドロ色の粉塵が肉スライムの周辺に巻き上がり、何だかとても気の毒な惨状となっている。しかもこの魔法、暫く着弾場所に残り続ける代物らしく、毒々しい煙が一向に消えない。肉スライム、お前ってば何て黒霊を作り出しちゃったんだよ。
「うわぁ……」
「ヘドロなのに爆発って…… 強力な炎弾に、猛毒が付加された感じ……?」
「ヂュッ!」
軽く引いている俺とダリウスを気にも留めず、杖ネズミはヘドロ爆弾を次々と発射していく。
『相棒、あの魔法、敵として使われなくて良かったのう……』
うん、本当に良かった…… あ、ネズミさん。残弾がまだあったら、あそこでドワーフ殺しに苦戦してるお仲間にも、一発プレゼントしてくれます?




