86【鶴城神域】神様の在り方
【つかう】
→ エクス工一テル
MPが ちょこっと かいふくした!
「えー…………続きまして、ですね……三つ目の施策となるのですが……」
おれたちが撲滅すべき対象である、厄の『種』……それを根こそぎ祓える力を持つ鶴城神宮へと、一人でも多くの人を呼び寄せるための施策。
おれと白谷さんが立てた作戦の中で、最も高い効果を発揮できる――その代償として後には引けなくなる――諸刃の剣であり、また背水の陣でもある……秘策。
これは……おれ自身も喪うものが多い、ほとんど自爆覚悟の捨て身の一手。
「もし…………もし、万が一、何かの間違いで、微粒子レベルで可能なようでしたら……いやダメならダメで問題ないんですが」
「……ノワ、往生際が悪いよ」
「グゥ……ッ! ……えっと、ですね……」
可能であれば切りたくなかった、とっておきの切り札。
文字通りそのままの意味での……完全な悪足掻き。
「年末年始……まぁ、つまりは……初詣のタイミングですね。…………もし、もしまだ巫」
「あぁ、助勤かな? 良いね、是非お願いしたい」
「イト募集してる…………えっ?」
「助勤だろ。知我麻、どうだ?」
「……ううむ…………ワカメ殿、大変失礼ですが……御歳は?」
「ノワはこう見えて三十越えてるから、ちゃんと成人だよ」
「ちょっ!?!??」
「なら何も問題無いな。ワカメ殿程の神力と思慮の持ち主ならば、手間も在るまい」
「成程。……龍影殿の御墨付きも有るならば、私としても異存はございませんな」
「ホラやっぱり。よかったね、ノワ」
「白谷さん……!! ああ、もう……」
幸運なことに、鶴城神宮のツートップの御墨付きを賜ったおれは……外見年齢こそ十歳だが設定年齢は百歳、実年齢も三十代であることから年齢制限も無事に突破し、晴れて年末年始の巫女助勤の内定を賜ったのだった。
「……というわけでですね。…………すみません、お見苦しいところをお見せしました」
「いやいや、可愛らしいものだよ。……しかし、ワカメ殿が直々に動く訳だ。実際の処、効果は見込めるんだろう?」
「えっと……まぁ、はい。……わたしは見た目がコレですから、良くも悪くも人目を引きます。髪も黒髪とは程遠いですし、エルフのコスプレ……という形になってしまうので、鶴城さんに相応しくないかもしれませんが」
「そこはご心配なされませんよう。……実を申しますと、今年は異国出身の子も何名か採用しております。『らしくない』と云われれば、既に『らしくない』状況ですので」
「えっと……お心遣い、痛み入ります。……まぁ、わたしは幸い……というべきでしょうか。この耳がなかなか話題性があるらしいので……年末年始、わたしが鶴城さんでアルバ……えっと、助勤? させて頂けると告知すれば、何人かは確かめに来てくれるんじゃないかなぁ……とか」
「確認ですが、ワカメ殿……その御耳は『コスプレ』という体で宜しいのでしょうか」
「……そう、ですね。不謹慎かもしれませんが、そうゴリ押しさせて頂いた方が混乱も少ないかな……と」
「承知致しました。それでは失礼ながらワカメ殿の情報を……動画配信者が助勤に加わると、巫女衆にも助勤の子らにも通達を通しておきましょう」
「すみません……和を乱すようで」
いちおう、お偉方の許可を取り付けたとはいえ……おれ自身深く考えるまでもなくわかるように、今のおれの容姿はお世辞にも巫女さんっぽいとは言えないだろう。
無理矢理良く言おうとすれば……新ジャンル、だろうか。悪くというか、普通に言えば……異質。
何しろ……緑髪で、エルフ耳で、見た目十歳の巫女さんなのだ。
シロちゃんのような白髪狗耳だったらまだ巫女装束との親和性も高いだろうが……エルフも緑髪も、どちらかといえば西洋系の特色だ。日本文化を背骨とする御伽草子には、エルフ耳なんて登場する機会はそうそう無い。ぶっちゃけ、そぐわないだろう。
日本文化の粋ともいえる神社仏閣に、西洋由来の存在がシレッと紛れ込む。そのことに少なくない申し訳なさを抱くおれだったが……意外というべきだろうか。チカマさんは相変わらずの穏やかな笑みを湛えたまま、あっけらかんと言ってのけた。
「我々も生き残りに……新たな顧客、特に若者世代の取り込みに必死でして。いわゆるサブカルチャー……漫画やアニメ絵を取り入れる社も少なくありません。絵馬や御神籤、御守り等……御朱印帳にアニメ絵を採り入れた寺院もありますので」
「あっ、聞いたことあります。……気にはなっていたんですけど」
「ええ。そうでしょう。現金なものですが……若者に受けるというのであれば、新たな試みも積極的に推し進めるべきだと考えております。今回のことも、その一環と捉えて頂ければ」
「……変わろうと、してるんですね」
「ええ。……文化も、働き方も、流行も変わり行くように……信仰の形もまた、変わっていくべきでしょう」
実際のところ、不安の全てが解決したわけでは……もちろん無い。
だがしかし……古き良き時代の文化に固執し、そのまま保全するのではなく。今の……そしてこれからの時代の人々ために、あの手この手を尽くそうと考えてくれている鶴城さんのためにも。
おれは……おれ自身のちっぽけな恥じらいも、これっぽっちの役にもたたない自尊心も、これまで未練がましくしがみついてきた常識も、この案件のために全部投げ捨ててやろうと……
全身全霊で取り組んでやろうと、そう心に決めたのだった。
お付き合いありがとうございます。
最後駆け足でしたが、神宮編ひとまずこれ迄となります。
致らなさ故に思っていた以上に話が停滞してしまい、ご迷惑をお掛けしました。
また十九時頃にもう一本更新します(ねぼうしなければ)